2014 Fiscal Year Annual Research Report
酸素同位体比を用いた新しい木材年輪年代法の高度化に関する研究
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26244049
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Research Institution | Research Institute for Humanity and Nature |
Principal Investigator |
中塚 武 総合地球環境学研究所, 研究部, 教授 (60242880)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
木村 勝彦 福島大学, 共生システム理工学類, 教授 (70292448)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 木材年輪 / 酸素同位体比 / 年輪年代学 / セルロース / 考古学 / 年代決定 / 日本 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、木材年輪に含まれるセルロースの酸素同位体比の経年変動の測定とその標準変動パターンとのマッチングにより、従来の年輪年代法の対象外であった「広葉樹を含むあらゆる樹種」の「年輪数が数十年以下の樹皮付き木材」について、それらの伐採・枯死年代を決定できる酸素同位体比年輪年代法の技術を、2つの方向で高度化することを目的にしている。 本年度は、第一の課題(年輪酸素同位体比の経年変動の標準パターンの時空間的拡大・精度向上)について、以下の成果があった。1)近畿・中国地方におけるBC2300までの酸素同位体比クロノロジーの延伸、2)東北地方の太平洋側における中世の500年以上に亘る酸素同位体比クロノロジーの新設、3)中部日本における過去3000年間の木材資料の多資料重複測定による酸素同位体比クロノロジーの高精度化である。その結果、日本において、縄文時代中期から現在までの木材年輪年代の決定可能な範囲が、飛躍的に拡大するとともに、酸素同位体比が示す夏季降水量変動に関する膨大な知見が得られた。 第二の研究課題(セルロース酸素同位体比の年層内季節変動の分析による、年輪数が10年程度の木材の年輪年代決定の可能性の探求)についても、以下の進展があった。1)中部地方のヒノキ、沖縄のマツその他の現生木のセルロース酸素同位体比の季節変動の分析と解析、2)日本各地の気象観測データを用いたセルロース酸素同位体比の季節変動パターンの地域間相同性と年代間相違性に関する統計的推定、3)同一地点に生育する多種類の針葉樹・広葉樹のセルロース酸素同位体比の季節変動の比較による年代決定に向けた戦略の作成である。その結果、酸素同位体比の季節変動パターンは年毎に大きく変化し、年輪数の少ない資料の暦年代決定に有効であることが証明できると共に、樹種毎に季節変動のデータベースを作成する必要性などが確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
年輪セルロース酸素同位体比のマスタークロノロジー(経年変動に関する標準データベース)の全国各地への拡大、縄文時代中期への延伸、多数重複測定による高精度化は、予想以上のスピードで進んでおり、3年間の研究の中で、縄文前期以降の数千年間について、十分に高精度の年単位のクロノロジーが、全国各地で出来上がる見込みがでてきた。その結果、縄文時代の日本を含む世界各地の文明の衰退に大きな影響を与えたとされる4.2Kイベント(4200年前の気候大変動イベント)の詳細が年単位で明らかになってくるなど、さまざまな波及効果が出てきている。 また、季節変動データを用いた、年輪数が10年程度の木材の年代決定についても、現生木などを用いた実験的・理論的検討が進み、弥生時代末期などの特定の時代を対象にした実証研究に入る展望がでてきたので、3年間の研究期間の中で、確実に成果にむすびつけられるものと思われる。セルロース酸素同位体比の季節変動の分析は、考古学や歴史学に貢献できるほか、年輪の無い(樹齢や成長過程が全くわからなかった)熱帯・亜熱帯地域の樹木に、酸素同位体比を用いて「年輪」(乾季と雨季のサイクル)を描くことができるなど、生態学・生理学・気候学にも、革命的な進展をもたらしつつあるので、より多くの関係者の協力が得られつつある。 研究計画全体の初年度である本年度は、膨大にある年輪試料の分析のための、試料処理を担当する実験補助者等の雇用が計画通りに進まず、結果的に120万円余りの残金が発生した。その影響で生じる可能性のあった分析の遅れは、研究代表者と研究分担者自身が実験の基礎的作業に多大な時間を割くことで、何とか回避できた。結果的に論文作成などの成果発表を初年度から大々的に進めることができず、研究成果の公表の大部分が、年度を越えて持ち越されることになったが、それについては、次年度以降に十分に挽回可能である。
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Strategy for Future Research Activity |
予想以上に順調に研究が進んでいるので、基本的に、このままの計画で研究を進める。特に、全国各地の埋蔵文化財関係者の協力を得て、縄文時代から現在までのさまざまな時代の木材資料の系統的な収集と分析・解析に、これまで通り、力を入れると共に、セルロース酸素同位体比の季節変動分析による年輪数の少ない木材資料の暦年代決定については、1)土器などにもとづく考古学的な年代観、2)放射性炭素年代、3)酸素同位体比の経年変動の分析などと組み合わせて、資料の特性に応じた、実践的かつ確実な年代決定の方法論を、具体的に構築して行きたい。 本年度における唯一の問題点であった「実験補助者等の雇用の遅れ」についても、次年度以降は全面的に解決できるように、雇用対象者を十分に確保してきている。本年度に残金として発生した120万円余りの研究費を、次年度に調整金として利用することも含めて、次年度以降の研究費を計画的に実験補助者の雇用等に活用することで、年輪同位体比分析のスピードを更に向上させると共に、研究代表者と研究分担者がそれぞれ分析データの解析と研究成果の発表に専念できる体制を確保する。
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Research Products
(9 results)