2014 Fiscal Year Annual Research Report
嗅覚による味覚変化の時間特性の解明:実験心理学・脳機能計測・動物行動学の統合研究
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26245073
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Research Institution | National Agriculture and Food Research Organization |
Principal Investigator |
和田 有史 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 食品総合研究所食品機能研究領域, 主任研究員 (30366546)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鳴海 拓志 東京大学, 情報理工学(系)研究科, 助教 (70614353)
小早川 達 独立行政法人産業技術総合研究所, ヒューマンライフテクノロジー研究部門, 主任研究員 (70357010)
河合 崇行 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 食品総合研究所食品機能研究領域, 主任研究員 (50425550)
白井 述 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 准教授 (50554367)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 嗅覚 / 味覚 / 感覚間相互作用 / 時間特性 / 発達 |
Outline of Annual Research Achievements |
実験用嗅覚デバイスについては、摂食行動と同期した匂い提示が可能な時間解像度を持つ嗅覚提示装置の開発を行った。エアポンプを用いた嗅覚提示装置と呼吸検知装置と組み合わせることで呼吸状態と同期した匂いの提示が可能な装置を構成した。超音波気体濃度計を利用した提示時間計測実験により、摂食行動との同期としては十分なレベルである数十ミリ秒程度まで提示時間遅れを低減した。さらに、人間の多感覚統合の基礎メカニズムを解明するため、視聴覚刺激を用いた錯視現象を探索した。その結果、聴覚的時間縮小錯覚が生じる場合でも生じない場合でも視覚的な時間判断が聴覚にバイアスされる現象を発見した。 脳機能研究については、味覚と嗅覚が時間的に分離して知覚ができなくなる条件の確認を行った。クマリンを嗅覚刺激とし、食塩を味覚刺激として用いた。 乳幼児研究については、実験装置、試料の調達、実験要員の確保など、実験環境の整備を主な作業として実施した。また、多感覚統合の発達メカニズムの解明のため、視覚的な情報に基づく触覚表象の構成過程について、生後7-12ヵ月児を対象に実験を行った。その結果、視覚情報に基づく物体の固さの知覚は、生後9-12ヵ月の間に漸進的に発達することが示唆された。 動物実験については幼児期のマウスを用いて、天然バニラ香料および天然オレンジ香料の匂いを砂糖水または食塩水に連合学習させた。絶食により甘味欲を亢進させたマウスに対し、香料を混和した2%砂糖水を提示して10秒間に舐める回数を比較解析したところ、バニラ/オレンジいずれの香料でも、連合学習した匂いがついた方が約1.5倍多くなっていた。また、利尿薬投与により塩味欲を亢進させたマウスに対して60mM 食塩水を提示して同様の実験を行ったところ、バニラ/オレンジいずれの香料でも、連合学習した匂いがついていた方が多くなっていた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
嗅覚提示装置として、最初はピエゾ素子を利用したインクジェットデバイスによる装置を試作したが、目詰まりの問題等から心理実験等において長時間利用することが難しいという問題点が示唆された。そこで第二の方式としてエアポンプを用いた嗅覚提示装置を試作した。このような都合から嗅覚提示装置の開発がやや遅れた。 脳機能計測班は、味覚刺激装置において、味覚刺激の実験参加者の舌の先端の通過タイミングを色センサーで計測を行っている(味溶液は赤で着色されている)。この色センサーの出力値を2ミリ秒毎にサンプリングを行い、舌の先端への到着タイミングの推定を行った上で、嗅覚刺激を設定した差になるように提示を行っている。このようなシステムの構築に前年度は実験の準備に予想外の時間と手間がかかってしまった。しかしながら、現時点で2人のデータは取得した。 乳児実験については、視覚による固さ(やわらかさ)知覚の発達についての研究成果は、乳幼児期の味覚や食行動の発達を検討する上で有効な知見となると考えられ、その意味では当初の想定を上回る成果をあげることができた。なお当該の研究成果については、現在査読付きの国際誌に投稿中である。その一方で、主たる研究計画である、発達初期における嗅覚と味覚の相互作用についての研究計画については、実験の準備に当初の想定よりも時間を要したこともあり、進度の遅れが生じている。 動物実験についてはマウスにおいて食経験による匂いと味の関係を示すことができたので、マウスを用いても嗅覚による味覚変化を解析することが可能であると考えられた。しかし、当初の予定では、26年度中にリック試験装置に嗅覚提示装置を取り付け、任意の時間に匂いを出せるような新規装置を開発する計画であった。装置の開発が遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
嗅覚デバイス開発については、現状のポンプ式ディスプレイの挙動を安定させることを目指し、それがある程度達成されたところで筋電による咀嚼のモニター等を付加すること、インクジェットデバイスの開発などを目指す。 心理実験については、開発されたデバイスを用いて、匂いをオルソネーサル経路提示、レトロネーサル経路提示、両者の提示を行ったときの嗅覚による味覚促進の強さを計測する。 脳機能計測についてはクマリンならびに食塩水の組み合わせ、かつそれぞれの時間シフト幅が±800ミリ秒の実験条件で、あと10人程度のデータをH27年5-6月中に取得予定である。そののち、一体感を感じる条件下とそうでない条件下で脳活動部位がどのようにかわるかの検討を行う予定である。 乳児実験については、実際に乳児期から幼児期にかけて、嗅覚刺激の提示が乳幼児の摂食行動にどのような影響をおよぼすのか、具体的には、成人にとってpreferableなニオイとunpreferableなニオイを提示した場合に、それぞれ乳幼児の摂食行動がどのように変化するのかを定量的な指標(特定の食物の単位時間あたりの摂食量などを予定)の測定によって調査を行う予定である。また、本年度に実施した、視覚による固さ(やわらかさ)知覚の発達研究の成果を拡張していくことも重要な課題であると考えられる(視覚以外のモダリティも視野にいれつつ、より幅広い年齢層の子どもを調査する、など)。 リック試験装置に取り付ける嗅覚提示装置の開発とともに、マウスのリック中に味や匂いを変化できるように従来のリック試験装置の溶液供給装置を改良する予定である。このことにより、嗅覚と味覚の時間的関連特性をより詳細に解析する。また、新たな食経験により、匂いと味の連合学習がどの程度持続可能であるかを検討する。
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