Outline of Annual Research Achievements |
昨年度の楕円型理論の大幅な進展を受けて, 多成分が相互作用する方程式系の時間発展の研究を展開した. これらはサンゴ礁や草原・森林での生態系, 幾何的計量の時間発展, 環境科学における長時間拡散, 化学反応の基礎方程式, 化学工学における有害物質除去等への応用研究の側面も持つものである. 本年度の研究によって「孤立系の均質化」という新しい視点が浮かび上がってきたが, これは熱力学の法則に由来する新規な原理として顕著なものと考えている. 生命科学のモデルとしては, 流体の流れの中で走化性と結合によって相互作用する2種類の分子を記述するモデルにおいて時間大域解の存在や爆発を証明した. 生態系を記述する多成分のLotka-Volterra系については, 質量保存とエントロピー増大という熱力学的な構造から, 解が時間大域的に存在して空間均質化する広いクラスを抽出した. 環境科学や化学工学における比較的マクロな状態を記述するモデルも取り上げ, 分数拡散と非線形項との関わりを明らかにし, 外的な制御によって熱量の集中を防止する系の時間大域解の存在と漸近挙動を解明した. 多成分化学反応の基礎方程式では, 解の正値性と各点で成り立つ微分不等式の構造に着目し, 非線形項が2次以下である場合に古典解が時間大域的に存在して, 一意的な空間均質定常状態に指数的に収束するモデルのクラスを確定した. 幾何的計量の時間発展の問題ではポアンカレ予想の2次元版を解決したモデルとして名高い正規化リッチ流を取り上げ, 時間大域解の存在と定常状態への収束を質量保存と自由エネルギー減少を基にした純解析的な証明を与えた. 熱力学の法則のもとで成り立つ物質輸送の基礎方程式であるSP方程式については, 有限時間爆発と無限時間爆発の双方において爆発機構が量子化すること, また定常状態の爆発については自然な形で高次元化されることを示した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度における楕円型理論の確立を受けて, 時間大域解の存在, 解の爆発, 有限時間での爆発機構, 無限時間の量子化など近平衡力学系の解明が順調に進み, 生態学, 細胞生物学, 微分幾何学, 天体物理学, 環境学, 化学工学, 化学反応論のそれぞれの分野で核となるモデルの解析が進んでいる. 本研究と関連して発表した著書は5編に及び, 高い評価と支持を受けている. 解析的な基礎研究でも, スモルコフスキー・ポアソン(SP)方程式における無限時間, 有限時間双方での爆発機構の量子化が解明され, 高次元化の基盤が得られた点で, スケーリングと変分構造に由来する各種の数学原理, すなわち量子化する爆発機構, 循環的階層, 場と粒子の双対性, 非線形スペクトル力学(自己組織化のポテンシャル)の正しさが予定通り確立されてきた. 本年はこれに加えて孤立系の均質化という新しい枠組みが浮かび上がり, 今後の研究の指針となっている.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では, 熱力学的な構造に由来する様々な数学原理を近平衡力学系において解明してきた. これまでのオイラー座標による記述に加えてラグランジュ座標を導入することで, 自由境界の動態や2重層ポテンシャルのスペクトル構造をより明確にする. 次に, 多成分の複雑な相互作用をモジュール化する方法を確立し, 多成分系が備えているロバストネスには核があること, すなわち近平衡力学系における新しい数学原理である「ネットワークからの創発」に取り組む. さらに解の正値性に由来する爆発機構の内在化, すなわち爆発時間を超えて解が時間大域的に接続できることを明らかにする. すなわちこれまでのスケーリングと変分構造に加えて, 動く座標, 多成分系のモジュール化, 正値性による爆発の止揚の3つを新たな数学的方法として, 細胞変形, 生体磁気, 2次元乱流, 生態系の応用研究を展開することで融合させていく.
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