2015 Fiscal Year Annual Research Report
損傷クロマチンダイナミクスとTIP60複合体のアセチル化ネットワークの解明
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26281020
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
井倉 毅 京都大学, 放射線生物研究センター, 准教授 (70335686)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | アセチル化 / TIP60ヒストンアセチル化酵素複合体 / ヒストンH2AX / リン酸化 / DNA損傷応答 |
Outline of Annual Research Achievements |
我々は、これまでにTIP60ヒストンアセチル化酵素複合体によってアセチル化されたヒストンH2AXが、ヒストンH2AXのリン酸化を介したDNA損傷応答シグナルを損傷領域に限局させ、非損傷領域への拡散を防いでいることを明らかにしている。本課題では、H2AXのアセチル化が、如何なる機構でH2AXのリン酸化に対して抑制的に働くのかを示し、H2AXのアセチル化のDNA損傷応答における意義を明らかにすることを目的としている。本年度は、DNA損傷のセンサー蛋白質であるNBS1のDNA損傷領域での維持にTIP60によるH2AXのアセチル化が必要であることを明らかにした。NBS1のDNA損傷領域での維持には、H2AXのリン酸化が必要であることは、すでに明らかにされているが、我々は、DNA損傷に対するH2AXのアセチル化とリン酸化は、互いに独立して起こることを見出しおり、NBS1のDNA損傷部位におけるNBS1の維持に対してH2AXのアセチル化とリン酸化が異なった役割を持つことが示唆された。その一方で、我々は、FRAPとmicro-irradiationを組み合わせた方法でNBS1-GFPと損傷クロマチンとの結合がダイナミックであること、すなわちDNA損傷領域においてNBS1-GFPは結合と離脱を繰り返していることを見出しており、この知見をもとにH2AXのアセチル化とリン酸化が、それぞれNBS1-GFPのDNA損傷領域でのダイナミックな結合にどのような影響を与えるのかについて検討した。その結果、TIP60によるH2AXのアセチル化を阻害した細胞では、NBS1-GFPのダイナミクスが抑制され、H2AXのリン酸化を阻害した細胞では、NBS1-GFPのダイナミクスが阻害されることはなかった。H2AXのアセチル化とリン酸化は、NBS1のダイナミクスにおいて異なった役割を持つことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、TIP60によるH2AXのアセチル化のDNA損傷応答シグナルの活性化における役割をDNA損傷のセンサー蛋白質であるNBS1に着目して明らかにすることができた(Mol. Cell. Biol. 2015)。この研究成果の中では、NBS1は、DNA損傷に応じて損傷部位のクロマチンに結合した後もクロマチンとの結合と離脱を繰り返していることを見出し、H2AXのアセチル化のみが、そのダイナミックな結合に寄与し、H2AXのリン酸化は、NBS1のダイナミクスには関与しないことが明らかになり、H2AXのアセチル化とリン酸化のDNA損傷応答における役割が異なることが提示できた。この点においては当初の目的は達成できたと思う。またTIP60複合体の構成因子であり、TIP60によってアセチル化されることが明らかになっているTBRについても、すでにTBRのアセチル化変異体の作製、およびTBRアセチル化抗体も作製済みであり、その意義を探るための準備は完了している。TIP60複合体の構成因子の中でTIP60によってアセチル化される因子を同定するために、TIP60のアセチルCoA結合部位に変異を導入したTIP60アセチル化変異体(TIPM)の複合体の精製はすでに完了しており、TIP60複合体と共にアセチル化リジン抗体を用いて検討している段階である。アセチル化される構成因子の同定には至っていないが、MS解析の前段階までは進めることができた。また定量プロテオミクスによって放射線障害によるH2AXのアセチル化とリン酸化の定量を行い、異なった細胞でアセチル化とリン酸化の度合いが異なることを明らかにした。従って、研究はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、TIP60によってアセチル化されるTIP60複合体の構成因子の同定をMS解析で進めると共に定量プロテオミクスによって、TIP60によるヒストンH2AXのアセチル化に連動してアセチル化され、線量別に最も変化する因子を同定する。そしてそれら因子のアセチル化とγ-H2AXを介したDNA損傷応答シグナル活性化調節との関連について検討する。具体的には、同定したそれら因子のアセチル化変異体を作成し、TBRのアセチル化、H2AXのアセチル化とリン酸化との関係にその変異体がどのような影響を与えるのかを検討し、DNA損傷領域でのアセチル化増幅システムの存在の有無を確認する。405波長のmicro-irradiationを用いて細胞核内の一部にDNA損傷を与え、アセチル化リジン抗体とγ-H2AX 抗体を用いて蛍光免疫組織学的解析を行い、損傷領域でのアセチル化の状態をγ-H2AXのシグナルと比較しながら検討する。アセチル化シグナルの損傷領域での局在化が確認できれば、γ-H2AXのシグナルとの関係を探るために超高解像度顕微鏡 (3D-SIM) によってさらに詳細に検討する。γ-H2AXのシグナルを取り囲むようにアセチル化のシグナルが観察できれば、アセチル化が、リン酸化カスケードを介してのDNA損傷応答シグナルを損傷部位で限局化させていることの証明になる。この実験をTIP60あるいはTIPM遺伝子発現細胞、またはH2AX WTあるいはH2AX K5R発現細胞で展開し、損傷部位でヒストンH2AX のアセチル化が、トリガーとなり、Acetylation Waveを引き起こし、アセチル化シグナルが増幅していることを明らかにする。
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Causes of Carryover |
本年度に予定していたTIP60複合体の構成因子の中でTIP60によってアセチル化される因子の同定が、予定よりも遅れ、今後、同定した因子およびその因子のアセチル化抗体の作製に費用が必要となった。また作成したアセチル化抗体では、通常の蛍光免疫組織化学的解析では、DNA損傷部位でのアセチル化シグナルの検出がやや困難であり、そのためにH2AXとH2AXのアセチル化の抗体を用いてPLA probeによる検出が必要となってきた。このような理由により繰越しを行った。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
TIP60複合体の構成因子の中でTIP60によってアセチル化される因子の同定のためのMS解析、同定した因子およびその因子のアセチル化抗体の作製、アセチル化シグナルの検出に用いるPLA の試薬の購入に使用する予定である。また人員不足のため研究補助員を短期間雇用するためにも使用したいと考えている。
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Research Products
(23 results)