2015 Fiscal Year Annual Research Report
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26281060
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Research Institution | Otaru University of Commerce |
Principal Investigator |
山本 充 小樽商科大学, 商学研究科, 教授 (30271737)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉田 謙太郎 長崎大学, 環境科学部, 教授 (30344097)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 環境情報 / 行動経済学 / 生態系サービス / 価値評価 / 環境認知 / ヒューリスティックス / 環境勘定 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、人々の環境認知において二重過程理論からヒューリスティック処理が使用されていることを前提としてヒューリスティックス判断がなされた場合に行動主体の現在志向性が影響することの検証を行った。その結果、まず環境認知がメデイアを含め他者からの情報ではなく実感に基づきなされていることを確認した。その上で、環境配慮行動の実践については、人々の節電など省エネ行動やゴミの分別といった日常的に習慣化されている環境配慮行動では現在志向性の影響は見られなかったが、環境教育・学習活動への参加や他者への環境意識の啓蒙など実行コスト感が高い行動については行動を先送りする現在志向性の影響が明らかとなり、実行コスト感を緩和する情報提供やコミュニケーションが必要であることが示唆された。 また、環境配慮行動の一つである生態系サービスへの支払い(payment for ecosystem services:PES)行動(世界自然遺産への入域料の支払い)においては、CVM調査の結果、動植物の保護が環境配慮行動の規定因となり、それがWTPを高める要因であることが明らかとなった。さらに、その行動意図を高める要因としては、行動の場である世界遺産への入域料徴収場所における係員による呼び掛けやゲート設置と係員の常駐など、人の目を意識させて環境保全への協力を公的に表明する機会を設けることで、行動への社会的期待を意識するように促すという社会規範が規定因となっていることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
省エネやゴミの分別など日常的に習慣化されている環境配慮行動では、過去の行動経験が環境認知と行動評価に関するヒューリスティックス判断に活かされており、現在志向性の影響による行動の先送りなどが見られずヒューリスティックス判断が有用に働いていることが確認された。しかし、経験量に乏しくかつ実行コスト感が高い環境学習や環境意識啓蒙行動では現在志向性の影響により行動を先送りする傾向が見られた。 また、生態系サービスへの支払い行動では動植物の保護に対する態度が環境配慮行動の規定因であること、行動意図を高める要因として人の目による社会規範意識が有効であることが確認された。 これらのことから、環境配慮の行動意図を高めるような環境情報やコミュニケーションを行う必要性があることが示唆され、次の段階ではどのような情報やコミュニケーションが行動意図を高めるのか、環境配慮の態度(目標意図)と行動意図との関連性を強めるのかを検証する必要があることを確認できた。 一方、環境の価値評価においては、習慣化された行動や過去の行動経験に基づく実感が評価に影響していることを確認できたが、ゴミのような環境状態が目に見え日常的な行動による実感としてフィードバックされ易い問題は現状が判断基準となっているが、気候変動の影響や海洋の状態のように行動のフィードバックが得られにくく実感として感じにくい問題では判断基準とされている環境状態が不明瞭であると考えられた。このことから、環境リスクの認知や環境問題における社会的ジレンマという視点から価値判断の基準となっている事柄を明確にして、価値判断によるリスク回避やリスク追求的な行動の可能性を明確にする必要性があることを確認した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究目的である環境配慮行動を促す環境情報のあり方を明確化のため、環境配慮行動について環境配慮の態度を形成する環境認知、環境配慮行動を形成する行動意図、および環境配慮の態度と行動意図の関連性を強化する要因について認知モデルに基づき規定因を探る調査を行い、規定因に関する情報のあり方については解釈レベル理論の援用により心理的距離を変化させて環境配慮の態度、行動意図、および両者の関連性を強化できる情報内容やコミュニケーション方法について分析を行う。具体的にはコンジョイント分析において解釈レベル理論を適用して時間的、社会的、空間的、仮説性などの心理的距離を変化させ、価値評価への影響を分析する。 また、価値評価の基準となる環境状態などについては、プロスペクト理論における価値関数による利得と損失領域への環境変化を想定した実験的方法により調査を行い、基準となる環境状態の違いによるリスク回避やリスク追求的行動の可能性を分析し、認知的バイアスの存在や行動パターンが及ぼす環境配慮行動への影響を考察する。 さらに、環境配慮行動に関する環境認知や行動意図に関して、沖縄県におけるサトウキビ農家を対象として調査を行い、認知モデルに基づき規定因を明らかにし、一般市民との比較により態度形成や行動意図の違いを分析して農家の知識や知見を市民にフィードバックすることによる市民の環境配慮行動への影響を考察する。これにより一次産業と市民の間における生態系サービスがもたらす便益が共益として認識されるコミュニケーション方法を検討することが可能となる。 さらに環境勘定の枠組みに関しては、北海道環境基本計画では計画の進捗状況の指標として位置づけられている環境指標群を用いて、道民の環境評価や環境認知への寄与度を明確する調査を行い、道民の環境配慮行動のPDCAサイクルに活かせる環境指標のあり方と環境勘定による提供可能性を明確にする。
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Causes of Carryover |
一次産業従事者の環境認知についてサトウキビ農業を対象に先ずヒアリング調査を行い、その結果に基づき質問紙調査を実施するため農繁期を避ける目的で次年度に質問紙調査を延期したこと、また、環境認知に関する今年度の調査結果からプロスペクト理論の価値関数に関する質問紙調査に関して、リスク回避とリスク追求に関する質問と同時に環境認知と環境配慮行動に関する行動意図を認知モデルを適用して調査し、規定因を特定する必要が生じたことからWEB調査を次年度に延期したため次年度使用額が発生することとなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
温暖化問題などグローバルな環境問題とゴミ問題などローカルな環境問題について、認知モデルに基づく環境配慮態度、環境配慮の行動意図、および両者の関連性強化要因を明らかにすること、同時にプロスペクト理論の価値関数に関して異なる環境状態に対する環境改善や環境悪化という変化方向に対する価値評価をWEB調査により行うために使用する。 また、サトウキビ農家と一般市民を対象として認知モデルに基づく環境配慮行動の規定因を明らかにして、環境情報の交流による生態系サービスの便益を共益として認識できるコミュニケーション方法を検討するための質問紙調査を行うために使用する。 さらには、北海道環境基本計画における環境指標に対する道民の受けとらえ方を明らかにするためのWEB調査を行うために使用する。
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Research Products
(16 results)