2014 Fiscal Year Annual Research Report
幼児の音韻障害と成人の外国語訛りに関する音声学・音韻論的研究
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26284058
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
上田 功 大阪大学, 言語文化研究科(研究院), 教授 (50176583)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松井 理直 大阪保健医療大学, 保健医療学部, 教授 (00273714)
斎藤 弘子 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (10205669)
田中 真一 神戸大学, 人文学研究科, 准教授 (10331034)
郡 史郎 大阪大学, 言語文化研究科(研究院), 教授 (40144539)
安田 麗 大阪大学, 言語文化研究科(研究院), 助教 (60711322)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 構音障害 / 外国語訛り / 音声学 / 音韻論 / 言語獲得 / 音韻習得 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は幼児の構音障害と成人の外国語訛りを比較対照して、これらを音声学的、音韻論的に検討し、人間の逸脱発音のメカニズムに迫ろうとするものである。以下に昨年度の研究代表者と分担者、および連携研究者の実績をまとめる。 幼児の構音障害について、松井は構音障害の一因である摩擦音源の性質とターゲットとなる発音と関係しないと考えられている調音点の付加について実験的な研究を行った。前者については音韻素性の不完全指定と関係を持つこと、後者については閉鎖性をより正確に確保するための調音運動であることを明らかにした。上田は構音障害体系を音韻論から考察し、音逸脱のパターンと自然言語の平行性を明らかにした。 外国語訛りに関しては、郡がプロソディーについて、上級の日本語学習者に残る訛りのひとつである助詞・助動詞のアクセントと長い複合語のアクセントの不完全性を考察した。このようなアクセントの全体像,実際の音調形の導出方法をわかりやすく示した資料はこれまでなかった。刊行は2015年度になるが,この2点に関して実用性を意識しつつまとめた資料を作成した。同じく,上級日本語学習者の音声面で運用能力の向上に有益と思われる資料として,日本語の文末イントネーションの使い方を実例とともに示したマニュアルを作成した。斎藤は、日英語のプロソディーの訛りに関する研究を準備する段階で、日本語と英語のプロソディーの対照研究を行い、問題点を整理することができた。また、日本語話者で英語学習者でもある学生の音声データを収集した。さらに田中は、日本語母語話者のイタリア語子音長の知覚に、イタリア語の強勢に起因する子音持続時間と日本語側の音韻制約といった、L1、L2両方の要因が関与することを明らかにし、生成(外国語訛り)および実在借用語との関係を提示した。また連携研究者の迫野は、読み困難児童の問題点を音韻論から考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本計画の目的は、幼児の構音障害と成人の外国語訛りという、異なったnon-primary言語の音韻体系を分析することによって、人間の逸脱発音の範囲を検討しようとするものである。当然研究対象は幼児の構音障害と成人の外国語訛りの二分野にまたがり、アプローチも音声学と音韻論の両面になる。また具体的な分析対象は、分節音とプロソディーの両分野にまたがることになる。 初年度である26年度の計画は、まず次年度以降に参照可能なデータベースを構築するため、できうる限り逸脱発音のデータを広範囲に収集することであった。この点に関しては、幼児の構音障害について、松井と上田が障害児のデータを収集している。また連携研究者の迫野は、読み困難児童のデータを相当量収集した。また郡は外国人日本語学習者のプロソディーに関するデータを収集しており、さらに斎藤、田中は、それぞれ日本人英語学習者とイタリア語学習者の発話データを収集した。さらに安田は現在日本人ドイツ語学習者の音節構造に注目したデータ収集をおこなっている。このようにデータに関しては、質的に興味深いデータが集積されつつあると評価できる。今後必要とされるデータは、構音障害にあっては、音節、モーラ、アクセント等、プロソディーに関するもの、そして外国語訛りにあっては、分節音の置換、脱落等に関するものである。 次にこれらのデータの分析に関してであるが、上述したように、接近法は音声学的なアプローチと音韻論的なアプローチの二通りがある。松井と郡、安田は、音声学的なアプローチを取り、被験者のデータに対して音響分析をおこなった。また斎藤は調音音声学的な視点で考察をおこなっている。それに対して上田と田中は音韻論的なアプローチをおこない、特に上田は、最適性理論による類型論的な検討を行っている。このように、接近法に関しても、音声、音韻の両面でバランスのとれたものとなっている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の最終的な目標は、幼児の構音障害と成人の外国語訛りの両面から比較対照して、これらを音声学的、音韻論的に検討し、人間の逸脱発音のメカニズムに迫ろうとするものであった。これを成し遂げるために、研究期間である4年間の間に、各研究分担者および連携研究者は、現在の研究対象から、漸次的にこの目標に適う対象にシフトしていくという計画を立ている。例えば郡の直接的な専門は、日本語のプロソディーであるが、分析対象を拡張し、外国人日本語学習者の誤発音の分析をおこなっている。ドイツ語音声学が専門である安田も同様である。また松井は本来日本語を母語とする者の音韻現象を音響分析してきたが、今後構音障害児の音韻体系へと分析対象を広げる予定である。田中は本来日本語のアクセントを中心に研究を進めてきたが、今後は日本語話者のイタリア語訛りへと分析を広げる予定である。また斎藤と上田は本来外国語訛りと構音障害が専門であったので、これをさらに発展させる予定である。 本年度は各自の専門から逸脱発音の研究へとさらなる展開が期待されるが、特に実施2年目であることを考えて、海外研究者の助言を得る予定である。具体的には、外国語訛り(second language phonology)研究の第一人者である、Fred Eckman、Wisconsin大学教授を、8月に開催される日本音韻論学会の年次大会に招聘し、講演を依頼し、その機会に本プロジェクトに関連するアドバイスを受ける予定である。また構音障害の方は、まだ未定であるが、これもこの分野では第一人者の、Daniel Dinnsen、Indiana大学名誉教授の来日を要請している。また本年度から来年度にかけて、海外研究協力者の来日の都合に合わせて、ミーティングを設け、個別の研究に対する助言を得ると共に、セミナーなどを開催し、本プロジェクトの成果の発信を開始したい。
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Causes of Carryover |
昨年度海外研究協力者を招聘する予定であったが、都合により来日が不可能になったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度に招聘し、講演もしくはセミナーをお願いする予定である。
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