2015 Fiscal Year Annual Research Report
軍事史的観点からみた18~19世紀における名誉・忠誠・愛国心の比較研究
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26284089
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
谷口 眞子 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (70581833)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小松 香織 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (10272121)
丸畠 宏太 敬和学園大学, 人文学部, 教授 (20202335)
柳澤 明 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (50220182)
鈴木 直志 中央大学, 文学部, 教授 (90301613)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 名誉 / 忠誠 / 愛国心 / 軍隊 / ナショナリズム |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、パリ第一パンテオン・ソルボンヌ大学教授で、フランス革命史研究所所長でもあるピエール・セルナ氏を招聘して、講演会「現代社会とフランス革命」(コメンテーターは東欧史、司会は近世フランス史)と、国際シンポジウム「革命と軍隊―明治維新・辛亥革命・フランス革命の比較からみえてくるもの―」(他の報告者は幕末史と中国史で、司会は近代ドイツ史)を開催した。また埼玉大学での講演会(コメンテーターはフランス革命研究者3人)に共催で参加した。 講演会は、西山暁義「反独=親仏、親独=反仏?ドイツ帝国のアルザス・ロレーヌと「愛国心」」、福間良明「「戦争の社会学」の視角:社会学と歴史学の境界領域とその諸相」の2回、開催した。さらに若手研究者育成のために、斉藤恵太「近世バイエルンにおける軍務官の名誉と忠誠―役人と軍人、領邦君主と皇帝のはざまで」と題する若手セミナーも開いた。 合宿は、2回行った。会津若松市に残る戊辰戦争戦没者慰霊の踏査を行い、戦没者慰霊について論文や本を書いている研究者を招聘して、レクチャーを受けた。また鹿児島市内に残る西南戦争に関する史跡と熊本県田原坂の現地踏査、知覧の特攻平和会館・万世の特攻平和祈念館を比較して回り、田原坂西南戦争資料館では学芸員よりレクチャーを受けた。戊辰戦争と西南戦争に関する現地踏査により、幕末から明治10年までに起きた戦争について、知識を共有することができた。なお、保土ヶ谷のイギリス連邦墓地で行われたアンザック慰霊祭にも参加した。 科研集会は7回開催した。主に活動報告、計画立案、国際シンポジウムのプレ報告、セルナ氏との打ち合わせや原稿化の相談、平成28年度の国際シンポジウム招聘者やコメンテーター・報告者の相談などである。なお、中国、ドイツ、フランス、トルコに1人ずつ派遣して史料調査も行った。 平成27年度は当初の計画以上に、研究を進めることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
ピエール・セルナ氏を招聘した講演会と国際シンポジウムには、2日間で200人近くの聴衆が参加した。また、講演会についても、毎回25~30人が来場して、講演後の討論は2時間以上かかっても終わらないほどである。その意味で、本科研の研究テーマが徐々に共有されつつあるといえる。早稲田大学高等研究所の人文科学分野における研究プロジェクトとして共催したことにより、そのホームページを利用して講演会やシンポジウムのお知らせを広報することができたのも、大きな助けとなった。 ピエール・セルナ氏の講演は『日仏歴史学会会報』に、国際シンポジウムの記録は『早稲田大学高等研究所紀要』第8号に掲載して公表した。とくに、『早稲田大学高等研究所紀要』は紙媒体だけでなくweb版もあり、報告要旨は英語で書くことになっているので、活動記録としては望ましいといえる。 平成28年度には、トルコのイスタンブールからオスマン帝国の軍事史を専門にしている研究者を招聘して、講演会ならびに国際シンポジウムを行う予定である。平成27年度の講演会・国際シンポジウムの際の経験を活かして、招聘候補者への交渉を早めにはじめ、決定後もシンポジウムの報告者やコメンテーター、司会者の人選、翻訳や逐次通訳の手配など、メンバーで手分けして協力できたため、1月末には講演者とコメンテーター、シンポジウムの報告者、逐次通訳者、司会者、翻訳者などをすべて確定することができた。国際シンポジウムは、報告者の組み合わせと司会の誘導、それによる活発な討論に開催の妙があり、それは経験を重ねて会得できるものであると感じた。そのためには、発想や議論が共有されねばならず、その意味で時間がかかるものでもある。日本史・東洋史・西洋史という枠組みを超えて、自由に意見交換ができるプラットフォームとして、本科研が機能しつつある段階にきたと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
科研に応募した時点では、平成28年度に、複数の国から研究者を招聘した国際シンポジウムを考えていた。しかし、使用言語を英語で統一しない場合、二カ国語の通訳を三人以上確保しなければならず、質疑応答の時間も十分取れなくなってしまうことから、その計画を見送った。そして、講演会や国際シンポジウムで出会うことがほとんどないトルコ人研究者を招聘して、講演会と国際シンポジウムを開催することにした。現在のトルコを取り巻く政治情勢は厳しいものがあるが、それもまた蓄積された歴史に要因がある。その意味で、本科研は18~19世紀を主な対象としているが、現代社会と過去の歴史がいかにつながっているか、そして過去の歴史や政治・軍事が、いかに人々の心性にかかわっているかを考える企画となろう。 講演会は招聘者のユルドゥズ氏が、オスマン帝国(1792~1918)における軍人の精神と市民権の構造について講演(コメントは近代ドイツ史)する。国際シンポジウムは、オスマン帝国からトルコ共和国への転換とともに、軍事的エトスがどのように変容したのかを報告してもらい、日本近代史とロシア史の報告と組み合わせる。ドイツ、ロシア、トルコ、そして日本を対象に、軍隊あるいは軍事力がどのような位置にあったのか、それが近代移行期にいかなる影響を及ぼしたのかを考察し、軍事史的観点からみた18~19世紀の比較史としたい。 そのほかの講演会には、現在10人を超える候補者があがっているため、その中から誰に依頼するか相談する。また合宿地についてもいくつか候補があがっており、これについても国際シンポジウムの準備と平行して決めていきたい。 平成28年度は最終年度なので、海外での史料調査は行わず国内のみとする。これまでの史料調査をもとに研究成果を発表して、今後の研究計画策定につなげたい。
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Causes of Carryover |
平成27年度にセルナ氏を招聘して行った講演会と国際シンポジウムは、早稲田大学高等研究所との共催で行った結果、大隈講堂小講堂と小野記念講堂の使用料が無料になり、補助業務を職員が担当したので人件費がかからず、ポスターのデザインやレジュメ印刷も無料でできた。その他の講演会と科研集会も、すべて早稲田大学の会議室を使用したため、会議室料は無料となった。また、専用のホームページ作成は、このプロジェクトが3年間しかないことから見送った。早稲田大学高等研究所のホームページや軍隊と社会の歴史研究会のメーリングリストを利用して、講演会やシンポジウムの開催を知らせていることから、研究会活動の広報に問題はないと判断した。なお、国際シンポジウムについては、パワーポイントの原稿を科研メンバーが翻訳し、通訳も専門業者ではなくフランス語に堪能な大学院生に依頼したため、謝金が節約できた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
トルコから研究者を招聘して、講演会と国際シンポジウムを開催するほか、講演会を複数回開催し、国内の史料調査にもでかける予定である。さらに、18~19世紀の軍事関連博物館や史跡の踏査を、2回計画している。
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Research Products
(20 results)