2014 Fiscal Year Annual Research Report
日本中世「地下文書」論の構築-伝来・様式・機能の分析を軸に-
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26284098
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
春田 直紀 熊本大学, 教育学部, 教授 (80295112)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐藤 雄基 立教大学, 文学部, 准教授 (00726573)
薗部 寿樹 山形県立米沢女子短期大学, その他部局等, 教授 (10202144)
小川 弘和 熊本学園大学, 経済学部, 准教授 (10320417)
榎原 雅治 東京大学, 史料編纂所, 教授 (40160379)
湯浅 治久 専修大学, 文学部, 教授 (70712701)
高橋 一樹 武蔵大学, 人文学部, 教授 (80300680)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 中世地下文書 / 村落定書 / 地下帳簿 / 荘官文書 / 岡田家文書 / 大嶋・奥津嶋神社文書 / 秦文書 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は、以下の4点にわたる研究活動で成果を挙げることができた。 1 データベースの作成と分析:村落定書、地下帳簿、「岡田家文書」(荘官文書)のデータベースを作成し、その分析により各文書類型の形態・様式・機能・伝来に関する特徴を明らかにした。 2 中世地下文書の原本調査:平成26年9月に滋賀大学で、大嶋・奥津嶋神社文書の原本調査を16名が参加して実施した。村落定書、売券・寄進状、日記から10点ずつを選定し、各文書の形態・様式・機能・伝来を事前に検討した上で原本調査に臨み、検討課題の検証と原本観察による記録作業を行った。本調査の成果は研究協力者の協力により原稿化した。平成27年2月には京都大学で、浦刀禰家伝来の秦文書の原本調査を12名が参加して実施した。紛争解決関係文書11点と各種文書類型10点とを選定し、各文書事前検討、原本に基づく検証と観察記録作業を行った。 3 中世地下文書研究会の開催:平成26年5月に武蔵大学で一般公開による第1回中世地下文書研究会を主催した。まず春田直紀が本科研の研究目的について述べた。次に薗部寿樹が「中世における村落定書の成立と変遷」という研究報告を行った。ついで、研究分担者各自が研究方針、研究代表者がデータベースの作成方法を示し、意見交換をした。第2回中世地下文書研究会は平成26年10月に京都市の機関紙会館で開催した。研究協力者の熱田順氏・朝比奈新氏・似鳥雄一氏が大嶋神社・奥津嶋神社文書の原本調査成果、大村拓生氏が岡田家文書の構成と特質、山本倫弘氏が中世前期の「給主」と在地社会に関する報告を行った。 4 「ムラの戸籍簿」研究会シンポジウムの後援:平成27年3月に立命館大学で開催された「ムラの戸籍簿」研究会シンポジウムを後援した。本科研からは春田直紀が登壇し、「中世のムラ研究と史料論」と題する報告を行い、「ムラの戸籍簿」研究会との研究交流を図った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的に掲げた、「地下」の諸階層が作成・伝来した文書を分析し、それらの相互比較を通して中世「地下文書」の全体像を浮き彫りにしていくという課題については、以下の点からおおむね順調に進展していると判断される。 1 村落定書のデータベースはほぼ完成し、その分析による論考(薗部寿樹「中世における村落定書の成立と変遷」)を公表した。荘官文書はその代表例である岡田家文書の目録を完成させ、岡田家文書の構成と特質についての研究成果は研究会で発表した。紛争解決文書については秦文書を対象に検討した。地下帳簿はデータベース作成を開始するとともに、大嶋・奥津嶋神社文書や秦文書でも検討を加えた。浦刀禰家文書はその代表例である秦文書を対象に各類型文書の特徴を明らかにした。土豪名主文書については徳島県所在の中世文書を対象に検討を開始している。 2 「地下文書」の原本調査については、大嶋・奥津嶋神社文書と秦文書を対象に実施し「地下文書」の各類型ごとに伝来・様式・機能の特質を明らかにするとともに、原本調査を踏まえないと確認できない知見を得ることができた。大嶋・奥津嶋神社文書の調査成果は研究会で発表後、原稿化した。秦文書調査の成果も平成27年度に発表し、原稿としてまとめる予定である。 3 本科研による研究成果の発信は、2回主催した中世地下文書研究会を通して行った。また、「ムラの戸籍簿」研究会のシンポジウムを後援し、中世のムラ研究と史料論との架橋を意識した研究交流も図ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
データベースの作成と分析については継続するが、日本中世「地下文書」の全体像を浮き彫りにすることが目的なので、データベース作成自体を自己目的化せず、原本調査の成果や共同研究の議論のなかから出てきた分析視点を活かし、検証課題を念頭においたデータベースづくりに努める。「地下文書」の原本調査は引き続き、厳選した対象文書を深く検討し、問題発見的な調査を試みていく。共同研究成果の発信は、年2回中世地下文書研究会を公開で開催することで進めていくとともに、研究代表者・分担者・協力者が中世地下文書をテーマに共同執筆する論集の準備に着手し、本科研期間中の刊行を目指す。共同研究の計画立案や論集の編集、議論の深化を図っていくために、文書調査期間中と研究会の開催にあわせて年3回程度メンバー会議を開催し、共同研究を推進していく。また、中世史や地域史の研究グループとも研究交流するなかで、共同研究を活性化させていきたい。さらに、日本中世の在地研究に関心がある若手研究者を研究協力者として積極的に登用し、この分野の人材育成に努めていくことにも力を入れる方針である。
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