2016 Fiscal Year Annual Research Report
階層問題としての団地高齢化の構造解析-計量分析とアクションリサーチの適用
Project/Area Number |
26285125
|
Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
与謝野 有紀 関西大学, 社会学部, 教授 (00230673)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
林 直保子 関西大学, 社会学部, 教授 (00302654)
江川 直樹 関西大学, 環境都市工学部, 教授 (20388416)
高瀬 武典 関西大学, 社会学部, 教授 (90187956)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 高齢化 / 社会階層 / 団地 / 水平移動 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度に実施した調査のデータの解析を進め、さらに、フィールドワークで補足的な調査を行うことで以下を明らかにした。 当該地域において、戸建て住宅と集合住宅の間に、階層的な差異ばかりでなく、地域に対する愛着、居住の継続、地域への満足度などに大きな差がみられる。また、集合住宅では、地域全体への共同の意識が相対的に低い状態にある。さらに、戸建て住宅においても、地域全体の共同意識について差異のある層が形成されており、意識の分断がある。 若い世代の地域に対する評価は、子供の遊び場などについて不満が多い一方、地域の安全確保については極めて高いものとなっている。こうして、子供の安全確保を通じた、世代間の共同が進んでいる。この共同は、他の地域にくらべてきわめて高いものとなっている。 また、集合住宅などで、所得の低い階層において、移動したいが移動できないという状況が現出しており、集合住宅の高齢者にこのような課題が典型的となっている一方、若い層でも同様の状況が出現しつつある。地域全体の高齢化は、戸建て住宅地を含む全体的な階層的低下をもたらしている。すなわち、手入れのされていない住居が増え、利用されない公園が増加し、これらを背景に、土地の値段の低下が生じている。この知見は、団地高齢化が二つの階層問題を含むことを示唆している。一つは、ミクロな個人の階層問題であり、水平移動ができない層があること。二つは、このような水平移動ができない層を前提に、地域への若年人口の流入が阻害され、地域全体としてのマクロな階層が低下することである。この二つの課題は、相互に強化する構造を持っており、地域が維持できない状況が近い将来的に生じる可能性がある。かつ、この点は、当該地域に特別なものとは考えられない。 ただし、当該地域では世代間を超えた共同の萌芽があり、全国的に先進的な解決モデルとなる可能性がある。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
調査データの解析結果を踏まえ、地域で報告会を行うとともに、行政と連携した研究会を定期的に開催するなど、地域の現状分析に加えて、地域の課題解決の方途を具体的に探る活動が展開している。本研究は、地域課題を見つけるだけでなく、地域の問題を解決する提案をすることを含んでおり、この点できわめて順調といえる。 一方、調査法の開発については、フィールドワークデータの解析が途上にあり、内容分析の支援システムの利用などに若干の課題がみられる。とはいえ、この課題も、コーパスの蓄積にともなって解決しつつある。 これらの理由から、おおむね順調に進展しているといえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの分析から、地域の課題を解決するためには、機能分析を必要との知見にいたった。機能分析については、一時、その有効性が理論的に否定されるといったことが生じたが、その理論的な議論の妥当性については問題があることが研究会内部で議論され、機能分析の有効性、必要性について検討に入ることとなった。 今後については、団地の存続のための機能要件を整理することとし、さらに、その機能を実証的に、ミクロな課題、マクロな課題の両者について、実証的に明らかにする。 そのため、追加的な調査を実施し、さらに聞き取りによるコーパスを充実させるとともに、マクロデータからマクロな階層変動についても明らかにすることとしている。 また、地域課題の解決の方途について、含み資産としての公園の利用を含めて提案する。
|
Causes of Carryover |
これまでに実施した調査データの解析と、それに基づく行政との共同研究会から、さまざまな地域課題が見え、この点の質的情報を収集するためにフィールドワークの実施に重点をおいた。また、このフィールドワークの結果は、豊富な情報を含み、質問紙調査を用いた調査の当該年度における実施が方法的に冗長となったため、質問紙調査の実施を次年度に繰り越すこととした。 これは、研究が順調に進んだために生じたものであり、次年度に行う予定の質問紙調査をより一層充実させることが可能との見込みによっている。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
主に二つの調査に使用する。 1.業務委託により、当該団地で追加調査を実施する。 2.大阪市内の他の団地居住者との比較を行うために、フィルターをかけたインターネット調査を実施する。
|