2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
26285211
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
渡辺 慶一郎 東京大学, 学生相談ネットワーク本部, 准教授 (10323586)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
苗村 育郎 秋田大学, 保健管理センター, 教授 (00155988)
佐々木 司 東京大学, 教育学研究科(研究院), 教授 (50235256)
布施 泰子 茨城大学, 保健管理センター, 准教授 (60647725)
水田 一郎 大阪大学, 保健センター, 教授 (20273641)
金子 稔 信州大学, 総合健康安全センター, 講師 (50571858)
丸田 伯子 一橋大学, 保健センター, 教授 (50343124)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 発達障害 / 自閉スペクトラム症 / 注意欠如多動症 / 大学生 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)本邦大学における発達障害学生の頻度推定について 5カ所の大学にて授業や健康診断の機会を活用して,AQ日本語版(Autism Spectrum Quotient Japanese version: AQ-J),ASRS(Adult ADHD Self Report Scale; ASRS-v1.1)などの質問紙調査を行った.本邦で最も多くカウントされている発達障害は自閉スペクトラム症であるため,その自記式スクリーニングであるAQ日本語版を中心に解析を行った.一般的な大学生2,342名の得点は20.1±7.1であり(平均±標準偏差),単峰性の分布を示していた.先行研究が示した一般成人のカットオフポイントは32点であり,本研究で得られた集団ではそれを超える者は3.1%であった.また,協力大学で把握されている自閉スペクトラム症の「診断あり」群(DSM-5の診断基準を満たす)89名の得点は33.0±6.4であった.ROC曲線を用いて本集団のカットオフポイント推定を行ったところ,26点と低い値であった.大学生の自閉スペクトラム症を適切に把握するためには,AQ日本語版やDSM-5以外のツールを用いる必要があるかもしれない.これらは全国大学保健管理研究集会等で発表した.
(2)発達障害学生の症例調査 複数大学から収集された自閉スペクトラム症や注意欠如多動症がある大学生と,健常ボランティアの臨床データ(WAIS-Ⅲ,AQ-J,ASRS等)を収集している.平成27年度は,修学支援や就労支援が必要だった発達障害学生のWAIS-Ⅲプロフィールを予備的に検討した.修学支援については「言語理解」と「処理速度」の低さが,就労支援では下位項目の「理解」の低さが統計的に有意であった.修学には言語を操作する能力と事務的な作業能力が重要であり,就労支援では一般常識の意味理解が重要であることが示唆された.これらは成人発達障害支援研究会にて発表した.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
(1)本邦大学における発達障害学生の頻度推定について 5カ所の大学にて授業や健康診断の機会を活用して,発達障害に関する既存の質問紙調査を継続した.本邦で最も多くカウントされている発達障害は自閉スペクトラム症であるため,その自記式スクリーニングであるAQ日本語版を中心に解析を行った.一般的な大学生2,342名(男性1,685名,女性657名)の得点は20.1±7.1であり(平均±標準偏差),有意な男女の得点差(男性20.7±7.1,女性18.7±7.1)を有し,それぞれ単峰性の分布を示していた.先行研究が提唱する一般成人のカットオフポイントは32点であり,本研究で得られた集団ではそれを超える者は3.1%であった.一方,協力大学で把握されている自閉スペクトラム症の「診断あり」群(DSM-5の診断基準を満たす)89名の得点は33.0±6.4であった.これらのデータからカットオフポイントの推定を行うため,ROC曲線を描いてAUC(area under the curve)を求めたところ,0.906と高い予測能が示された.ただし,ここから導き出されたカットオフポイントは26点であり,先行研究と比較すると低い値だった.これらの成果は学会で発表し論文化された.
(2)発達障害学生の症例調査 複数大学から収集された自閉スペクトラム症や注意欠如多動症がある大学生と,健常ボランティアの臨床データ(WAIS-Ⅲ,AQ-J,ASRS)等を収集している.現在のところ,DSM-5のいずれかの診断基準を満たす学生は93名,健常ボランティアは54名である.平成27年度は,修学支援や就労支援が必要だった発達障害学生のWAIS-Ⅲプロフィールを予備的に検討した.修学支援については「言語理解」と「処理速度」の低さが,就労支援では下位項目の「理解」の低さが統計的に有意であった.これらの成果は研究会で発表した.
|
Strategy for Future Research Activity |
(1)本邦大学における発達障害学生の頻度推定について 自閉スペクトラム症の自記式スクリーニング法について,既存のAQ日本語版に加えて,全50問から28問を抽出したAQ-Shortと,10問を抽出したAQ-10についてカットオフ値の検討を続ける.既存のカットオフよりも低い値が適切な可能性が前年度に示唆されたが,今後は,(A)診断の精度を上げるためにDSM-5以外の診断システム(ADI-RやADOS-2)の導入を検討したい.また,(B)既存のスクリーニング法は本邦の大学生に特化したものではないため,本研究開発している試作版質問紙の最適化を行う.前年度までの調査では,AQ日本語版とASRSで把握される領域とは異なる特徴を標的にしている可能性が示されている.最終的には,大学生の発達障害を最も良く反映するスクリーニング法によって,当該学生の頻度推定を行いたい.
(2)発達障害学生の症例調査 本調査を進める中で,大学に在籍する発達障害学生が抱える問題は多岐にわたり,修学支援や就労支援に留まらず問題行動や自殺に至る不幸なケースも散見された.また,当初は重要視されていなかった診断閾値以下の発達障害学生が抱える問題も同様であることが分かってきた. 本研究の最終年度では,修学支援と就労支援に絞り込んで解析を進め,前年度で得られたプレリミナリーな結果を再度検討する.それには健常コントロールのサンプル数を増やすこと,また診断閾値下の学生から得られたデータも含めて大学生活の実態に即した解析を行いたい.前年度に加え,発達障害の性質をどの程度自覚しているか(AQ日本語版の得点),注意欠如多動症の性質(ASRSの得点とプロフィール)も含めて多面的に評価してゆく.また,得られた症例の中で,自殺や問題行動を含めたメンタルヘルス上の課題がある発達障害学生にデータ上の特徴があれば発信してゆきたい.
|
Causes of Carryover |
健常ボランティアへの謝金と,研究補助目的の人件費の使用が当初の見積もりよりも少額で済んだため,次年度使用額が生じた.
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究成果を発信するための費用に含めて活用する.
|
Research Products
(16 results)