2015 Fiscal Year Annual Research Report
流星・火球の高精度分光観測と軌道決定による隕石の母天体小惑星探査
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26287106
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
阿部 新助 日本大学, 理工学部, 准教授 (40419487)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 流星 / 小惑星 / 宇宙科学 / 自然現象観測 / 惑星起源・進化 |
Outline of Annual Research Achievements |
メテオロイドは直径がμm~mサイズのダストで,直径が1mを越えると小惑星と呼んでいる。彗星を起源とする流星群は古くからによく知られているが,小惑星を起源とするメテオロイドや隕石については,両者を繋ぐ知見に乏しい。1日に地球に降り注ぐ約100-300トンのメテオロイドの起源についても,その大半は小惑星である可能性が考えられる。2016年現在,1万4千個以上の地球近傍小惑星(Near-Earth Asteroid; NEA)が発見されている。一方,地球上で確認されている隕石は約6万個(そのうち4万個は南極で発見された隕石)あるが,落下の際の流星・火球観測から軌道が求まった隕石は,2ダースに過ぎない。更に,隕石軌道と一致するNEAは未だに見つかっていない。
秒速数10kmの超高速で地球大気に突入する際の流星発光の分光観測により,メテオロイドと地球大気起源の原子・分子とこれらの発光強度の時間変化,励起温度,組成比などの物理状態が推定される。本研究では,超高感度・高解像度カメラと分光器を組み合わせた全天候型の分光・撮像自動観測システムを新規開発し,複数地点から常時観測を行い,年間を通した高品質の流星・火球スペクトルと軌道を得ていくことを計画している(4K高解像度分光カメラシステム(380-900nm)の開発と試験観測を既に実施)。地球に到来するメテオロイドの惑星間空間での起源と分布を,物質と軌道の観点から統計的に初めて把握し,小惑星・彗星などの母天体と地球に衝突する隕石・惑星間塵との関連を解明することが本研究の目的である。また,流星・火球発光の物理化学素過程を理解するための室内での人工流星実験,メテオロイドの軌道を決定するレーダー観測や,望遠鏡を使った流星母天体候補小惑星の観測にも取り組み,幅広いアプローチから地球周辺環境に影響を及ぼす太陽系小天体の起源と進化について研究を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成27年度は,JAXA宇宙科学研究所の共同利用設備「惑星大気突入環境模擬装置」を利用できたため,流星・火球の大気中でのアブレーション過程を分光学的に理解する本研究課題に関する研究を進めることができた。特に実際の隕石を整形して供試体を製作し,真空チャンバー内で流星アブレーション・プラズマを発生させ,紫外-可視-近赤外の分光計測を実施することで,秒速10数km程度の地球大気突発光の時間変化を詳細に調べることができた。本実験で得られた分光の時系列データは,流星・火球の高解像度分光スペクトルを理解する上でも重要な比較データとなっている。また,原子・分子スペクトルの平衡・非平衡モデル計算を可能にしたことで,実験や観測で得られるデータからプラズマ温度や組成比などの物理量を導出する環境が整った。
一方,屋外での流星・火球の観測は,超高感度・超高解像度4Kカメラからのデータを非圧縮でPCに取り込むシステムを2セット構築して,主に主要流星群をターゲットに試験観測を開始することができた。世界で初めてとなる,4K超高解像度での「ふたご座流星群」の分光観測にも成功したが,年間を通して天候不順であり,良質な流星分光データの数は,非常に限られたものであった。また,平成27年度は,大型望遠鏡を使った流星群の母天体候補である小惑星の分光観測を実施した。現在,小惑星と関連流星群の物質・軌道の関連についても調査中である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は,平成27年度に開発を行った超高感度・超高解像度4Kカメラと分光器,制御PCを組み合わせた「全天候・流星分光システム(波長380-900nm領域)」の安定した定常観測を行い,統計的な議論を行えるように流星・火球の分光データ数を増やしていく計画である。また,昨年度十分に行えなかった超高感度・超高解像度4K観測システムの性能評価(感度特性,フラット特性,ノイズ特性など)を行い,新システムの流星分光データ解析手順を確立させて,観測と解析をルーチン化して科学成果へ繋げていく。
一方,隕石火球となるメートル・サイズの岩塊の形成メカニズムとして,自転周期の加速,惑星や太陽接近による小惑星の分裂が考えられるが,流星群母天体候補で分裂が示唆されている地球近傍小惑星の自転に伴う分光観測を,米国ローウェル天文台4.3m望遠鏡を用いて平成27年度に実施し,表層の不均質性(宇宙風化のリセット)を発見した。平成28年度は,この分裂小惑星のペアとなっている小惑星が地球に接近するため,同様の分光観測を実施して,2つの小惑星の分光学的特徴の比較を行い,分裂形成の証拠について研究を進める。
本研究課題では,地球に到来するダストや岩塊を流星や火球の光学・レーダー観測を通して物質と軌道に関する情報を得てきた。まだ十分な観測データの蓄積はないが,平成28年度は,実験―観測を通して得てきた本研究成結果から,流星・火球の起源と進化についての新たな成果を発表していく計画である。
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Research Products
(8 results)