2016 Fiscal Year Annual Research Report
対流圏環状モードの変動メカニズムと予測可能性の解明
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26287115
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
向川 均 京都大学, 防災研究所, 教授 (20261349)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 気象学 / 大規模大気循環 / 予測可能性 / 惑星規模波 / 下方伝播 / 環状モード |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は以下の項目について研究を行った。 1.惑星規模波下方伝播の力学と予測可能性に関する解析:2007年3月初旬に生じた下部成層圏での惑星規模波下方伝播事例の予測可能性と、下方伝播が生ずるメカニズムを解明するため、気象研究所アンサンブル予報実験システムを用いて毎日12UTCを初期時刻とする高頻度のアンサンブル再予報実験を行った。その結果、この下方伝播事例の予測可能期間は約7日程度であることが明らかになった。また、全てのアンサンブル予報メンバーを用いた回帰分析から、下方伝播は、下方伝播が生ずる直前に増幅する上部成層圏極域で順圧構造を持つ惑星規模循環偏差と統計的に有意な関係を持つことが明らかになった。具体的には、この循環偏差はおおよそ東西波数2で、アンサンブル平均予測場とは、東西方向に、ほぼ90度位相がずれた水平構造を持つ。このため、この上部成層圏における循環偏差は、その極性に依存して、対流圏から上方伝播してきた惑星規模波の鉛直構造を変えることにより、惑星規模波が成層圏でさらに上方伝播するか、成層圏から対流圏へ下方伝播するかを決定する。一方、下方伝播の直前に、対流圏にはそれと関連する循環偏差は存在しない。また、上部成層圏における循環偏差は、高度場のアンサンブルスプレッドの第一主成分とほぼ同じ水平構造を持ち、上部成層圏でのスプレッド増幅率は下方伝播直前に極大となることも示された。これらのことは、この循環偏差は、上部成層圏循環の力学的不安定性に起因して自励的に成長する不安定モードであることを強く示唆する。 2.冬季の北極振動(AO)および南半球環状モード(SAM)が亜熱帯ジェットの月々変動に及ぼす影響の解析:再解析データの解析から、AOとSAMの極性が正で、高緯度の西風が強まるときには、亜熱帯ジェットは弱まる傾向があることが示された。また、変動メカニズムについても解析した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度、気象研究所に導入された新しい計算機システムで作動するアンサンブル予報システムを用いて、2007年3月の惑星規模波下方伝播事例について、アンサンブル予報実験を実施することが可能となった。また、気象庁一ヶ月アンサンブル予報結果や長期再解析データを用いた、成層圏循環の予測可能性に関する解析や、NAMの変動メカニズムに関する解析も順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
1.NAM変動下方伝播事例と非伝播事例の抽出と比較解析:解析する事例数を増やすため、衛星観測が始まった1979年から現在までの期間に解析対象を拡げ、長期再解析データを用いて、成層圏突然昇温(SSW)発生後に、NAM変動が成層圏から対流圏に下方伝播した事例(伝播事例)と、下方伝播しなかった事例(非伝播事例)を抽出する。次に、伝播事例と非伝播事例ごとに合成図解析を行い、事例間の特徴や寿命の違いを明らかにし、NAM変動が下方伝播するメカニズムの解明を目指す。また、非伝播事例について、SSWが対流圏に及ぼす東西非一様な影響を解析する。 2.事例の予測可能性に関する解析:抽出した各事例の予測可能性を明らかにするため、気象研究所アンサンブル予報システム(MRI-EPS)を用いて、各事例の前後数ヶ月間についてアンサンブル予報実験を行う。そのために、まず、長期再解析データセットJRA-55を用いて、アンサンブル予報実験に必要な初期摂動の生成が可能となるように、MRI-EPSを改良する。次に、得られた摂動を、ERA-Interim再解析データセットに加え、アンサンブル予報実験を実施する。そして得られた実験結果を用いて、伝播事例と非伝播事例との予測可能期間の違や、その要因を分析する。 3.成層圏擾乱の下方影響の解析:MRI-EPSを用いて、事例毎に、成層圏で与えた初期摂動の時間発展を調べ、成層圏が対流圏に及ぼす下方影響を定量的に吟味する。 4.研究成果の取りまとめ:4年間の研究期間で得られた、環状モードの変動メカニズムと予測可能性に関する知見を取りまとめ整理する。
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Causes of Carryover |
大容量磁気テープ装置を購入し、これまでに実施したアンサンブル再予報実験で生成されたデータの保存作業を行う予定であったが、調査の結果、磁気テープへの保存作業が想定以上に時間が掛かることや、磁気テープ自体に経年劣化が生ずることが懸念されたため、大容量磁気テープ装置の購入をとりやめた。このため、大容量磁気テープ装置の購入費用、および、データ保存作業に関わる謝金分が未使用となり、次年度に繰り越した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度は、外付け大容量Raid装置を購入し、アンサンブル再予報実験結果を自動的にバックアップして保存する予定である。このため、繰り越した助成金は、これら計算機機器類の購入費用や、システム構築作業に必要な謝金に充てる予定である。
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Research Products
(28 results)