2015 Fiscal Year Annual Research Report
植物免疫におけるヒストン修飾を介した遺伝子発現の制御
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26291062
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Research Institution | Nara Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
西條 雄介 奈良先端科学技術大学院大学, バイオサイエンス研究科, 准教授 (50587764)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 植物免疫 / ヒストン修飾 / 遺伝子発現 |
Outline of Annual Research Achievements |
ゲノムワイドのRNA-seq解析によるプライミング標的遺伝子のリスト化を行った。病原細菌Pseudomonas syringae pv tomato DC3000 (Pst) AvrRpm1をETIのトリガーとして、Pst hrpSをPTIのトリガーとして、発芽後4週間ほどのシロイヌナズナ個体の下層の葉に一次接種して、48時間後に上層のシステミック葉に水刺激を与えてから1時間後の発現プロファイルを得て(Illumina Hiseq 2000、シングルエンド100 bpで各サンプル15Mリード以上)、比較解析した。これらのプライミング標的遺伝子をクラスター化したところ、プライミング強度についてETI>PTIの遺伝子に加えてETI<PTIのものや、プライミングの結果、抑制が強固になっている遺伝子も多数同定された。現在、各クラスターの代表遺伝子についてqRT-PCR解析により確認作業を進めている。in silico解析により、プライミング標的遺伝子に有意にエンリッチ(共有)された何種類かのシス配列を見出しており、これらに関する情報集めを進めるとともに生理意義を確かめる実験を考案中である。次に、ETI誘導型のプライミングが低下したPRC2関連の変異体植物を用いて上記と同様にしてRNA-seq解析を行っており、PRC2依存的なプライミング標的遺伝子のリストが間も無く得られる予定である。さらに、ゲノムワイドのChIP-seq解析によってプライミング成立の際のH3K4me3・K3K27me3の標的遺伝子座を同定するため、上述の条件で調製した一次接種48時間後のシステミック葉を、H3K4me3・K3K27me3に対する特異的抗体を用いたChIPシークエンス解析に供する計画で準備を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
大部分が新規のプライミング標的遺伝子(候補)を含む、プライミング成立時のRNA-seq解析プロファイルが得られた(申請者の知る限り、他に報告例はない)ため、今後の研究の推進が大いに計算できる状況になった。標的遺伝子のクラスター化によって、ETIとPTIがシステミックプライミングに及ぼす影響を俯瞰的に捉えることのみならず、様々な応答パターンを代表する標的遺伝子のリストが得られた。その後、当初の提案は変更して、それらの遺伝子産物のシステミック免疫における機能の解析よりは、むしろプライミングの成立基盤に迫る上で有用なマーカー遺伝子の選定やプライミングに重要なシス配列の同定を優先して進めている。遺伝子発現制御における役割が報告されている、いくつか興味深いシス配列がプライミング標的遺伝子のクラスターごとにエンリッチされているのを見出しておりそれらに着目している。続いて、PRC2関連の変異体と野生型植物を比較する形でRNAseqを実施している。一方、抗H3K4me3・K3K27me3抗体を用いたChIP-seq解析について条件の至適化を進めて、現在新しく解析を展開中である。得られる結果の独自性・先駆性が高いことは明らかである。また予算的には、基金の多くを翌年度に繰り越すことができ、さらに博士研究員が本学の特任助教として採用されたためさらに研究体制が充実したものとなった。したがって、総合的には概ね順調に進んでいると判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度より生化学実験に習熟した博士研究員(現在は特任助教)が本研究に従事しており、研究計画を加速度的に進展できると期待している。ChIP-seq解析についても、システミック葉の位置や展開度(成長度)に応じてプライミング強度が異なることを示す、新たな結果を得て、ばらつきの大きさの原因が特定できたと考えている。この点に配慮して、現在ChIP-seq解析を進めている。当初の狙い通りH3K4me3・K3K27me3の標的領域およびその標識のダイナミズムをゲノムワイドで明らかにしたい。その結果、プライミング状態とヒストン標識の関連性についてゲノムレベルで評価できると考えている。続いて、特定のETI誘導性プライミング標的遺伝子についてChIP-PCR解析を行うことで、H3K4me3・K3K27me3標識並びにPolII(転写活性化型のC末端領域のリン酸化型)結合についての情報を得る。その結果、ヒストン修飾・PolIIポージング・プライミング状態との間での機能的連携のメカニズムに迫るモデル系の起ち上げに尽力する。その際、現在進行中のPRC2依存的なプライミング標的遺伝子に関するRNAseqデータを活用することで、PRC2が直接的に、あるいは他のヒストン修飾を協調的に免疫応答関連遺伝子の発現制御やその記憶化を調節するメカニズムに迫りたい。
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Causes of Carryover |
ChIP-seq解析に関して、実験条件の再検討・至適化をまず行っていたため、その解析経費を次年度使用額としているため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
PRC2関連の変異体のRNAseq解析とともにChIP-seq解析を行うことで、PRC2依存的にプライミングされる標的遺伝子のリスト化とPRC2によるH3K27me3やそれと協調的に働くヒストン修飾の標的部位をゲノムワイドに決定する。
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