2015 Fiscal Year Annual Research Report
ウイルス・宿主共存機構:宿主個体群構造ダイナミクスの生理生態学的・数理学的解析
Project/Area Number |
26291092
|
Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
植木 尚子 岡山大学, その他部局等, 助教 (50622023)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐藤 昌直 慶應義塾大学, その他の研究科, 助教 (20517693)
中山 奈津子 国立研究開発法人水産総合研究センター, その他部局等, 研究員 (20612675)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | ウイルス / 宿主 / 生理生態 / 混合個体群 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、赤潮原因藻ヘテロシグマとを宿主とするウイルスHeterosigma akashiwo virus (以下HaV)の感染過程の解析を目的とする。HaVは、宿主株により感染に際して異なる反応を惹起する。例えば、感染により溶藻・死滅する株(死滅株)と、潜在株(感染により低レベルのウイルス増殖が見られるが、溶藻しない)、非感染株といった株が見られる。このような異なる株が自然界で存在することにより、自然界におけるウイルスの増殖・維持と共に、宿主との長期間にわたる共存が可能になる可能性に着目し、宿主・ウイルス間の個体数変動の数理モデルを構築することが本研究の最終的な目的である。 昨年度は、研究初年度に引き続き、宿主マーカー配列として利用可能なミトコンドリアゲノム配列の決定と解析を行った。その結果、マーカーとして利用可能な多様性に富む領域を特定した。 さらに、HaVゲノム配列の解読を終了すると共に、その遺伝子アノテーションを完了した。これらの情報に基づき、ヘテロシグマの死滅株および潜在株におけるHaV感染過程のRNAseqを行い、宿主株による感染過程の比較を開始した。HaVと同じPhycodnavirusに属するクロレラウイルスPBCV1の感染過程では、大量のウイルス由来mRNAが生成することが知れれている。一方で、HaV感染した死滅株では、ウイルス由来mRNAの生成は極めて低く、ほとんどがnon-polyA RNAとして生成されることが示唆された。この結果は、PBCV1の同族であるHaVがPBCV1とは異なるメカニズムによって宿主への感染を確立することを意味する。 今後は、まず、それぞれの宿主株における感染過程の詳細な情報を得ると共に、異なる宿主株を混合した際の宿主株による感染率・生存率・ウイルス増幅率などを測定し、混合個体群に対するウイルス感染過程の数理的理解を目指す。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
ウイルス感染過程のRNAseq解析により、予想とは異なり、ウイルス由来のmRNAがほとんど得られなかったため、ウイルス感染過程におけるウイルス遺伝子発現の時系列解析が遅れている。この点は、本研究計画の遅れの原因であり、対処の必要がある。一方で、これまで解析されてきた近縁のウイルスは、感染過程において高レベルのmRNA発現が観察されており、HaV感染は、これら近縁のウイルスとは非常に違ったメカニズムによるものとして興味深い。 今後は、RT-qPCRあるいはマイクロアレイ法を利用して、ウイルス遺伝子発現解析を行うことを計画している。この際に,polyA selectionを行わず、ランダムプライマーを用いて逆転写することによって、non-polyadenylated RNAを定量する。特にマイクロアレイ法を用いることで、コスト削減が見込まれるため、より多くのタイムポイントにおける解析が可能となる。
|
Strategy for Future Research Activity |
上記に述べたように、マクロアレイ法を採用して、ウイルス遺伝子発現の時系列解析を終了する。また、現在、電子顕微鏡によるウイルス感染過程の観察を行っており、ウイルス粒子の生成状態や、一細胞あたりのウイルス粒子生成数などの情報を得る。Phycodnavirusにおいては、一部のウイルスで、ウイルスゲノム(dsDNA)が宿主ゲノムに組み込まれると言う現象が知られている。ヘテロシグマ死滅株においてはウイルス粒子が生成することが知られているが、一方で、例えば潜在株におけるウイルス感染状況についての知見は存在しない。そこで、潜在株におけるウイルス粒子の生成状態や、ウイルスゲノムの存在状態につて特に留意して感染過程の解析を行うことを予定している。 HaVは、もともと、赤潮原因藻であるヘテロシグマに感染・死滅させることにより、赤潮を終結させる因子として単離された。この現象は、自然界において、赤潮原因藻がある個体密度に達するまではウイルス感染が顕在化していないことを表している。このような現象は、これまでは、宿主数が増えることにより、感染したウイルスも増幅されるためという、非常に単純なモデルによって理解されてきた。しかしながら、同じウイルスに感染する異なる反応を呈する宿主株からなる混合個体群へのウイルス感染は、より複雑な個体動態を見せると予想される。現在進行中の異なる宿主株におけるウイルス感染を規定するパラメータの取得により、ウイルス・宿主の個体動態を記述することを目標として研究を進める。
|
Causes of Carryover |
先述したように、RNAseqにより計画していたウイルス遺伝子発現解析を一部行ったが、この方法がHaVウイルス発現解析に利用できないことが明らかとなった。そのため、計画していたRNAseq解析を一部中止し、マイクロアレイ法などに切り替えることとなったため、次年度使用額が生じた。 さらに、学会出張にかかる旅費などが見込みよりも低く抑えられたことも原因としてあげられる。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
まず、計画していたRNAseqによる解析に、マイクロアレイ法を利用するための費用に充当する。マイクロアレイ法かかる一解析あたりの費用は、RNAseqに比べて低く抑えられるため、より多くのタイムポイントでの解析を計画している。
|
Research Products
(3 results)