2015 Fiscal Year Annual Research Report
農学・農業技術の比較社会史的研究―国家・テクノクラート・地域社会―
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26292121
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
足立 芳宏 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (40283650)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
伊藤 淳史 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (00402826)
菊池 智裕 福島大学, 経済経営学類, 准教授 (20639330)
安岡 健一 大阪大学, 文学研究科, 特任講師 (20708929)
名和 洋人 名城大学, 経済学部, 准教授 (50549623)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 農業史 / 農業経済学 / 農業資源開発 / 経済史 / 社会史 / 環境史 |
Outline of Annual Research Achievements |
重点となる根釧パイロットファーム事業に関して、野間万里子を本科研の研究員として雇用し現地調査を行った。6月14日~18日に、足立、野間を中心に別海町の豊原地区・美原地区で聞き取り調査と資料文献の調査を行った。また同時期に大瀧が北海道道立図書館にて釧路・根室地方の戦後開拓とパイロットファーム事業に関する資料収集を行った。さらに9月と翌年2月には野間が別海町および札幌市にて引き続き関係者の聞き取り調査を続行、また同年3月中旬には、足立と野間が市立釧路図書館にて当時の現地新聞である北海タイムズと北海道新聞(釧路版)を閲覧し関連記事の採取を行った。同月末には、足立、野間、伊藤の3名で大潟村干拓博物館を訪れ、現地視察と関連資料の収集を行った。 これとは別に研究協力者の大瀧真俊が軍馬補充部跡地の戦後開拓事業に関わって、宮崎県高鍋町・川南町に関する現地資料収集を行った。また研究分担者の伊藤淳史が世銀借款に関する外交文書の分析を、愛知用水事業や余剰農産物見返り資金をめぐる交渉などの関わりに着目しつつ行った。 ドイツに関しては足立が、戦後期の西ドイツの農村開発事業について、昨年度に引き続き「北部事業」に関する資料文献の収集と解読を継続したほか、新たにもう一つの戦後の代表的な辺境地農村開発事業である「エムス河流域開発事業」に関する資料・文献の収集を行った。東ドイツについては、研究分担者の菊池が、エアフルト市公文書館にて、1950年代の農学と集団農場に関する資料調査を行った。アメリカについては研究分担者の名和が、カリフォルニア大学デービス校および同バークレー校にて主として水資源問題に関する資料・文献調査を行った。 研究発表に関しては、第13回日中韓農業史学会国際大会(南京大学)などで関連する内容の研究発表を行った。共同研究会を予定通り8月4日と1月30日に開催した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
中軸となる根釧パイロットファーム事業に関しては、当時の入植者に関する聞き取り調査と地元新聞を対象とした新聞記事調査を行い、これをデータベース化することを本科研の課題の一つとしているが、これを精力的に進めることができた。聞き取りについては第一次入植者のほか、酪農家の婦人たち、営農指導員、当時の青年たち(後の後継者)などにも話を聞くことができた。新聞記事の調査については、北海タイムズは目標の8割程度、北海道新聞は1割程度が閲覧済である。 これらの新たな資料に基づく本格的分析は今後に待たねばならないが、とくに本科研のテーマである農業技術に関しては、①機械開墾事業が当時の世界的な先端技術を導入してなされたのに対して(ランドスケープの改造という点では顕著な変化を引き起こしたと評価できる)、入植後の農業経営や農村社会の構築については、世界水準の酪農の「移植」は遙かに難しいこと、②戦後酪農は、多頭飼養による乳牛の管理能力と、近代的農業機械や大規模酪農施設を使いこなす能力の双方が求められるが、聞き取りから、前者に関しては「妻」の能力が、後者は「夫」の能力と大きく関わっていると推測されること、③八郎潟干拓事業・大潟村建設との比較では、巨大農業技術を導入ひた国策としての農業開発事業という点では同じだが、稲作技術の延長に営農できた八郎潟と、従来の日本の農業との落差が大きい酪農という点で、両者のあいだに顕著な対照性が存在すること、これらの点が注目すべき観点として浮かび上がってきた。 内地の戦後開拓と酪農業との関わりでは、旧軍馬補充部跡地では、他の一般の戦後開拓地に比べ、その条件を生かし良好発展の可能性があるのではないかという論点、および開発資金調達に関して、いわゆる余剰農産物輸入の見返り資金も、アメリカ側の食料戦略によるよりも日本側の強い要請によって実現していく側面が大きいことが判明した。
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Strategy for Future Research Activity |
1)根釧パイロットファーム事業に関しては、聞き取りの継続を行うとともに、聞き取り内容と採録した新聞記事一覧のデータベース化を図ること、これらに基づき、研究協力者の野間が入植者に即した酪農経営の発展過程の分析を、研究代表者の足立が道東地域の農業開発政策史のなかにパイロットファーム事業のもった意義を明らかにする作業を行う。 2)日本内地については、新たに研究分担者に加える大瀧真俊が、青森県の三本木支部と宮崎県の高鍋川南を対象として、戦前の軍馬補充部跡地の戦後開拓のありようを分析し、これを戦後畜産業の発展史の中に位置づける。戦後農業開発の政策史的研究として、研究分担者の伊藤淳史が、世銀借款に関する外交文書に基づき愛知用水事業や余剰農産物交渉の実態などを分析し、当該期の農業開発事業を国際的観点から読み解く。 3)内地の農民・農村社会の機械受容に関しては、昨年度は職場異動により研究の進捗にかなりの遅れが見られた研究分担者の安岡が、長野県を対象に農村のモータリゼーションに関して資料収集と分析を再開する。戦後沖縄については、研究協力者の森が沖縄海外協会『雄飛』を軸に海外開拓移住政策の実態を明らかにする。 4)海外については、西ドイツについて足立が、戦後の辺境地農村開発の実態解明を目的に「北部計画」の北海干拓事業、および「エムス河流域開発事業」について、現地公文書館において資料・文献調査を進める。東ドイツについては研究分担者の菊池がエアフルトの園芸集団農場を対象に、学知によるモデル設定とその移植という観点から東ドイツ農業集団化を再検討する。また戦後のアメリカに関しては、研究分担者の名和が、余剰穀物処理を抱えた側の視点から当該期の米国内外の農業開発政策戦略のあり方を問い直す。 5)共同研究を二回開催する。また大学院ゼミの場を利用して関連文献の解読と検討を行っていく。研究発表と研究論文作成は随時行う。
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Causes of Carryover |
(1)研究分担者の安岡は、飯田市歴史研究所から大阪大学文学研究科への異動により研究環境が大幅に変化した。これにより当該科研で予定していた長野県をフィールドとする研究の進捗が遅れることとなり、配分していた分担金25万円を使用することができなかった。 (2)研究代表者の足立が、2016年3月に現地ドイツの資料調査を予定していたが、職務の関係から年度末の日程の調整がつかず、これを延期せざるをえなかった。約40万円相当である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究分担者の安岡に関しては、2016年度は研究環境が落ち着き、研究を再開できる見通しであり、昨年度分の分担金と同額分を割り当てる形で、今年度未使用の25万円分を利用する予定である。 延期した研究代表者の足立のドイツ現地調査は,9月に2~3週間の予定で行う予定であり、この分に充用する。また国内旅費について、重点化する道東地方での資料調査のための経費の一部として充用する。
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Research Products
(6 results)