2015 Fiscal Year Annual Research Report
鱗翅目昆虫の性決定制御に関わるmiRNA-mRNAネットワークの包括的理解
Project/Area Number |
26292172
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
鈴木 雅京 東京大学, 新領域創成科学研究科, 准教授 (30360572)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 性決定 / 性分化 / microRNA / Ago1 / カイコ / 昆虫 / 発生 / dsx |
Outline of Annual Research Achievements |
miRNAがカイコの性決定遺伝子の発現パターンや発現量の制御に関与するかどうかを検証するため, miRNAによる翻訳抑制に必須の因子であるAgo1のノックダウンを行い, miRNA経路を遮断した場合に性決定遺伝子の発現量に変化がみられるか調査した. その結果, Bmdsxの発現量が雌雄どちらにおいても著しく減少することが判明したことから, miRNAがBmdsxの発現量の維持に関わることが強く示唆された. そこで, Bmdsxの発現量の制御に関わるmiRNAを同定するため, 性決定時期に発現するmiRNAを網羅的に同定した後, 発現量に性差のあるmiRNAを探索した. その結果, 雌で高い発現を示すmiRNAを282個, 雄で高い発現を示すmiRNAを330個同定することができた. それぞれ上位50個のmiRNAについてRT-PCR及びqRT-PCRを行い, 胚発生時期における発現パターンと発現量の推移について詳細に調べた. その結果, miR-2733i-3pのみが性決定時期の雄において最も発現量が高いことが判明した (図3B). そこでmiR-2733i-3pをノックダウンした卵における性決定遺伝子の発現量を調べたところ、Bmdsxの発現量は雌雄どちらにおいても減少することが判明した. miR-2733i-3pの標的遺伝子を推定するため, in silico解析を行った結果, 1851遺伝子が標的として予測された. これらを予測信頼度の高い順に並べたところ, 転写因子としてはBmdsxが最高位であることが判明した.レポーターアッセイによるmiR-2733i-3p標的部位のバリデーションを行った結果、miR-2733i-3pはBmdsx mRNAの3’UTRの509~531ntに存在する標的配列を介して翻訳抑制を引き起こすことが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、カイコの性決定・性分化にmiRNAが関与するかどうかを明らかにすることを第1の目的として挙げ、さらにそのようなmiRNAが同定されたなら、その標的となる遺伝子を見つけ出すことをもう一つの目的としている。平成27年度までの研究成果により、我々は性分化のマスター遺伝子として知られるBmdsxの発現維持にmiRNA経路が必要であることを最初に証明し、実際にBmdsxの発現量の維持に関わるmiRNAを1種類同定することに成功した。しかも、このmiRNAのターゲットはBmdsxである可能性を強く支持する実験結果を得ることもできた。従って、既にこの時点で本研究の目的は概ね達成できたと判断できる。ここまでの研究成果により同定されたmiRNAが、実際に生体内でBmdsxの翻訳制御を行っていること、またカイコの性分化制御に欠かせない因子であるかどうか、という点について、残り1年間の研究期間内で明らかにすることができれば、本研究課題の目的は完全に達成されたと言うことができる。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までの研究成果により、miR2733ファミリーに属する3つのmiRNAがカイコの性決定時期に最も高い発現を示すことが判明した。さらに、これらのmiRNAの発現を抑制したところ、性分化のマスター遺伝子であるBmdsxの雌雄の胚子における発現量が低下した。また、miR2733-i-3pはBmdsxの3'UTRに存在する標的配列に結合し、その翻訳を阻害することがわかった。そこで本年度は以下の実験を行う。1)胚子期におけるmiR2733のノックダウンが性分化に及ぼす影響について調べる。2)抗BmDSX抗体を作成し、これを用いてmiR2733が実際にBmDSXのタンパク質翻訳量を下げることを個体レベルで確認する。受精卵にanti-miR2733 LNAを用いたノックダウンにより、生体内で確かにBmDSXタンパク質の発現量が抑制されることを抗BmDSX抗体を用いたWestern blottingにより確認する。このために抗BmDSX抗体を作成する。3)miR2733ファミリー遺伝子は予測遺伝子Iron regulatory protein 1(IRP1)のイントロン内にクラスターを成してコードされている。そこでIRP1の発現プロファイルを調べ、miR2733の発現とシンクロしているか否かを確認する。この点が確認出来たら、IRP1遺伝子の発現制御領域をレポーターアッセイにより同定すると共に、制御因子についても同定する。4)miR2733のRNAスポンジを恒常的に発現するトランスジェニックカイコを作成し、miR2733の恒常的機能阻害が性的二型の分化に及ぼす影響を調べる。胚子期だけでなく、幼虫期や蛹期、成虫期におけるmiR2733の機能阻害を実現するため、miR2733に対するRNAスポンジを恒常的に高発現するトランスジェニックカイコを作出し、これを用いてmiR2733の恒常的機能阻害が性的二型の分化に及ぼす影響を調べる。
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