2014 Fiscal Year Annual Research Report
ヒマラヤをめぐり展開された密教工芸の造形と表現の研究
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26300017
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Research Institution | Hiroshima City University |
Principal Investigator |
服部 等作 広島市立大学, 芸術学部, 名誉教授 (50218509)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中野 照男 成城大学, 文芸学部, その他 (20124191)
奥山 直司 高野山大学, 文学部, 教授 (50177193)
森 雅秀 金沢大学, 人間科学系, 教授 (90230078)
柴田 隆史 東京福祉大学, 教育学部, 准教授 (90367136)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 仏教美術 / 工芸美術 / 巡礼路 / 密教 / ヒマラヤ / 同仁県 / シルクロード / パーラ朝美術 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度の実績は、当初計画にそって現地調査をすすめた成果である。まず 1.インド-バングラディシュの調査:2014.9/2-9/20の間に、1)インド中部-マンセル、シルプール、ラトナギリ、ラリタギリからバングラディシュ-バハルプール(旧東ベンガル州)の遺跡、およびニューデリ、オリッサ、コルカタ、バングラディシュ地区の博物館調査を進めた。成果は、密教信仰の拠点寺院と巡礼路に沿う密教がもつ造形・表現の特徴抽出を通じて地域・文化圏の資料記録をすめた。 2)青海省黄南チベット族自治州同仁県の調査は、2015.2/17-3/3の春節(農歴新年)の間、同仁県(旧アムド・レゴン地方)の宗教と造形活動、2)行事(寺院芸能:ウートン上寺、ウートン下寺、ゴムル寺、シャン寺(梵教)の法要、仏画開帳、弥勒行道、法舞、ならびに村民(ガセル、ゴムル、ニャント)行事と信仰実態を調査した。また古老と活仏の当地の伝承の記録、工芸作家に聞き取り、技法的調査、口承民話と現在の祭祀やシャーマンの祈祷の記録を3次元画像と文献記録をふくめた。2010年に同仁県への高速道路が一部開通した結果、漢族文化の流入が著しくすすんでいて当地固有の文化・信仰活動が急速に俗化しつつある実態から本調査記録の有効性が高い。 3)カンボジア・ラオス・ベトナムの密教の造形・表現に関した調査は、2015.3/16-3/28に行った。もともと当地域は、小乗仏教圏であるがヒマラヤ山脈の南麓の密教の造形、表現の現地調査の趣旨に沿いカンボジア・アンコールワット、ワットプー、タプローム遺跡(アンコール朝)、ベトナム・ミーソン遺跡(チャンバ王国)間の信仰拠点(寺院、王朝寺院)-巡礼路(寺院、祝祭都市)を調査した。その結果、インド密教(東ヒマラヤからのも含め)の大規模寺院、仏塔造営、曼荼羅的伽藍、ならびに仏像の造形・表現の影響について確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究達成度は、本年度の当初計画と現地調査に沿って目的を達成した。 まずヒマラヤ山脈南麓に開かれた密教芸術の特徴的な造形と表現の研究趣旨に沿う現地調査を3度にわけてすすめ成果を得た。従って研究の進捗度は、順調である。 主たる成果は、1)インド-バングラディシュ調査の実施によりニューデリ国立博物館のパーラ朝密教資料、シルプール遺跡(チャツティスガル州)、ラトナギリ、カンタギリ(オリッサ州)調査で6世紀頃に遡る造形・表現(仏陀像、寺院伽藍、地中の仏教遺跡)の調査、2)青海省同仁県の調査では、密教の造形・表現を寺院と信者の二つの階層から現地調査ができた。さらに3)小乗仏教国(カンボジア、ラオス、ベトナム)の調査では、インド・パーラ朝美術とベンガル(現バングラディシュ)のサマタナ王朝の密教的影響をうけた東南アジア方面の特徴的な多面・多臂・多足像、仏陀半跏趺座像、ターラ菩薩像、仏陀ナーガの玉座像など特徴的な図像からインドの影響調査を実現した。 以上の結果、当初の想定以上に造形・表現の多様性が見いだすことができ、進捗度に貢献し、当初の期待される成果の一端を得た。
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Strategy for Future Research Activity |
現在推進中にある密教信仰の調査研究を通じ平成27年度以降も文化的な基層の解明を継続推進する。ヒマラヤ山脈周緑部の信仰実態の調査を通じて明らかとなった点は,密教信仰の拠点と巡礼路が文化的基層をなす実態の現地調査できた。 この結果、従来の研究視点であるシルクロードの交易路を中心とする文化交流観に加えて本調査が新たな視座の提供が可能になる。現地の信仰実態は、当時の巡礼の実態が教団、出家者のみならず在家信者(地方の王族,寄進者をふくむ有力者)が信仰拠点(点)をもとに有機的にむすびつける線(経路・巡礼・交易路)ならびに面的(文化圏)にくりひろげられた信仰活動により成立している。ここで従来のシルクロード交易を基調にした中央アジアの文化交流の視点を,今後の研究でヒマラヤを中軸とする信仰、巡礼観からとらえ直すことが可能となる。そのため今後の研究方向は,ヒマラヤ山脈に沿ったカシミール(現ヒマルチュリプラディシュ州最奥部ラダック),古代の密教の大聖地のウディアナ国(現パキスタン・スワート),ならびにグゲ王国(現西チベット)の遺跡と環境調査を必要とする。これらの地は、巡礼と仏教王国の形成が点(信仰拠点)-線(巡礼路),ならびに面的(王国、領地)にむすびあった文化圏形成に大きな貢献があったからである。従来のこうした密教文化の基層調査の実績を踏まえる。 また平成26年度の調査においてニューデリ国立博物館からの壁画保存シンポジューム構想の開催提案、およびバングラディシュのアグラ市内で政治抗議集会により当初の調査計画ができなくなったため再度調査の必要がある。今後の課題の検討事項として扱う。 今後の推進でヒマラヤ山脈周緑部の調査上の予測可能な隘路は,不安定な気候、少数民族問題、現地の政治と宗教的な状況が想定できる。現地の情報を加えて順次、密教の造形と表現に関わる基層文化の解明をすすめていきたい。
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Causes of Carryover |
当初の予定した調査の実施により海外調査は、少額(10861円)を繰り越した。その理由の第一点は、円安基調(例:中国元前年比85%、16.52円/中国元(2014年度4/1)がすすみ調査期間中は、19.45円(2015年度3/2調査終了日)に円安が著しくすすんだ。そのため旅費、調査費(謝金、機材・車両借り上げ費)の変動が大きく、計画初期の見積もりを実勢値から見直した。 理由の第二点は、本研究の目的である密教の造形と表現についてインド-バングラディシュと中国青海省調査で一定の成果をみたが、その間に現地での様々な知識獲得、研究者の知識提供により、小乗仏教圏のカンボジア、ラオス、ベトナムへのインドパーラ美術の影響について新たな調査が必要となった。そのため基金使用の必要が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成26年度の現地調査費用は、前述の調査費用の繰り越しとあわせ27年度調査の実施費用(旅費、調査費(謝金、機材・車両借り上げ費)の一部として補填のうえ、海外調査研究の充実をはかる。
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Remarks |
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Research Products
(6 results)