2015 Fiscal Year Annual Research Report
ヒマラヤをめぐり展開された密教工芸の造形と表現の研究
Project/Area Number |
26300017
|
Research Institution | Hiroshima City University |
Principal Investigator |
服部 等作 広島市立大学, 芸術学部, 名誉教授 (50218509)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中野 照男 成城大学, 文芸学部, その他 (20124191)
奥山 直司 高野山大学, 文学部, 教授 (50177193)
森 雅秀 金沢大学, 人間科学系, 教授 (90230078)
柴田 隆史 東京福祉大学, 教育学部, 准教授 (90367136)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 密教美術 / 工芸美術 / ヒマラヤ / 仏教 / シルクロード / カシミール / スワート / オリッサ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、密教美術の荘厳具を代表とする静態的な造形および芸能・祭祀儀礼を代表例にする動態的な表現から「ヒマラヤ南麓部をめぐり展開された密教工芸の造形と表現」を解明することにある。 2014年度の密教の造形調査は、インド中部・チャンティスガール州(シルプール)-オリッサ州(ラトナギリ、ウダヤギリ)からバングラディシュ(パハルプール仏塔)遺跡を訪問した。各遺跡出土品(密教四仏型仏塔、仏像、変化観音、ターラ菩薩、金剛手、五鈷杵、如意宝珠)と中期密教経典の主軸の大日経、金剛頂経と密教美術の関連性を調査した。また密教の寺院の調査は、青海省黄南蔵族自治州同仁県の寺院と芸能(儀礼、法舞、行道)と民間の春節儀礼との関連を立体画像記録し調査をすすめた。 2015年度調査は、インド・ジャムカシミ-ル州の仏教(Harwan、Ushkur、Parihasapura)、ヒンドゥ遺跡(Avantiswami、Martanda-Narannag)、ならびに美術館収蔵資料(SPS、カシミール大学中央アジア美術館)を調査した。カシミールの密教文化の内容は、初期-中期-後期の三区分でき、前年度の中部インド調査と対応する北西インド調査とし、両地域で仏教が密教へ変容する北西インドの一端を明らかにできた。初期を密教の発展期とし北西インド・ガンダーラ、スワートの仏教成熟期をへてエフタル侵入後6、7世紀のインドのグプタ・後期グプタ美術の青銅仏と密教の伝播の関連づけをすすめた。7世紀半以降の密教経典(大日経、金剛頂経)の波及と陀羅尼信仰、変化観音の出現とヒンドゥ美術の復興するなかでカシミール美術の特徴を調査し、後期がスワート、カシミールから西ヒマラヤをめぐる密教の新伝統形成期に特徴的な青銅仏と金属工芸を多用する内容、および密教の造形・表現の重層性の一端が把握できた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
進捗状況は、ヒマラヤへの密教発展に重要な役目を担ったインド・ジャムカシミ-ル州の仏教-ヒンドゥ教遺跡、資料を現地遺跡、博物館、ならびにニューデリ博物館収蔵品の調査をすすめほぼ順調である。 今回の現地調査でカシミールの仏教遺跡は、クシャン朝カニシカ王の第四回仏典結集のHarwan仏寺、フブシカ王のUshkur遺跡、、Panderethan遺跡の調査から、当時の隆盛と規模の判明ができた。Harwan遺跡の段丘にそう伽藍配置がカニシカ王のスルフコタール神殿(アフガニスタン)に類似し、僧院址と神殿の環境構想からアフガニスタン(バクトリアのギリシャ人植民地のオリンポス神殿)からカシミール一帯にかけ共通の文化圏が理解できる。ヒンドゥのシバ・ビシュヌ系の出土品とヒンドゥ遺跡が多い(Avantiswami、Narannag神殿遺跡)、また飾られた仏陀像が出土したParihasapura遺跡が僧房の配置と神殿建築の重層性がわかる反面、総じて破壊後の保存状態がよくない。資料調査は、SPS:Siri Pratap Singh美術館とカシミール大学博物館でも密教美術資料が中部インドのオリッサ、ビハール州の変化観音、密教四仏型仏塔、大日如来など密教出土例が多いのと比較して総じてカシミールの出土資料が少ない。ほかにヒンドゥ遺跡(Andarkot、Patan、Avantiswami、Krimchi遺跡)、イスラム遺跡(Zain-ul-Abidin廟)も調査でき、ほぼジャム・カシミールの信仰文化圏が理解できた。 今後カシミールに隣接するスワートの文化圏が中央・西・東アジアへ巡礼路沿いとなり密教の一大聖地ウディアナ国説が支持されているが、実態として中部インドとくらべ密教像の出土品がすくない点について再検討する必要性がある。
|
Strategy for Future Research Activity |
ヒマラヤ一帯の土着信仰(精霊信仰)と仏教-密教、バラモン-ヒンドゥ信仰の遺跡と現存する密教工芸と芸能の文化を今後継続的にすすめる。そのためヒマラヤでの密教発展に貢献を担ったインド・ジャムカシミ-ル州と文化圏を接するヒマルチュリプラディシュ州のチャンバ、シムラ周縁の寺院遺跡、博物館収蔵品(Bhuri Singh Museum-Chamba、Museum of Kangra Art-Dharmshala、Himachal State Museum-Shimla)とスワートの現地情報入手をすすめ、選択的に調査する。とくに伝統文化の動態的な芸能については、Pangi渓谷にのこる伝統の輪踊りの調査を予定に含める。本来の2016年度の調査計画が「ネパールにおける密教工芸の文化的伝統と変容」であった。しかし2015年4月25日ネパールの首都カトマンズ・ゴルカ地域付近で発生したM7.8級大地震で首都と周縁各地の仏教寺院が壊滅したため調査内容を前述の計画に変更することに至った。変更にあたり現地調査の可能性を『2015年ネパール・ゴルカ地震による被災文化遺産』現地報告会(東京文化財研究所主催)に参加、現地の被災現状と今後の活動を再検討した結果、当初28年度計画にあったネパール調査を実施困難とした。芸能関係の調査上の隘路は、現地が高山山岳渓谷地帯で雨期の洪水と道路事情の現実的な対応が必要となる。2014年に首都スリナガルを中心に2014年9月に過去100 年来の大洪水災害が博物館や資料が損失している。また北西インドのスワート調査に関して現地の政情が安定しつつあるとの情報もふくめアクセス、予算化可能な調査の実現性を前提に検討に含めるとする。 以上のように現実的、即応的な変更が求められることを前提に2016年度の調査は、予算内の計画をすすめ、それらの現地調査と資料の検討をもって調査をすすめる。
|
Causes of Carryover |
本科研発足時の平成28年の計画内容は、「ネパールにおける密教工芸の文化的伝統と変容」を21日間の現地調査が予定されていた。しかし2015年4月25日ネパールの首都カトマンズ・ゴルカ地区で発生したM7.8級大地震で首都と周縁各地の仏教寺院が壊滅の情報をもとに、調査内容の再検討が必要となり1)現地調査の可能性の検討を『2015年ネパール・ゴルカ地震による被災文化遺産』現地報告会(東京文化財研究所主催)に参加、現地の被災現状と予測成果の再検討をした結果、当初28年度計画を実施困難とした。つぎに2)調査の次候補の検討として、本研究目的にそったヒマラヤ山脈南麓の該当候補地の資料購入と現地情報の獲得をすすめた。新しい調査地の選定について現実的、即応的な変更が求められることを前提に28年度の調査は、資料の検討をもとに計画予算内の現地調査と調査をすすめる。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
インド、ヒマルチュリプラディシュ州の中心都市のChamba-Chandighar-Shimlaを結ぶ博物館、収蔵資料、仏教遺跡を以下に示した現地訪問先と資料の収集をめざし、調査の具体化をはかる。 当地は、北西インドの仏教美術の中心地カシミール、スワートの仏教文化圏に隣接し、仏教、ヒンドゥ教の遺跡がある。当時スワート(ウディアナ)とカシミールは、中央・西・東アジアへ巡礼と交易路をむすぶ要衝で仏教の文化圏の一つである。インド側でこの地と接し、多くの仏教-密教、ヒンドゥ関係の美術資料を収蔵する博物館訪問をはじめ、周縁の遺跡訪問により往時の巡礼路の環境を調査する。
|
Research Products
(9 results)