2014 Fiscal Year Annual Research Report
日独の児童虐待対応に関する実証的比較研究―責任共同体としての司法と児童福祉
Project/Area Number |
26301011
|
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
岩志 和一郎 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (70193737)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | ドイツ / 児童虐待 / 子の福祉の危険化 / 少年援助 / 親権制限 / 少年局 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、ドイツと比較して、児童福祉と司法さらには民間機関の連携のシステムを探ることにあり、その特徴は、第1に、ドイツの大規模調査に参加するということ、第2に、司法と行政の峻別には厳しい目を持ちつつも、司法判断の際に強制的な協議の場を設けて親に社会的な援助の受給を説得し、また処分の一つとして受給を命ずるというシステムを有するドイツの児童福祉と司法の連携のシステムを、法文上からだけでなく、具体的実務の面からも探求することにある。 2014年度には、まず第1のドイツ側調査が2015年4月から本格的に始まることにかんがみ、それに参加するために、2014年10月にベルリンを訪問し、ドイツ調査責任者であるミュンダー教授、ザイデンシュトゥッカー教授と協議し、調査内容、調査項目、調査対象等について細目の打合せを行った。またドイツ側の調査と対応する日本側調査の準備のため、福岡市の児童相談所を訪問し、児童相談所と民間の委託機関の聴き取りを行った。またわが国で唯一のSOS子ども村である福岡SOS子ども村を訪問し、責任者からの聴き取り調査を行った。 次いで、第2に掲げた児童福祉と司法の連携のシステムの探求の作業を進めるため、2014年10月の訪問時には、ベルリン州の州少年局、2015年3月には、ベルリンおよびブランデンブルグ州コトブスを訪問し、ベルリンの上級地方裁判所および家庭裁判所、少年局3カ所、民間の少年援助の機関(コトブス・SOS子ども村)から聞き取り調査を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2014年2月頃から実施予定であったドイツ側調査が、諸般の事情から2か月ほど開始が遅れた。しかし、これはドイツ側で、調査項目およびアンケートの内容が慎重に点検されていたためである。ドイツ調査の担当責任者は10年前にも同様の調査を行ったが、当時とは実体法、手続法等が大きく変化したことから項目の変更や修正が相当程度あったことによる。日本側も、このような調査項目の作成の過程に最初から加わり、わが国の問題点を整理する上でも大いに参考となった。現在、このドイツの調査項目を参考に、日本側調査の項目を作成しており、日独のシステムの差を前提としたうえではあるが、相互比較できる基盤を共有することができた。 このドイツ側調査の作業と並行して、裁判所、少年局、民間の少年援助機関の聴き取り調査を行った。裁判所はベルリンのシェーネベルク家庭裁判所とベルリン上級地方裁判所で実施したが、第1審裁判所と第2審裁判所それぞれの手続対応の相違など、文献調査では得ることのできない知見を得ることができた。またベルリン市内では、従来の西ベルリン地域、旧東独地域、外国人の多い地域の3カ所の少年局と、小規模地方都市であるコトブス市少年局という、それぞれに特徴のある少年局の司法との連携システムを探ることができた。近時の法改正により、法文上は同一手続、同一基準が設定されているが、それぞれの実情に応じて、子の福祉の危険化への対応方法に差があることが解明できたことは有意義な成果であった。 コトブス市のSOS子ども村施設の調査では、いわゆるワンストップ型の子の福祉の危険化対応の仕組みが構築されていることが実見できた。
|
Strategy for Future Research Activity |
2015年4月から、本格的にドイツ調査が開始されている。この調査はドイツ全国の家庭裁判所および少年局の裁判官や専門職、さらに支援の対象となった親や子に対するアンケートとインタビューを中心として行われる。1年間を通して、各地で実施されるため、すべての地域での調査に参加することはできないが、現時点では、ベルリン、レーゲンスブルグ、マンハイムの3カ所での調査に、研究代表者が参加することを予定している。旧東独、旧西独、さらに統計上家庭裁判所の措置の数が最も多数に上る州という特徴を持つ3カ所であり、それぞれ特徴に応じた結果が期待できる。 ドイツ側調査と並行して実施を予定する日本側調査については、ドイツ側調査の調査項目を参考として、現在作成が進められているわが国の調査項目に基づいて実施する。家庭裁判所の協力は難しい状態であるが、児童相談所については3カ所の協力を得られる予定である。 このような実態の調査と並行して、ドイツの連携システムの制度調査も継続する。この調査も、2014年度同様、日本側が独自に作成した制度運用に関する質問項目にそってとり行う予定である。
|