2015 Fiscal Year Annual Research Report
アジア・太平洋地域における大学院生の移動と「準中心国」大学院のニッチ戦略
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26301036
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
吉永 契一郎 金沢大学, 大学教育開発・支援センター, 教授 (70313492)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
夏目 達也 名古屋大学, 高等教育研究センター, 教授 (10281859)
中島 英博 名古屋大学, 高等教育研究センター, 准教授 (20345862)
中井 俊樹 愛媛大学, 教育企画室, 教授 (30303598)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | グローーバル化 / 大学院 / 人材育成 / アジア / 高等教育 / アメリカ |
Outline of Annual Research Achievements |
5月に国立台湾大学を訪問し、工学部長に、大学院生の移動について、インタビューした。その結果、学生は、大学院よりも就職に魅力を感じていること、引き続き優秀な学生は、アメリカの大学院に進学していることが明らかになった。6月の日本比較教育学会において、研究発表を行った。7月には、名古屋大学で、第3回の研究会を行い、昨年度実施した、インド・マレーシア・中国・タイ・アメリカ・香港の調査報告会を行った。中国については、世界的研究大学創設に向けての重点的支援、留学生送り出し政策、帰国研究者優遇策が明らかになった。タイでは、教員の博士号修得が優先事項であり、留学生も隣国に限られ、研究大学の創設やダブル・ディグリーは将来の課題である。マレーシアにおいては、政府は、留学生派遣よりも研究者交流を重視している。また、留学生の受け入れは、イスラム国中心である。マラヤ大学は、研究大学として、大学ランキングを意識しており、外国人教員や海外とのダブル・ディグリーの数も多い。香港では、教員も大学院生も中国本土出身者が多い。9月には、メルボルン大学・シドニー大学を訪問し、留学生の中心が、大学院生ではなく、授業料収入が得られる学部生であることが明らかになった。両大学は、研究資金の提供先としても中国を重視している。2月には、再び、アメリカ調査を行い、アメリカの大学院が、留学生出身国の多様化を図っていること、STEM教育改革によって国内での理工系人材育成に力を入れていることが明らかになった。3月には、国立シンガポール大学と南洋工科大学を訪問した。シンガポールは、アメリカモデルの導入と能力主義の徹底で、世界的研究大学育成を図っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究力向上のため、アジア人留学生を受け入れざるを得ないアメリカの事情と留学生を送り出すアジアの事情を明らかにすることができた。アメリカにおける理工系人材の不足とアジアにおける理工系教育の水準の高さは、補完的な関係にある。特に、学生や教員の移動を中心とするグローバル化については、英語の果たす役割が極めて大きい。この点で、インド、香港とシンガポールは大きな利点を持っている。アジアでの大学調査においては、面会者が限定され、必ずしも期待通りの成果が得られていない。アメリカの有力大学では、大学院での教育研究スタイル・留学生獲得戦略を知ることができ、依然として、アメリカが理工系人材の中心地であり、アジア人の優秀な大学院生を集めて、修了後も活用している様子が明らかになった。アジアでは、大学院の充実によって、国内における研究者養成を行おうとしているが、優秀な学生は、アメリカに留学しており、国内で十分な大学院生が確保できていない。また、学生は、学部卒で就職しようとする傾向も強い。ただし、アメリカからの帰国者が大学教員として活躍していることは、研究ネットワーク形成、グローバル化に貢献している。アメリカは、世界的研究大学のモデルとなることが多いが、アメリカと同じような環境をアジアで実現できるのは、香港とシンガポールのみである。両国では、教員の採用を完全国際公募とすることによって、世界大学ランキングを上げようとしており、海外からの教員の割合もすでに半数に達している。タイやマレーシアは、現在、大学院の整備中であり、教員の博士号修得が課題である。しかしながら、隣国やイスラム文化圏を中心に、大学院生を受け入れ、教育重視で、他国の研究者養成にも貢献しつつある。これらの国の大学は、世界的な研究大学ではないが、独自の役割を果たしている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでは、アメリカの大学院を中心に、アジアからの理工系人材の移動を取り上げてきたが、現在、アジアの大学は研究基盤を確立しつつあり、アメリカも、中東、南アメリカ等理工系人材獲得先を多様化しつつある。今後は、これからのアジアにおける大学とグローバル化の役割について考える。その際、注目すべき点は、政府のグローバル化政策、研究支援策、理工系人材育成策、産業政策、そして、隣国を含む地域連携構想である。特に、移民国家であり、英語圏にあるシンガポールや香港は、国際ランキングに示される世界的研究大学を目指すことができるが、非英語圏の場合は、明確なモデルが存在しない。また、大学は、それぞれ、国家や地域の課題を担っており、世界大学ランキングに示されるような画一的な指標で評価できるものではない。これらの点で、マレーシア・タイは、近隣国の修士レベルの技術者を育成することに大きな役割を果たしている。そのため、グローバル化についても、今後は、アジア対アメリカ、世界的研究大学の設立よりも、教育や地域貢献を中心としたアジア国間のネットワークに注目する必要がある
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Causes of Carryover |
研究分担者が多忙により、計画通りの調査ができなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究協力者を得て、計画通りの調査を行う予定である。
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Research Products
(3 results)