2015 Fiscal Year Annual Research Report
新たな生物進化モデルの展開:日本海多様化工場説とその世界的インパクト
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26304010
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
神谷 隆宏 金沢大学, 自然システム学系, 教授 (80194976)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
阿部 剛史 北海道大学, 学内共同利用施設等, 講師 (00301929)
ジェンキンズ ロバート 金沢大学, 自然システム学系, 助教 (10451824)
山田 敏弘 金沢大学, 自然システム学系, 准教授 (70392537)
Smith Robin 滋賀県立琵琶湖博物館, その他部局等, 研究員 (70416204)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 潮間帯 / 貝形虫 / 寒冷適応 / 多様化 / 北方進出 |
Outline of Annual Research Achievements |
6月にイギリスの潮間帯生物採集調査を行い、主として貝形虫を中心に形態解析を行った。イギリス現地調査ではMargateとMineheadの岩礁地で複数の海藻種の採取を行い、Paradoxostoma variableを含む多数の潮間帯生物の採集に成功した。この結果と前年度行ったカナダ調査、および既に試料やデータのあった日本周辺海域の調査結果を合わせて、Paradoxostoma亜科のBoreostoma属貝形虫の形態解析を行った。この結果にもとづいて推定した系統関係は、日本発祥種が日本海で多様化し、次第に北方進出していったことを示唆しており、今研究課題の進化仮説を支持する結果を得た。
さらに重要な点は、北半球に分布するBoreostoma属6種の18SrDNAの解析に成功し、分子遺伝学の観点からも系統推定を行い、明快な系統関係を得たことである。すなわち、太平洋黒潮種のB. yatsuiから日本海対馬暖流種のB. pedaleが派生し、B. pedaleから北部日本海宗谷暖流種のB. spineumが派生、B. spineumから北海道東部親潮(寒流)種のB. ussuricumが派生し、B. ussuricumからイギリス種B. variableとカナダ種B. sp.3が派生したことが分子遺伝学的に判明した。
形態とDNAから推定した系統関係が一致し、さらにDNA解析に基づき導かれた詳細な系統関係は、「本来南方の熱帯・亜熱帯に起源をもつ属が日本海に進入し、多様化・寒冷適応を繰り返し、次第に北方進出し、現在北半球高緯度域に広く分布している」という日本海進化のゆりかご説を完全に立証するものとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
最大の目的であった「日本海発祥種の多様化、寒冷適応、北方進出説」について、主要材料生物である貝形虫のBoreostoma属に関して、形態および分子遺伝学的に解析に成功し、北方進出説を検証することができた。
しかし、他の貝形虫属や海藻など他の分類群については形態解析を継続中であり、複数の生物による進化仮説の検証にはまだいたっていない。また、分子遺伝学的な系統推定には成功したが、分子時計の観点から、分岐年代を推定しようとした試みは、それに適切な分析結果が得られなかったために達成されていない。
上記のような理由により、概ね順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き他の分類群の検討を進めるとともに、進化モデルに関する新しい成果を国際学会で発表する。
日本海における多様化・寒冷適応・北方進出の時期(タイミング)については鮮新世~更新世であろうと漠然と予想されているが、今回の解析では十分な推定ができなかった。そのため、今後は他のより進化速度の速い遺伝子領域を用いて分岐時間を推定し、多様化の生じた時期の推定を試みる。
鮮新世~更新世には浅海に生息していた北方起源の寒冷種の衰退が生じたと考えられているが、本研究が今年度示した結果は、熱帯潮間帯種の多様化であり、全く異なる事象である。この2つの事象がどのように関連するのかを、浅海生物の専門家と議論し、進化・絶滅の実体解明にあたる。
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Causes of Carryover |
研究代表者の健康上の理由(腰椎椎間板ヘルニアの養生および9月に行った手術、それ以降のリハビリ)により、計画していた研究成果について討論する会合、海外現地調査による標本採集、それに基づくDNA解析が十分に達成できなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
翌年度の使用計画として、海外現地調査の追加、補助者を雇用してのDNA解析の迅速化・重点化、を行う予定である。
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Research Products
(5 results)
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[Journal Article] Two species of the genus Acinetospora (Ectocarpales, Phaeophyceae) from Japan: A. filamentosa comb. nov. and A. asiatica sp. nov.2015
Author(s)
Yaegashi, K., Yamagishi, Y., Uwai, S., Abe, T., Santiañez, W.J.E. & Kogame, K.
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Journal Title
Botanica Marina
Volume: 58
Pages: 331-343
Peer Reviewed / Int'l Joint Research