Outline of Annual Research Achievements |
前年度までに考察した, 水面に浮かべた樟脳片の運動に関するパルスダイナミクスの観点からの研究に関して, 一般化や応用例, および実験例の検証作業等がほぼ終了し, 現在業績論文として執筆中である.これは近いうちに応用系のジャーナルに投稿予定である. また同時に進めてきた, 曲面上のパルス運動に関する研究においては, 曲面の幾何特性と複数のピークが安定化するための条件を関連づけることに成功し, 現在業績論文として執筆準備中である.特にガウス曲率の等高線に関する情報に基づき, パルスの安定な空間配位を理論的に求めることができたことは予想以上の成果であった. 一方, 上の研究に加えて, 心筋細胞におけるパルス伝播に関する問題の考察を昨年度にスタートし, その後, 厳密な結果ではないが, 心筋における伝播パルスの特徴的性質の一つである, 脈動パルスの発生メカニズムに, 新たな知見を与えることができた.また, パルス列におけるパルス間隔において, これまで予想だけがなされていた性質に関して, この知見に基づき理論的根拠を与えることができるのではないかと期待されている. 最後に, 積分核を用いた非局所項を有する方程式に関する研究について報告する.パターン形成問題に関して, これまで拡散不安定性の概念に基づいた, 反応拡散型の数理モデルによる理解が一般的であったが, 近藤らは, 積分核を用いてより一般的に, またより複雑なパターンも容易に説明できることを示唆した.本研究ではこれらを踏まえ, 積分核形状と空間パターンの関係を理論的に考察することを目指したが, 当年度においては代謝系ネットワークから積分核形状を決定するための方法を見つけることができた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
曲面上のパルス運動に関する研究において, 曲面の幾何特性と複数のピークが安定化するための条件を具体的な形で関連づけることに成功した点が理由の一つである.実際, パルス運動を記述する方程式は, 質点に関する常微分方程式ではあるが, 一般に大変複雑で, たとえガウス曲率の等高線が楕円形状など, 幾何特性が比較的単純であったとしても, 作図できる程度の具体性を持ってパルス解の安定空間配位を決定できるとは予想されていなかった. また, 代謝系ネットワークから, 特有の積分核形状を求めることができた点も評価した.これに関しては, ネットワーク構造に空間情報が入っているため当初困難が予想されていたが, 空間情報も積分核の中に含めてしまうという発想により, 非常に簡潔, かつ明瞭な形での表現が可能となった点は予想以上の成果と考えた.
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Strategy for Future Research Activity |
当面は理論を深める方向, たとえば得られた必要情報を用いることによる分岐構造の決定や, 樟脳片形状に依存した進行方向の選択性など, これまで数値計算のみでしか確認されていなかった事実に理論的基盤をしっかり与え, より一般の反応拡散系へ拡張するための足がかりを築いていく予定である. 一方それと同時に, 今後も実験による比較検証を行っていくためには, 実験による検証が可能な条件設定の元での理論造りも重要となってくる.たとえば通常, モデル方程式に入っている非線形項はかなり具体的な関数形を使用することが多いが, 実際の現象では単調性や on-off など定性的な性質しかチェックできないことが多い.今回, 樟脳片のモデルではそのような試みはおおむね成功したといえるが, その他のモデル方程式においても適用可能な, 実験で検証できる条件だけで帰結できる理論造りも重要と考え, その構築も目指していく予定である.具体的には上述の, 心筋における脈動パルスや積分核によるパターン形成問題に焦点を当て, 研究を進めていく.
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