2017 Fiscal Year Annual Research Report
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26310212
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
栄 伸一郎 北海道大学, 理学研究院, 教授 (30201362)
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Project Period (FY) |
2014-07-18 – 2019-03-31
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Keywords | 非局所効果 / 細胞極性 / 積分核 / 代謝ネットワーク |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度から始めた, 細胞極性に関する問題で, 外部刺激に応じて極性が定まるべき位置を理論的に予測することに成功した.更に複数の細胞の相互作用により, 各細胞における極性の取るべき配置も解析することができた.これらは細胞分裂時の方向を理論的に理解することに役立つと期待される.結果の一部は既に業績論文としてまとめ投稿中である. また, 昨年度より開始した研究として, 積分核を用いた非局所項を有する方程式に関する研究について報告する.パターン形成問題に関してこれまでチューリングによる拡散不安定性の概念に基づいた, 反応拡散型の数理モデルによる理解が一般的であったが, 近藤らは, 積分核の形状により, より一般的に説明できること, またより複雑なパターンも容易に再現し理解できることを示唆した.また, 実験結果から直接的に積分核形状を求めることができるという利点もある.本研究ではこうしたことを踏まえ, 積分核形状と空間パターンの関係を理論的に考察することから始めたが, 当年度において, 代謝系ネットワークから積分核形状を決定するための方法を確立し, それらを幾つかの具体的なネットワークに応用し有益な情報を抽出することに成功した.それらの成果は現在業績論文として執筆中である.また積分核に関するもう一つの結果として, 離散的に表現されたモデル方程式系を積分核を用いて連続化するための一般的手法の開発をあげることができる.既にショウジョウバエの視覚中枢系モデルにおいて, 従来の離散を含むモデルで示されていたすべての挙動を当該方法により再現できることを確認しており, その成果を現在執筆中である.この方法はその汎用性の高さから, 今後様々な問題に応用していく予定である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年まで行ってきた曲面上のパルス運動に関する研究において, 曲面の幾何特性と複数のピークが安定化するための条件を具体的な形で関連づけることに成功し, 業績論文の執筆に入ることができた点が理由の一つである.実際, パルス運動を記述する方程式は, 質点に関する常微分方程式ではあるが, 一般に大変複雑で, たとえガウス曲率の等高線が楕円形状など, 幾何特性が比較的単純であったとしてもその解析は困難であり, 作図できる程度の具体性を持ってパルス解の安定空間配位を決定できるとは予想されていなかったがその点が克服された. 一方, 代謝系ネットワークから特有の積分核形状を求めることができた点も評価した.これに関しては, ネットワーク構造に空間情報が入っているため当初困難が予想されていたが, 空間情報も積分核の中に含めてしまうという発想により, 非常に簡潔, かつ明瞭な形での表現が可能となった点は予想以上の成果と考えた.更に任意の離散モデルを連続化するための手法を開発できたこともその波及効果の大きさから評価した. 実際, 進行波などは離散モデルでは大変とらえにくい概念であるが, 連続化することにより自然に定義され解析の可能性が生まれるなど, 様々な概念の自然な拡張と理論の発展に貢献できると期待される.
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Strategy for Future Research Activity |
当面は理論を深める方向, たとえば得られた必要情報を用いることによる分岐構造の決定や, 樟脳片形状に依存した進行方向の選択性, あるいは積分核形状と空間パターンの関係に関する理論展開など, これまで数値計算のみでしか確認されていなかった事実に理論的基盤をしっかり与え, より一般の反応拡散系へ拡張するための足がかりを築いていく予定である. 一方それと同時に, 今後も実験による比較検証を行っていくためには, 実験による検証が可能な条件設定の元での理論造りも重要となってくる.たとえば通常, モデル方程式に入っている非線形項はかなり具体的な関数形を使用することが多いが, 実際の現象では単調性や on-off など定性的な性質しかチェックできないことが多い.今回, 樟脳片のモデルではそのような試みはおおむね成功したといえるが, その他のモデル方程式においても適用可能な, 実験で検証できる条件だけで帰結できる理論造りも重要と考え, その構築も目指していく予定である.具体的には上述の, 積分核によるパターン形成問題などに焦点を当て, 実際にどれくらい有用な情報が得られるかという観点から研究を進めていく.
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Causes of Carryover |
物品購入による端数を繰り越した.消耗品の購入に充てる予定である.
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Research Products
(11 results)