2015 Fiscal Year Research-status Report
製品・サービスの意味性を明らかにするビジネスマイクロエスノグラフィ手法の開発
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26330228
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Research Institution | The Open University of Japan |
Principal Investigator |
黒須 正明 放送大学, 教養学部, 教授 (30283328)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | UX / エスノグラフィ / UXグラフ / 満足感 / エピソード / Webツール |
Outline of Annual Research Achievements |
研究テーマであるビジネスマイクロエスノグラフィは、ビジネス対象である製品やサービスについて、その利用者(ユーザ)がどのような経験をしたかを素片的(つまりマイクロな視点から)収集し、データに基づいて、ユーザの経験(UX)を総体的に明らかにすることを目標としている。 初年度と今年度前半では、Kujala達の開発したUXカーブを改善して申請者が新たに開発したUXグラフをメインツールとして位置づけ、今年度後半では、そのWebアプリ化を推進した。これによって、グラフを記入しようとするユーザは、素片的な経験データを、必ずしも時系列的に想起する必要が無く、自由に記入することができるようになった。 およそ一年半の期間で開発や紙ベースでのデータ収集を行ったUXグラフという手法は、横軸に時間をとり、縦軸に意味性の結果としてもたらされる満足感をとり、各時期における満足度の水準を関連するエピソードと共に記入する手法である。 トータルな満足感は、最新の評価値と最大値とによって決定されるというKahnemanの説があるが、申請者が目標としているのは、単独の値としてのトータルな満足感ではなく、どのような出来事、つまり理由や原因によって、ユーザがどの程度の水準の満足感を得るかということであり、個別のエピソード的経験を収集することが必要である。もちろん記憶の変容や減衰という問題があるので、調査時点から遡るに連れて、データの信頼度は低下すると考えられ、また欠損も発生しているとは思えるが、次の開発において、満足感の高かったエピソードはそのまま保存し、満足感の低かったエピソードについては改善を施、トータルとしてのUXの満足度水準を向上させることが重要であるため、多少の信頼性の低下やデータの欠損については致し方ないことと考えた。 さらにアプリ化することによって、データ記入におけるユーザの心理的負担は軽減された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
・満足感と意味性を品質特性(客観的品質特性と主観的品質特性、および、設計品質と利用品質を含む)の集約的指標とし、それがUXの規定要因のなかで重要な位置を占めるという点については、HCII2015にて発表し、かなりの反響を呼んだ。特に関心のある海外、主にイギリス、の関係者と集まって、セッション終了後にその適切さを討論する場を設けるという、一般の発表ではあまりない形で、その内容が審議され、関係者の理解を得ることができた。このことは、満足感ないし意味性が重要な特性であり、それを指標にしてUXに関するデータを取得するという申請者のアプローチの適切さが確認されたことと解釈できる。 ・Webツールについては、情報処理学会のインタラクション2016などの機会に発表を行い、多くの人々から有益なフィードバックを得ることが出来た。具体的に一例をあげれば、UXグラフでエピソードを記入してもらうと、そのエピソードについて背景情報が欲しくなる場合があり、通常はインタビューを行うわけだが、オンラインでデータを取得するやり方の場合にその点はどうなるか、という質問があった。これについては、質問すべき内容をあらかじめ用意しておき、オンラインで対面インタビューと同等の情報を得ることができる方式を検討中であり、2016年度にシステムとして実装する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である2016年度において検討すべき内容は主に二つに絞られる。一つは、上記したオンラインインタビューという手法の確立と実装であり、もう一つは、横軸、つまり時間軸についての厳密さがどれほどの重要性を持つか、という点の検討である。 前者については既に述べたので、ここでは後者について補足する。UXカーブでもUXグラフでも横軸には時間を取っている。そして一般にはその時間軸の等単位性が過程されている。つまり、時間軸は、利用開始から現在の時点まで、等間隔に分割されている、という前提である。しかるに、人間の記憶は曖昧であり、あるエピソードが利用開始から4年目だったか5年目だったかを明確に答えることは困難であり、またデータ取得側からすれば、そのような差は大きな意味を持たない。他方、UXについては、利用開始前の期待感、利用開始したときの印象、利用開始してからしばらくの印象、そして現在に至るまでの期間(ながいものでは数年以上にわたる)における印象、(比較的記憶が鮮明と考えられる)最近の印象、調査実施時の印象、調査実施時点での近未来に対する期待感、といった形で、質的に時間軸を分割すれば十分であると考えられる。そこで、上記7つの時間枠について調査を行うこととし、またデータの殆どが記憶から再構成されるものであることを考慮して、経験想起法(ERM: experience recollection method)というUXグラフの改訂版を考案した。 現在、ERMによるデータ収集を紙ベースで進行中であり、今後は以下の項目を達成して、3年間の研究をまとめる予定である。1. ERMのデータ収集とその分析、妥当性の検証、2. ERMのWebツール化、3. オンラインインタビューのWebツール化。これらの研究を一連の研究の総括として位置づけ、3年間の研究をまとめる計画である。
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Causes of Carryover |
インタビュー調査のインフォーマント謝金に用意していたが、年度内に学内で新規科目の作成という業務が発生し、年明けまで調査を実施できる日程が取れなかった。しかるに年度末にも中国への出張などが入ってきて、結局、年度内に調査が実施できなくなってしまったため、次年度使用ということになったものである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額と今年度予算とを合わせて、年度内前半には調査を実施する。
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