2014 Fiscal Year Research-status Report
三高四高由来実験機器を軸とした科学史研究と機器の史料的意味の解明
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26350367
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Research Institution | Osaka University of Economics and Law |
Principal Investigator |
永平 幸雄 大阪経済法科大学, 公私立大学の部局等, 教授 (20122195)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岡本 拓司 東京大学, 総合文化研究科, 准教授 (30262421)
小長谷 大介 龍谷大学, 経営学部, 准教授 (70331999)
有賀 暢迪 独立行政法人国立科学博物館, その他部局等, その他 (90710921)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 物理学史 / 科学機器 / 史料 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、三高由来、四高由来の物理実験機器を軸にして、4つのテーマで科学史研究を行い、機器現物のもつ科学史研究上の史料的意味を問うものである。初年度の2014年度は、文献のみによる科学史研究を行い、その研究結果を全員参加の研究発表会にて報告して認識共有を図ること、そしてそれらの報告後に機器現物調査を行って調査後の認識変化を見出すことが課題であった。 京都大学総合博物館での4テーマの研究発表会(2015年2月の1泊2日)と機器現物調査、石川県立自然史資料館での現物調査(2015年3月の1泊2日)において上記課題追求を行った。 文献のみ科学史研究の発表テーマと内容は次のとおりであった。1)岡本拓司「オシロスコープの原型の普及度と利用形態の調査」。オシロスコープの原型は弦線電流計にあり、医学用の重要機器であり、加藤元一(慶大医)の神経伝導不減衰説の実験的基礎を提供したことを明らかにした。2)小長谷大介「検流計を研究史料とした、19世紀末の電磁気学関連研究史」。19世紀末~20世紀初頭のルーベンスやパッシェンらの熱輻射研究における検流計の果たした役割を明らかにした。3)有賀暢迪「X線をめぐる理論と機器の歴史研究に向けて」。初期のX線の理論史とX線管の発達史を概観し、両者の界面に注目する研究の必要性を指摘した。4)永平幸雄「機器を軸とした、20世紀初頭の分光学と原子構造解明過程の研究」。エシャロン回折格子やルンマーゲールケ板等が高分解能の分光分析に道を開き、その後の干渉計型分光技術の発展につながっていたことを明らかにした。この研究は2014年5月の科学史学会に発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2014年度の予定は、文献のみの科学史研究とそれぞれの研究対象機器の現物調査であった。文献のみ科学史研究は京都大学総合博物館での2015年2月の研究発表会で報告された。現物調査は京都大学と石川県立自然史資料館で実施した。京都大学では、研究会終了後に、総合博物館所蔵の三高由来実験機器21点、理学部物理教室蔵の実験機器10点の現物調査を実施し、石川県立自然史資料館については、1か月後に四高由来実験機器21点の現物調査を実行した。現物調査では、研究対象機器について、機器内部の構造等も含めて参加者全員で議論しながら調査を進め、現物の持つ「もの知識」をより深く把握することができた。このことは、2015年度の現物調査後の科学史研究につなげていくことができたと言え、達成度は順調と評価できる。 しかし、文献情報と現物の「もの知識」について現物調査後に本格的に議論することは、時間的制約があって行うことができなかった。その点で、「おおむね」順調と表現できる達成度である。
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Strategy for Future Research Activity |
2015年度は、文献のみ科学史研究及び機器現物調査での機器「もの知識」の把握を前提として、第2次の<文献・機器現物>科学史研究を4テーマで実施する。 2014年度の現物調査で、各テーマの対象実験機器ごとの保存状況が明らかになってきた。オシログラフでは、京大理学部物理教室所蔵の機器では横河電機製のオシログラフが残存していたが、弦線部分と撮影記録部分が失われていたこと、四高由来オシログラフでは、オシログラフの原理を説明する教育用の機器と横河電機製オシログラフの弦線部分が現存していたことが明らかになった。検流計では、パッセン型検流計が京大医学部由来の機器中に現存していたこと、三高由来の検流計の多くが回路配線や懸垂糸が切れていたりして、再現実験が困難であることが判明した。分光器関係は、保存状態がよく、実験の再現が可能であることが判明した。 各テーマの第2次文献研究ののちに、対象機器の第2次現物調査を進める。特に、分光器関係機器の保存状態がよいので、永平幸雄テーマの歴史的実験の再現を物理学者とともに進めて、さらに深い分光器「もの知識」を得て、科学史研究に含め込んでいく。 4テーマの研究の現物調査後の研究発表会を2015年度末に開催し、歴史的実験機器の「もの知識」の史料的意味について報告討論して、課題を全体としてまとめていく。
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Causes of Carryover |
歴史的物理実験機器の研究には、当時の物理学書や実験機器商品カタログが多数必要となる。それらを4人の科学史研究者で共有するため、PDF化して、Googleドライブにアップする必要があった。そのため、カタログの約200点、その他の物理教科書等を含めると約300点の書籍・パンフのPDF化を行った。謝金を利用したそれらの作業が予定以上に効率よくできたので、謝金は10万円以上節約できた。またカタログ等の歴史的実験機器史料を共有化できたので、4人の研究者の資料調査収集のための出張費が予定より少ない費用ですますことができ、旅費は約30万円節約できた。これらが、次年度使用額が生じた主な理由である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度は、実験機器史資料のさらなる収集、4テーマの全員参加の研究発表会、諸学会での発表と意見収集および第2次現物調査に、助成金を活用していくつもりである。いままでの実験機器史資料のPDF化は永平幸雄の所蔵資料を利用できたが、今後は実際に旅費等を使用して、大学・博物館・資料館等の図書館での収集が必要である。第2次現物調査では、実験機器の保存状況を見て可能な限り歴史的実験の再現を目指す。特に分光機器については保存状態がよいので、それが可能である。その費用として、実験再現を可能とする物理学研究者への謝金や、光源、測定等物品費が必要となるので、助成金をそれらの費用に活用する。
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