2015 Fiscal Year Research-status Report
過去の地震・津波災害における死者発生分布の法則性の解明
Project/Area Number |
26350479
|
Research Institution | Fukada Geological Institute |
Principal Investigator |
都司 嘉宣 公益財団法人深田地質研究所, その他部局等, 研究員 (30183479)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中西 一郎 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (10164229)
佐藤 孝之 東京大学, 史料編纂所, 教授 (30170757)
矢田 俊文 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 教授 (40200521)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 安政江戸地震(1855) / 大正関東震災 / 元禄地震(1703) / 中越地震(2004) / 北丹後地震(1927) / 活断層直近の死者 / 旧河川の地震死者 / 津波による死者 |
Outline of Annual Research Achievements |
地震津波による死者の発生に関して歴史事例を研究した。大都市を襲った地震による死者発生事例の研究として、安政江戸地震(1855)および大正関東震災(1923)による死者発生法則について、旧河川の流路との関係を解明した(都司、2015-a)。安政江戸地震の状況を記録する原初史料の調査の一環として、共同研究者佐藤は、米国イェール大学所蔵日本関連資料のなかに『なゐ記』を発掘した。さらに『近世史稿』の中に安政江戸地震にかんする史料「地震ゆり状」を発掘し論じた(佐藤、2016-a、および2016-b)。 平野内を走る断層位置が解明されている北丹後地震(1927)の死者分布が、断層線の直東側で非常に多く発生したことが判明した(都司、2016-b)。 大規模な山崩れと土砂ダムの発生を伴った弘化善光寺地震地震(1847)等を考察した(都司、2015-c)。 研究分担者矢田(2016-a)は元禄地震津波(1703)の九十九里海岸での死者発生と津波到達点との関係を論じた。また、飛越地震(1858)について、山間部の直下型地震のさいの家屋倒壊と死者の発生の関係を論じた(矢田,2016-b、矢田ら,2016-c)。また新潟県中越地震(2004)と越後三条地震(1828)について平野部および丘陵地帯で発生した直下型地震の家屋被害、及び死者分布を論じている(矢田、2016-d)。 共同研究者中西は西日本での歴代の南海地震による被害を分析した。愛媛県愛南町で、安政南海地震(1854)による庄屋記録と宇和島藩記録を比較した(中西2015-a)。また宝永地震(1707)による高知県での大規模土砂災害に着いて論じた。さらに、中央構造線に生じた慶長豊予地震が被害分布の分析から慶長豊後地震と慶長伊予地震の別個の地震であった可能性が論じられている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、内陸で直下型地震が生じた場合、その地震による家屋被害分布と死者の分布が異なることに気付かれたことから始まっている。すなわち、その地震を引き起こした断層線の位置が判明しているとき、家屋被害分布は広域に拡がるのに対して、死者の分布は、断層線にごく近い地域に集中して発生する傾向があることが研究者の間で漠然と気付かれていた。さらに、海溝型巨大地震の場合には、断層線が地上を走ることはないが、その場合には、河川の後背湿地の上で死者が多く現れる傾向があることも、気付かれていた。これらの事実は、明治初期以後に発生した断層位置の判明している内陸地震、或いは海溝型地震について検証し客観的に証明できるかどうかは曖昧であった。地震による人の死亡原因は究極的には何に依っているのかの解明は、人命保護のための地震津波対策として必要な基礎知識となるはずである。 全三年計画のうちの二年を経過して、近世の事例として、濃尾地震(1891)、北丹後地震(1927)、および大正関東震災(1923)の家屋被害、および死者の分布が調べられた。その結果、死者はその地震の原因となった活断層線の上盤側の直近で集中的に生ずることが判明した。また、大正関東震災のような海溝型地震の場合には、河川の後背湿地に当たるところで倒壊家屋1軒辺りの死者数が集中的に大きくなることが判明した。利根川は徳川家康の流路変更工事によって、現在の埼玉県羽生市付近から東京湾に注ぐ流路であったものが銚子に向かう流路に変更された。旧流路は埼玉県内は「古利根川」と呼ばれる細流になっている。しかし、関東震災で死者が集中的に出た場所は旧流路の古利根川の流域、あるいは後背湿地に当たる場所であった。ここは、液状化が激しく起きた場所と一致している。地震による死者発生の集中する場所が解明され始め、本研究の当始の目的が達成されつつあると言えるであろう。
|
Strategy for Future Research Activity |
我が国の歴史地震事例の中には、内陸の広域に家屋および人的被害が分布している例がある。安政元年(1854)伊賀上野地震、弘化4年(1841)善光寺地震、宝暦元年(1751)越後高田地震、明和3年(1766)津軽地震、天保元年(1830)京都地震などである。これらの大部分はどの活断層の活動による地震であったのかが未確定である。死者の分布を主たる指標として、さらに大規模な斜面崩壊、液状化分布などから活断層を特定する研究を第三年度の課題としたい。さらに、本研究によって成し遂げられた参加各位の論文を集め、論文集として刊行することを予定している。 なお、2016年4月14日から始まった一連の熊本地震は布田川断層と日奈久断層の活動であったことが判明しているが、これで生じた49名の死者の死亡地点は布田川断層の直近北側に並んでおり、まさに本研究の成果を実証する結果となっている。本年の熊本地震もまた、本研究の対象のひとつとしたい。熊本地震は、将来地震が発生する可能性のある活断層の直近の家屋へ、人命を守る事に重点を置いた建築物の耐震性が考慮されるべきである。これに対する考察も加えておきたい。
|
Causes of Carryover |
次年度は最終年度であるので、完成に至っていない課題研究の完璧完成にあてる。また参加研究者全員が、この研究に関して作成した論文集を刊行する予定であり、このための印刷費用に資するためその支出の一部を次年度使用分を宛てる。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
最終年度の課題研究の完成のための調査旅費等として326,509円を宛てる。 本研究に関する論文集を刊行するために400,000円を宛てる。
|
Research Products
(13 results)