2016 Fiscal Year Research-status Report
アルツハイマー病モデルマウス初期病変における不飽和脂肪酸合成酵素SCDの役割
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26350984
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Research Institution | Tokushima Bunri University |
Principal Investigator |
宋 時栄 徳島文理大学, 大学共同利用機関等の部局等, 教授 (00399693)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中島 健太郎 徳島文理大学, 大学共同利用機関等の部局等, 助手 (20449911)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | アルツハイマー病 / 病態モデルマウス / 樹状突起 / シナプス / 免疫組織化学 |
Outline of Annual Research Achievements |
抗SCD1、2抗体を用いた免疫組織化学的検索、in situ hybridization (ISH)あるいはlaser capture microdissection (LCM) を用いた遺伝子発現解析によって以下の成果が得られた。 1.これまでに行った正常ラット、3 x Tg AD マウス、野生型マウスの海馬での免疫組織化学的検索、LCMによって採取した野生型マウス海馬錐体細胞を用いたreal-time PCRによる解析、SCD1、2特異的RNA probe を用いたISHの結果から、神経細胞での発現は主としてSCD2であると考えられた。そこで生後0、1、2、3、4、8週齢ラット海馬でのSCD2免疫活性を免疫組織化学的に検索すると、出生直後では錐体細胞には認められず、周囲の太い突起状構造に強い線状の活性が認められるが、1週から2-3週にかけて細胞体で強い活性が認められるようになり、4週以降はやや減弱する。一方、樹状突起領域では太い突起での発現が薄れ、突起の全長に亘って弱陽性所見が認められるようになった。 2.野生型マウスの錐体細胞内、放射状層のSCD免疫活性は微細顆粒状の分布を示し、SCDが小胞体のような細胞内小器官に局在していることを示す可能性が示唆された。一方、3 x Tg AD マウスの錐体細胞内および放射状層でのSCD免疫活性はび漫性に認められた。 3.以上の結果からSCDは発生過程および神経細胞の変性過程で局在の変化を示す可能性が示唆された。 4.生後750日の3 x Tg-ADマウスおよび対照動物の脳切片を用いて、LCMで切り出した錐体細胞層、放線状層および大脳皮質からRNAを抽出し、real-time PCRによりシナプスに関連する約20遺伝子の定量的解析を行った。その結果、CaMKⅡ など、両マウスで発現に差の見られる遺伝子をいくつか見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
昨年度から、本研究計画の実施に不可欠の3 x Tg -ADマウスの交配、維持に困難を来たし、妊娠率の低下、出産しても母マウスが仔を食殺するなどのトラブルが断続した。その結果、出生後から経時的にサンプリングした検体を用いて、免疫組織化学的検索などの組織学的検索とLCM によって採取した検体を用いての遺伝子発現の検索とを並行して進める計画に支障が出た。このため、研究計画の 1年延長を申請し、承認された。 この間、待ち時間が長いため、先行して既に検体採取を終えていた老齢3 x Tg -ADマウスおよび野生型マウスを用いて、海馬の錐体細胞層、樹状突起領域である放射状層を取り分け、それらの部位での遺伝発現を解析する技法の確立を進めて来た。その結果、組織学的検索に頻用されるパラフォルムアルデヒド固定切片から切り出した領域、さらに免疫染色を行って同定した細胞をLCMで採取し、それらの検体から抽出したRNAを用いて高感度の定量的PCRを行えるようになった。試験的に調べた20遺伝子の中に、老齢3 x Tg-ADマウスと野生型マウストとで発現変化の認められる遺伝子が同定されたことから、この手法は本来の主題である3 x Tg-ADマウスの初期病変の解析にも有力であることが期待される。 一方でSCD2発現の免疫組織学的検索から、発生過程で、また3 x Tg-ADマウスと野生型マウストとで神経細胞内でのSCD2の局在が変化する可能性が示唆され、その機能的意義が注目される。
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Strategy for Future Research Activity |
3 x Tg -ADマウスの維持、交配の困難は、mating pair に何らかの劣化が生じたと判断し、新たなmating pairを入手して交配を行った結果、円滑な出産、仔の成長が回復し始めた。また今年度までに、固定や免疫染色を行った脳の切片から、特定領域あるいは細胞をLCMで採取し、抽出したRNAを用いて高感度の定量的PCRを行うことが可能となってきている。こうした解析技術を用いれば、同一の固定組織ブロックから連続切片を作製し、病理組織学的、免疫組織化学的解析と、LCMと組み合わせたreal-time PCRによる解析を並行して行うことが可能であり、組織学的解析所見と遺伝子発現解析結果を比較検討することで、病変成立の背景にある様々な分子の発現変化を探索できる。従って、延長した1年の期間には、本来の最終年で計画していた3 x Tg-ADマウスと野生型マウスを出生後から経時的にサンプリングし、主として海馬を中心に、LCM によって錐体細胞層、樹状突起領域である放射状層を取り分け、それらの部位でのSCD2の発現変化を定量的に検索する。また、今年度に老齢3 x Tg-ADマウスで先行して調べたようなシナプス関連分子の発現変化も合わせて検討する。それらの変化と、既に免疫組織学的検索によって明らかとなった海馬の錐体細胞層、放射状層でのSCD2の免疫活性の量的ならびに局在の変化とを総合的に検討して、この病態モデルマウスの初期病変の実態およびその病変の成立過程でのSCD2の機能的役割を検討する。
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Causes of Carryover |
本研究計画の実施に不可欠の3 x Tg -ADマウスの交配、維持に困難を来たし、妊娠率の低下、出産しても母マウスが仔を食殺するなどのトラブルが断続した結果、最終年度の計画項目の実施が困難となり、実施期間を1年延長したため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当初の計画で最終年度に予定していた、3 x Tg-ADマウスと野生型マウスの海馬錐体細胞層、放射状層でのSCD2並びにシナプス関連分子の発現解析に必要な、LCM関連消耗品、組織学的検索に必要な抗体その他の消耗品の購入に充当する。
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