2015 Fiscal Year Research-status Report
多重電極・電流源解析によるサル前頭葉層構造マップの作成
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26350991
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
坂本 一寛 東北大学, 電気通信研究所, 助教 (80261569)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | サル / 運動前野 / 局所電場電位 / 周波数-時間解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
最新の多重電極(記録点が正確な間隔で配置された電極)を用い、覚醒ザル前頭葉諸領野から脳波と同じ比較的遅い周波数成分(数Hz~数百Hz)の神経活動である局所電場電位(以下LFP)を多点記録し、隣り合う記録点間でLFPの2階差分を計算すると、電流源密度(CSD)推定することができる。電流の流れ込みは、主にその部位へのシナプス入力を反映していると考えられているが、本研究では、流れ込み位置を同定することにより、これまで行われたことのない“入力”に基づく生理学的3次元マッピングを行う。これにより、これまで知られていなかった新たな皮質領野の区分が発見されると期待され、今後の前頭葉機能解明の大きな基盤になると期待される。 大脳の領野区分を明らかにするには、それらの領野の機能と関連する行動課題遂行中の脳活動を解析する必要がある。前頭葉は作業記憶や予測、意思決定、行動準備等に関わっていると考えられているが、これらの認知・行動要因を要求する形操作課題遂行中のLFPについて解析を行った。平成27年度は、①背側運動前野から記録されたLFPの周波数成分の特徴的な時間変化の解析、②その特徴的変化と行動課題との関連性の解明、③新規・内視鏡型脳活動イメージングシステムの立ち上げを行った。 背側運動前野は、外側前頭前野とは全く異なるLFPの周波数-時間特性を示した。具体的には、課題開始時から意思決定可能な時期まで、ゆっくりした周波数(γ→β→θ帯域へ)の低下が見られた(①)。特に、試行開始直後のγ→β変化では、γ帯域が課題遂行の認知的側面に関連する状態から運動遂行に関連する状態へ変化する様(機能的シフト)や、運動遂行に関連する周波数成分がγ帯域からβ帯域への変化する様(周波数シフト)が特徴的な所見として見られた(②)。また、③については内因性脳活動信号を覚醒ザル前頭葉において記録することに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
現在まで、前頭前野におけるシナプス入力に基づく生理学的3次元マップを得ることに成功した。また、LFPについてのウェーブレット解析を行うことで、記録領野に特徴的な周波数-時間変化が見られることが明らかとなった。具体的には、外側前頭前野では、課題開始時に、α→θ→δという変化が、背側運動前野には、課題開始時から意思決定可能な時期までゆっくりした周波数(γ→β→θ帯域へ)の低下が見られた。 LFPは体積伝導により大脳皮質内を広く拡散すると考えられている。本研究を通じ、それは錐体細胞が皮質層構造を縦貫していることによる垂直方向の拡散についてはあてはまるが、水平方向には必ずしも当てはまらない、ということが明らかとなりつつある。つまり、外側前頭前野と背側前頭前野は、皮質上の位置としても比較的近隣にあり、また、解剖学的には密接に関連する領野だが、LFPの課題依存性の周波数時間変化は全く異なり、明瞭に区別できるのである。 これまで、大脳皮質の領野の区別は、神経細胞活動の課題依存性の空間分布がある境界で不連続になることを生理学的な基準としてきた。しかしながら、個々の神経細胞活動の性質は非常にバラつきがあり、領野の境界の確定が容易でない場合も多々ある。LFPの課題依存性周波数-時間スペクトルは、これまでの細胞活動に基づく手法を大きく補い、今後、更なる皮質領野の機能マッピングを推し進めるのに有用であると期待できる。 また、更なる機能マッピングを推し進めるため、光ファイバを用いた微小内視鏡により、脳の内因性活動を記録した。具体的には、第一次運動野に刺入した内視鏡より、刺入部位特異的なフラビンタンパクイメージを得た。この結果は予備的なものであるが、今後は、微小電極法と内視鏡によるイメージングを組み合わせることで、より詳細な皮質機能マップを作成できる大きな展望が広がった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、背側運動前野における局所電場電位(以下、LFP)の電流源密度(以下、CSD)解析による生理学的3次元マッピング、背側運動前野と外側運動前野の相互作用、LFPの周波数間相互作用、LFP-細胞発火の相互作用について解析を進める。CSDによる3次元マッピングを行うと、皮質のどの層にどのタイミングでどういう(興奮性または抑制性)の入力が来ているかを推定することができる。また、これらの入力がどういう周波数成分のものであるかも明らかにする。更に、背側運動前野と外側運動前野のLFPのどういう成分がどういう時期に同期するかを解明し、その課題遂行との関連性を解析する。一方、近年、LFPの異なる周波数成分間の機能連関が注目を集めている。その点についても、本課題との関係で解析を進める。LFPが局所神経回路への“入力”を反映するなら、神経細胞発火は“出力”を意味する。ある記録点におけるCSDと細胞発火の課題依存性を対比することにより、大脳皮質の局所神経回路でどのような処理がなされているかを解明することができる。これを更に、記録した皮質各層について検討すると、大脳皮質の各層の局所神経回路の3次元機能マップの詳細が得られると期待される。 一方、微小内視鏡と微小電極を組み合わせたプローブを開発することにより、代謝活動による内因性の信号と、LFPや細胞発火等の電気的活動との対応を、詳細に解明することができる。これにより、非侵襲的な計測しかできないヒトにおいてよく用いられているLFPの空間加算的信号である脳波と、fMRI(機能的核磁気共鳴イメージング)の結果との対応を、ヒトのモデル動物であるサルにおいて、突き詰めていくことが可能となる。このような技術の更なる確立にも努めたい。
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Causes of Carryover |
多重電極を購入予定であったが、円安のため、価格が上昇し、当該年度内には最新型を必要本数購入することができなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
翌年度分として請求した助成金と合わせることで、多重電極を購入し、研究を遂行する。
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Research Products
(7 results)