2015 Fiscal Year Research-status Report
意味のデフレーショナリー理論の研究―ウィトゲンシュタイン意味論の理論化の試み―
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26370017
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Research Institution | Nagaoka University of Technology |
Principal Investigator |
重田 謙 長岡技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 特任准教授 (30452402)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 意味論 / ウィトゲンシュタイン / 意味の反実在論と実在論 / 指標詞「私」 / デフレーショニズム / 独我論 / 私的言語論 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は,まず「研究目的2」(LWにおける指標詞「私」と意味論(DML)の論理的関係とその変遷についての探究)の step1(『論理哲学論考』(TLP)における指標詞「私」の消去とこの時期の真理条件意味論および私的言語の擁護との関係の考察)に取り組みました.そして,TLPは①指標詞「私」を有意義な命題の集合から完全に排除している,②DMLのテーゼ「意味の反実在論」を否定する「意味の実在論」を採用している,③それら(①②)によって特異な仕方で独我論(あるいは「独我論と実在論の一致テーゼ」)を擁護している,という見解を得てそれに一定の論拠を与えることできました.(”’Solipsistic’ Realism via the Logic of Tractatus” 2015) 引き続いて「研究目的2」のstep2(『哲学的考察』(PB)の時期における無主体用法としての「私」と検証主義的意味論の関係の考察)に取り組んで,LWが哲学を再開した後,すくなくとも1930年末頃までは,TLPにおいて明らかになった欠陥(「要素命題の相互独立性のテーゼ」)を補う論理的な枠組みにおいて,上記①②③が継承されていることを検証しました.その研究成果の一部として,PBにおける「意味の実在論」のデフレーショナルな特質を解明し,”Deflationary Semantic Realism in Early ‘Middle’ Wittgenstein” にまとめました(現在投稿中). さらに,口頭発表「意味の反実在論と私的言語批判 ―『哲学探究』における意味論と感覚論―」(2016)では,『哲学探究』(PI)の規則論と感覚論(§243~315)との論理的関係の解明を通じてDMLのテーゼ「意味の反実在論」が[ 4. 私的言語批判](→「独我論論駁」)を含意することを論拠づけました.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の[研究目的 1, 3]は現代意味論の外在的観点から,また[研究目的 2]はウィトゲンシュタイン による指標詞「私」の考察の系譜という内在的観点からそれぞれDML の可能性を探究するものです. これらの目的は相対的に独立しているので1年目は現在の研究の進捗状況に最も適合していると考えられる[研究目的2]に主に取り組み,基本的には2年目もそれを継続しました. [研究目的2]に当初の計画より時間をかけているのは,それが想定されていた以上に困難だからではなくむしろその探究を通じて,本研究の目的(DMLを意味論として可能な限り精緻に理論化していくこと)を推進していくために,想定されていた以上の有益な研究成果が得られていること,それにともなって追究に値する諸問題が派生しているからです. [研究目的2]の追究による有益な研究成果としては,①DMLのテーゼ「意味の反実在論」と正対しており,かつLW自身がPI以前に支持していた「意味の実在論」の内実の解明が進んでいること,②①を通じて,有意義な命題の集合への指標詞「私」の導入を許容するかしないかがDMLのテーゼ「意味の反実在論」を帰属できる時期のLWと「意味の実在論」を帰属できる時期のLWを分かつきわめて重要な特質であること(暫定的な仮説),また③①をつうじてDMLのテーゼ「意味の反実在論」を否定するPI解釈者およびLW研究とは独立に意味論研究を推進している現代の言語哲学者が支持する「意味の実在論」の内実,そしてそれらの「意味の実在論」とDMLのテーゼとの差異の具体的解明が進んでいること,などをあげることができます. また以上のような[研究目的2]の深化は,現代意味論におけるDMLの位置づけに一定の解明を与えることにも間接的に寄与しています.したがって,それによって[研究目的1, 3]が間接的に推進されていると言うことができます.その意味では研究の内実としては進捗は順調です.
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度の研究を主導した理論的な作業仮説は次のものでした.:DMLのテーゼの否定(意味の実在論)→ DMLの帰結4の否定(私的言語の擁護)→ 独我論の擁護.(もしDMLのテーゼを否定するならば独我論が正当化される,という仮説です). そして昨年度の研究を通じて具体的に論拠を与えることができたのは次のテーゼです;(TLPからPBに至る1930年末頃までにおいて)(DMLのテーゼの否定(意味の実在論)∧ 指標詞「私」の有意義な命題からの完全な排除)→ 独我論の擁護(あるいは「独我論と実在論の一致テーゼ」の擁護) また今年度の研究を主導する新たな理論的な作業仮説は次のようになります.: 指標詞「私」の有意義な命題集合への導入を許容するかしないかは「意味の反実在論」(DMLのテーゼ)を帰属できる時期(30年代半ば頃)のLWと「意味の実在論」を帰属できる時期のLWを分かつ決定的に重要な特質である. この作業仮説を論拠づけていくための下位課題は,①指標詞「私」の本質は何か(それが「0次内包」文脈において ’I feel pain'のような言明に使用されるとき不可謬であることがその本質だと言えるか),②指標詞「私」は言語ゲームが成立するための超越論的な条件であるのか,③指標詞「私」が言語ゲームに導入される理由は何か,です.今後はまずこれらの下位課題に取り組んでいきます. またこれまで論文,口頭発表など研究成果に直接反映されているのは[研究目的2]についてだけであるが,[研究目的1,3]の予備作業として関連する重要文献(S. Soames Reference and Description 2004, D. Chalmers, “Foundations of Two-Dimensional Semantics,” 2006など)の詳細な読解は継続的に進めており,その作業は文献を精選して今年度も継続していきます.
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Causes of Carryover |
本研究の1年目から2年目への移行期に次の理由で250千円程度の繰り越しが生じました:本研究の申請後,平成25年12月に現在の大学の職に新規で着任しました.そこでは自分の専門に加えて,これまで未経験の新しい業務(革新的なエンジニアを育成するためのパイロット事業としての工学系学生に対する教育プログラム)を担うことになり,それによって本研究のエフォート率が申請時の45%から10%程度減少することになりました. また申請においては本研究の1年目に,国際学会で発表する予定でしたが,上記の事情によってその遂行を見送ることにしました. 基本的には2年目の平成27年度は,着任に伴う新規の業務にもなじんできたので,エフォート率を申請時並みに改善することができました.したがって27年度はほぼ計画通りに予算を消化できたので,繰り越しは1年目から2年目に発生したものにほぼ対応しています.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
実質的には昨年度の最後に購入手続きに入り,会計処理上は反映されなかった物品費(書籍購入費等)が100千円程度がすでに消化されています. また,28年度5月現在ですでに投稿を完了している欧文論文2本 ”Deflationary Semantic Realism in Early ‘Middle’ Wittgenstein”(2016)など,および2つの口頭発表「意味の反実在論と私的言語批判 」(2016)など,について相当な分量の草稿をすでに執筆しているので,それらを素材として当初の研究計画には含まれていない新しい欧文論文の投稿を2,3本ほど追加,また欧文,邦文を問わず本研究の成果を(成果報告とは別に)著作としてまとめることを検討し,そのための経費に繰り越された研究費を充当する予定です.
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