2015 Fiscal Year Research-status Report
応用倫理諸領域の議論の検討に基づく災害時の倫理学の構築
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26370024
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
高橋 隆雄 熊本大学, 大学院先導機構, 客員教授 (00145278)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 災害倫理 / 人間と自然 / トリアージ / 防災計画 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでの倫理学は通常の状況における人間の行為の在り方を追求してきたが、災害という特殊な状況での行動に関しては、社会契約論における自然状態論や戦争の倫理学を除いては、倫理学ではこれまでほとんど主題として研究されてこなかった。ただし、生命倫理、環境倫理、情報倫理、技術者倫理等の応用倫理学諸領域では、それぞれの立場から災害と人間についての議論がなされている。本研究は本格的な災害の倫理学を応用倫理学の諸議論等を手掛かりに探るものであり、それを通じて災害時の倫理原則の提示や、その基盤にある新たな人間観の探究を目的としている。平成27年度は研究の二年目として、災害時の倫理学の構築とともに実際の防災計画との関係をめざす研究した。一つは、前年度の研究を踏まえて「トリアージ」についての倫理学的考察から、災害緊急時における倫理原則を、災害に遭遇している個人、そして災害時に救助に当たる人についてそれぞれ考察したが、前年度からさらに深化させた。具体的には、災害緊急時の倫理原則の中で、を自分も避難しつつある人が家族を救助する場合とそうでない場合を区別した点である。これにより、災害時の倫理原則はより実践的になるとともに、R.M.ヘアの緊急時のジレンマへの解答や、D.デヴィッドソンの逸脱した因果性といった哲学・倫理学の問題とも深く関係することとなった。二つ目は、地区防災計画学会での発表を通じて得たものである。それは、災害時の倫理原則と防災計画の議論をリンクさせることで、災害時の倫理学が実際の防災計画の中で占める位置を明らかにするとともに、逆に、防災計画の議論を構造化し論点を明確化するのに災害時の倫理学を活用することの可能性が見えてきた点である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
災害倫理学の中で中核となる災害時の倫理原則の研究が順調に進展している。また、災害時の倫理原則と、それを導く方法論が、実際の防災計画の議論と密接に関係することも判明してきた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度、27年度の成果を踏まえて、災害時の倫理と通常時の倫理の関係、災害の持つ倫理学的意味、災害時の倫理と実際の防災計画の関連について研究していく。その際、今回の熊本地震で被災者として災害を身をもって経験した者の立場から、従来の研究にさらなる具体的・実践的内容を付加していきたい。
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Research Products
(5 results)