2014 Fiscal Year Research-status Report
大谷探検隊・ドイツ探検隊収集の漢字仏典統合データベースの構築
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26370062
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Research Institution | Ryukoku University |
Principal Investigator |
三谷 真澄 龍谷大学, 国際文化学部, 教授 (20411275)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 国際研究者交流 / ドイツ / トルコ / 中国 / 旅順博物館 / 大谷探検隊 / トルファン探検隊 / 仏教写本 |
Outline of Annual Research Achievements |
大谷探検隊・ドイツ探検隊収集の漢字仏典統合データベースの構築に向け、既存データを精査するとともに、各地に分蔵される原資料を閲覧してデータベースに新知見を追加した。 研究代表者は、2014年8月18~28日に、ドイツ・ベルリンに出張した。その目的は、2012年度中に通覧したドイツ隊収集漢字資料以外に、SHT(ブラーフミー文字サンスクリット語)という新しい登録番号に再編された資料中に、未知の漢字面が含まれることが判明したからである。この資料はベルリンの国立図書館に所蔵され、「ゲッティンゲン科学アカデミー・ドイツ所蔵東洋写本目録編纂」部門の研究員であるSimone-Christiane Raschmann氏の紹介により、22点の資料を実見することができた。そして、仏典については、大正新脩大蔵経収載典籍との同定や書写年代の確認作業を遂行した。 また、データベース構築の過程で接合が推定される断片群について、現物資料にもとづく照合調査を行い、既刊目録で明らかにされていなかった接合例が10件以上存在することが確定した。 一方、「ベルリン・ブランデンブルク州立科学アカデミー・トルファン研究所」においても、U(ウイグル文字)に分類された資料の中に、従来知られていない漢字面の含まれる1点があることを森安孝夫氏が指摘され、大正蔵に同定される仏典の一部であることを確認した。 次に、大谷隊収集資料については、同年10月27・28日に、1992年以来、学術交流を継続してきた本学「西域文化研究会」と中国・旅順博物館との友好提携書をとりかわし、国際学術会議「中央アジア探検とその将来資料が結ぶ国際交流」を開催した。本会議は、日本・ドイツ隊帰還100周年記念として、旅順博物館館長・王振芬氏、トルファン研究所前所長・ペーター・ツィーメ氏を招聘し、本学「アジア仏教文化研究センター」との共催として公開実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ドイツのベルリン・ブランデンブルク州立科学アカデミー、および中国・旅順博物館関係者の協力を得て、漢字仏典統合データベースの構築のための基礎的資料を閲覧・新知見を加えることができた。さらに、上記の通り、龍谷大学において、国際学術会議「中央アジア探検とその将来資料が結ぶ国際交流」を開催し、同時期(1902-1914)にほぼ同地域を探検して貴重な文献資料を収集した、大谷探検隊およびドイツトルファン探検隊の学際研究においては、関係する研究機関が連携しておこなうことの学術的意義を共有することができた。 また、2015年2月23日に、公益財団法人東洋文庫に出張したが、同文庫には、中央アジア出土の仏教文献が多数蔵されている。その中で、本研究課題にかかわる大谷探検隊の隊員のひとり・多田等観の収集資料の一部も蔵されている。こちらは、20世紀初頭のチベットで収集したチベット語文献であるが、最古形を保持している漢字仏典写本の流伝やテキストの定着過程などの研究においては、チベット大蔵経との対照研究も重要な意味をもつ。河口慧海がチベットより将来したと伝えられているチベット仏典写本中、金泥で書写された『妙法蓮華経』のほか、同文庫に所蔵される、仏教仏典中の蔵外文献や『ニンマ派全集』など、チベット語資料を実見することができたほか、大谷光瑞によってチベットに派遣された多田等観収集資料の閲覧調査をおこなうことができた。 また、別資金ではあるが、同年3月6日に旅順博物館を訪問し、同館の協力を得て「旅順博物館と龍谷大学との学術交流~最新の研究成果より」を講演し、一般参加者に研究成果を還元した。 以上のように、本研究課題としては初年度にあたる研究期間内に、国外における新資料の発見にともなう研究の進捗、国内における資料収集、およびこれまでの研究成果の公開の実現が可能となり、バランスよく進捗したと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで同様、漢字仏典写本の統合データベースの構築に向け、データの精査と画像データの整理をおこなう。そのためには、これまで以上に、専門的な職能を有する研究補助員を採用し、目録作成、公開のためのステップを着実に踏んでいく必要がある。そのため、データの精査や目録作成のためのアルバイト数名を採用し、ドイツ隊と大谷隊の収集した資料に関して、既刊目録や、従来構築してきたデータベースの合併・精査をおこなう。さらに、旅順博物館の協力を得て、公開されていない写本の画像データの公開に向けた調整をおこなう。 イスタンブル大学図書館所蔵資料については、本学百濟康義氏と同大学Sertkaya氏との間で暫定目録(1987 )が作成されたが、配布が一部の研究者に留まり、長い間内容が紹介されることがなかった。その後、西脇常記『中国古典社会における仏教の諸相』(2009)の中に漢字仏典の同定結果が書誌データとともに提示され、飛躍的に進んだと言える。しかし、未だ全点目録のない状況に変化はなく、ドイツ隊および大谷隊との総合的対照研究の研究成果とともに出版が期待されている。すでに漢字仏典資料の同定データはほぼ完成しており、出版に向けた環境が整えられている。 この他、研究代表者は、本研究課題の遂行に先立つ2013年3月にヘルシンキ市内のフィンランド国立図書館でマンネルヘイム収集の漢字資料を実見し、これまで未同定であった漢字仏典を新たに大正新脩大蔵経所載仏典に同定した。最近では、小口雅史氏、片山章雄氏によって旅博所蔵資料と接合する断片が確認されており、大谷隊とドイツ隊の収集品の位置づけを知る上でも、当該コレクションも視野に入れる必要がある。こちらもデータを扱える環境が整っており、最大限活用していく。 以上、これまでの研究成果を継承しながら、今後、より精度の高いデータベースの構築に向けて着実に前進していきたい。
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Causes of Carryover |
本年度は、ドイツ出張と中国からの研究者の招聘が中心となったが、当初予定していたトルコへの出張が現地研究者の都合によりできず、旅順博物館館長他の研究者の招聘にあてた。また、当初は予定していなかったが、データベース作成用にノートブックパソコンを購入した。 一方、当初予定していた研究補助員へのアルバイト謝金を支出できなかった。これについては、翌年度に実施する予定である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度は、データベース構築を一層推進するため、夏季に予定しているドイツ(ベルリンブランデンブルク州立科学アカデミー・トルファン研究所等)とトルコ(イスタンブル大学図書館)への出張費、および、研究補助員を雇用して目録作成とデータの精査にあたってもらう予定である。 旅順博物館の所蔵データについては、国際敦煌プロジェクト(IDP)関係者と今後の画像データ公開の方向性等について協議する。また、状況が許せば、新疆ウイグル自治区博物館など、新疆地区の所蔵機関を訪問して、漢字資料を閲覧し、データベース作成について協議する。
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