2014 Fiscal Year Research-status Report
「チベット医学と仏教の生命論―『ユトク・ニンティク』の研究―」
Project/Area Number |
26370073
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Research Institution | Kyoto Bunkyo University |
Principal Investigator |
永澤 哲 京都文教大学, 総合社会学部, 准教授 (40388210)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | チベット / 伝統医学 / 密教 / ゾクチェン / ニンティク / 四部医典 / 治療法 / 生命 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、文献研究、現地調査を二本の柱としている。そのうち現地調査については、インフォーマントに予定していた高僧、医僧があいついで示寂されたため、場所、時期、インフォーマントを変更して実施した。以下の研究を行い、3本の論文(和文2、英文1)を公刊した。 ① 『ユトク・ニンティク』の修行道程の概要について明らかにするとともに、その中における医学理論の意味、治療法のおおまかな内容、位置づけを明らかにした。『ユトク・ニンティク』の医学理論、治療法は、『四部医典』とほぼ重なるが、密教の修行を行った後はじめて臨床で実践できる独自の治療法(「外的治療法」に属す)が存在することがわかった。この点は従来まったく知られておらず、重要な発見であった。今後、『四部医典』の外的治療法と比較して、論文としてまとめる予定である。また『ユトク・ニンティク』には、『四部医典』とは全く異なる夢解釈があり、問診における夢の理解は、アーユルヴェーダ、後期密教、および中国医学に由来する三つの層を持っていること、目や耳をはじめとする感覚器官の望診と深くつながっていることがわかった。この点もきわめて重要な発見であり、すでに学会において発表した。今後論文としてもまとめる予定である。 ②『ユトク・ニンティク』が属す「ゾクチェン・ニンティク」の哲学とヴァキャブラリーについて研究した。その一部については、論文としてまとめ、学術誌に発表した。 ③20世紀に出現した密教医学の啓示文書およびシチェ派の治癒儀礼について、調査を行い、『ユトク・ニンティク』と比較した。今後とも調査を継続する。 ④チベット医学では、悪霊による病に対しては、馬頭観音をはじめとする忿怒尊の修行を行うことがある。これらの本尊が、民主化のプロセスにあるブータンのナショナル・アイデンティティの形成に大きな影響を与えていることを明らかにし、国際学術誌に論文として発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
『ユトク・ニンティク』について、文献および臨床の両面から、概要を明らかにするとともに、従来理解されていなかったポイントについて、新たな発見をすることができた。現地調査については、上記の事情によって、調査地、時期、インフォーマントを変更したが、十分な成果を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
基本方針に大きな変更はない。文献・現地調査の両面から研究を推進する。調査地、時期については、現地の事情について最新の情報を集め、最大限の成果が得られるように、必要に応じて変更することがありうる。
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Causes of Carryover |
旅費、物品費(書籍資料等)の立て替え払いの一部が未清算のまま、次年度に繰り越しになっているため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
前年度からの繰り越しを清算する。使用計画に基本的に変更はない。
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