2015 Fiscal Year Research-status Report
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26370187
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
江村 公 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 特任講師 (50534062)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ロシア・アヴァンギャルド / 近代芸術 / 記憶文化研究 / 現代美術 / ロシア革命 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度、前年度の資料収集・研究の成果として、8月に幕張で開催されたICCES(International Council for Central and East European Studies)で、"The Return of Images from the Past: Reconsidering the Post-Suprematist Paintings of Kazimir Malevich"と題し、マレーヴィチの晩年の農民像にみられる個人的記憶と集合的記憶に関する口頭発表を行なった。さらに、表象文化論学会ニュースレター《REPRE》で、前年度視察を行なったサンクト・ペテルブルクでの芸術祭「マニフェスタ10」の報告を投稿した。本稿は、ソ連時代の記憶、90年代のペテルブルクのアート・シーン、革命時の忘れられた記憶をおもな主題とするものである。くわえて、大阪市立大学紀要『人文研究』に、1917年革命前後の都市装飾、および戦時共産主義時代の記念碑性の意義について再考を目指した論考「総合芸術とアジテーションのはざまに――十月革命の記念碑性」を投稿し、掲載受理された。 一方、出張・資料収集については、平成27年度夏期、トルコでのイスタンブール・ビエンナーレ、ロシアでのモスクワ・ビエンナーレを実見することができた。前者は第一次世界大戦中のアルメニア人に対する虐殺の出来事を記念し、また、トロツキイが亡命後に滞在していた場所が作品展示に使われており、記憶文化という観点から重要であった。後者では、ソ連時代の共同性の再考が主題となっており、過去の記憶を現代アートがいかに表現しているかという点で、きわめて有意義な視察であった。さらに、昨年度の終わりには、モニュメンタリティの現代性の考察で本研究で重要な位置を占める、イザ・ゲンツケンの個展をアムステルダムで視察し、ロシア・アヴァンギャルド作品の重要なコレクションを持つアムステルダム市立美術館でマレーヴィチに関する資料調査を行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度は記憶をめぐる表現のひとつのあり方として、非常に充実した芸術祭を実見することができ、マレーヴィチの晩年の絵画における記憶とノスタルジアのテーマについては、研究発表と補足資料の充実を含め、大きな成果があったため。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度夏期にはサンクト・ペテルブルクを中心にロシアでの資料調査をすすめる予定である。昨年度までの研究調査で詳細が明らかになりつつある芸術批評家ニコライ・プーニンについてペテルブルクの文学・芸術アーカイヴ等で資料収集・文献調査を引き続き行ないたい。くわえて、戦時共産主義からネップ期における美術館・博物館での美術品の収集・運営方針の調査を通して、ロシア革命に際した記憶の断絶と継承について検討する。こうした調査・検討において、革命期とネップ期における記念碑の意義の差異が明らかになるはずである。 今年度後半には、表象文化論学会、ロシア文学会等で研究発表を行なう。とくに、イザ・ゲンツケンなど現代のアーティストが歴史的アヴァンギャルドの成果を踏まえ、モニュメンタリティの新たな表現をインスタレーションの形式によって、どのように模索しているのかについて明らかにする。あわせて、記念碑と記念碑性についての現代における批評・先行研究についての整理を行ない、考察をまとめる作業を進めていく。こうした研究をすすめながら、昨年度の視察・研究の成果を踏まえ、査読付き学会誌への投稿を目指す。
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Causes of Carryover |
昨年度末のオランダ出張の際、燃油サーチャージが下落し、当初の予想よりも大幅に航空運賃が安かったため、結果的に出張費が余ることになり、旅費を繰り越すことになった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
資料整理・保存のため、外付けメモリーを購入する。なお、残額は書籍購入費に用いる。
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