2016 Fiscal Year Research-status Report
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26370187
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
江村 公 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 特任講師 (50534062)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ロシア・アヴァンギャルド / 近代芸術 / 記憶文化研究 / 現代美術 / ロシア革命 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度、前年度までの資料収集・研究の成果として、9月に上海、East China Normal Universityで開催された第7回East Asian Conference on Slavic-Eurasian Studiesにて、"Imagination on the (no)borders--Representations by Japanese contemporary artist on the Northern border Territory"と題し、英語による口答発表を行なった。本発表はロシアと日本の間の境界地域、特にサハリンをめぐる歴史的記憶をめぐって、現代の日本のアーティストたちがどのような表象を行なっているか、また、視覚的イメージをとおして境界地域の過去と未来をいかに映し出そうとしているのか、歴史的記憶と芸術家の想像力の関わりを問う、記憶文化の理論的側面の考察である。 さらに、国内では平成28年12月に日本ロシア文学会関西支部秋期研究発表会にて、「記憶の場とその書き換えの試み--ロシア・アヴァンギャルドと美術館」というタイトルで、口頭発表を行なった。これは美術館をひとつの「記憶の場」とみなし、革命後の新しい美術館創設とそのコレクション形成において、文化的記憶の書き換えがどのように行なわれたのか、その初期の試みを明らかにすることを目的とした。 資料収集の面では、平成28年度2月に、北海道大学スラヴ・ユーラシア研究センターにて、十月革命前後の芸術雑誌のマイクロフィッシュの中から、美術館や芸術制度に関する記事を確認した。また、年度末3月のロシア出張において、革命後のロシア美術館再編の際に現代アート部門を創設した美術史家ニコライ・プーニンに関する資料に焦点をしぼり、個人アーカイヴを管理している遺族に面会し、貴重な資料の一部の提供を受けた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
資料収集に関して、ニコライ・プーニンの遺族からいくつか貴重な資料の提供があっただけでなく、今後の研究遂行において全面的な協力を申し出ていただいた。プーニンの遺族は、ロンドンのロイヤル・アカデミー・オヴ・アーツで今期開催された大規模なロシア・アヴァンギャルド回顧展に協力しているだけでなく、アメリカでのプーニンの日記の翻訳出版、芸術家タトリンについてのロシア語による資料出版への助言を行なっており、個人アーカイヴを管理している。そこにアクセスできることは、今後の研究の遂行にも大きな助けになるため。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は本研究課題の最終年度にあたり、十月革命を象徴する記念碑とその記憶・想起に焦点を合わせつつ、特に年度の後半は今まで収集した資料の整理とその翻訳作業を中心に、資料の出版準備に集中的に取り組む。 現代的記念碑、およびインスタレーションの考察については、今期、10年ぶりにドイツでミュンスター彫刻プロジェクトが開催されるため、カッセルで開催のドクメンタと合わせて視察し、立体作品の変容について検討する。 くわえて、資料収集の面では、8月から9月にかけてロシアのサンクト・ペテルブルク、モスクワで、美術アカデミーや文学芸術アーカイヴで引き続き調査を行なう。ペテルブルクでは、十月革命後ロシア美術館改革に力を尽くしたニコライ・プーニンの活動について、遺族の協力の下、資料調査に従事する。現在、個人アーカイヴを管理する遺族側と9月の面会の約束をすでに取りつけている。モスクワでは、タトリンによる名高い《第3インターナショナル記念塔》の再制作モデルの制作経緯について資料収集を行なう。さらに余裕があれば、この塔の再制作モデルが最初に作られることになったストックホルム近代美術館を訪れ、その制作過程もあわせて調査する。 研究成果の発表に関しては、本年度は国内の学会を中心に研究発表を行なう予定である。まず、表象文化論学会では、1919年に発表された《第3インターナショナル記念塔》の再制作プロセスと未完に終ったこの作品が現代の立体作品にどのような影響を与えてきたのかについて発表を行ないたい。また、日本ロシア文学会では、十月革命後の芸術組織の再編、美術館のコレクション収集方針に言及し、「記憶の場」としての美術館を通じて、どのように美術史を書き換えようとしたのか、明らかにする。こうした日本での学会発表と並行し、現代における歴史的記憶の表象とその理論的側面について英文での論文投稿の準備に取り組む予定である。
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Causes of Carryover |
昨年度夏期にロシアに資料調査に行く予定であったが、体調不良で渡航できず、結果的に旅費が余ることになったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
昨年度の繰越金は研究室で使用するPCの購入資金に用いる。
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