2015 Fiscal Year Research-status Report
中世近世移行期の大名家における〈文化としての武〉の創成に関する基礎的研究
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26370208
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Research Institution | Aichi Prefectural University |
Principal Investigator |
中根 千絵 愛知県立大学, 日本文化学部, 教授 (80326131)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
龍澤 彩 金城学院大学, 文学部, 准教授 (00342676)
小助川 元太 愛媛大学, 教育学部, 教授 (30353311)
鈴木 彰 立教大学, 文学部, 教授 (40287941)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 〈武〉 / 表現・表象 / 書物 / 絵巻物 / 屏風 / 17世紀 |
Outline of Annual Research Achievements |
2年目の平成27年度は、初年度に始めた調査、資料収集を引き続き行い、さらに、資料の整理、分析、考察を行った。また、最終年度の成果発表に向けて、テーマとなり得る問題を幾つか抽出する作業を行った。 具体的には、各藩で作成された書籍目録を調査し、〈武〉を表現・表象する物語・絵本絵巻・故実書・兵法書等が収集、蓄積されていく過程を把握するため、まずは、毛利藩関係の目録と実物を照合しつつ、調査を行った。その中には別の藩からもたらされた『源氏物語絵巻』が含まれており、その書誌調査と写真撮影の後、担当の龍澤彩がそれの特徴について学会発表を行った。この資料については、極めて貴重なものであるとの判断から現在、出版準備中である。 次に、尾張藩の書籍目録の幾つかを昨年度、収集したが、さらに、今年もそれを継続し、中でも特に、「御文庫御書物便覧」と称される書籍目録に着目し、分析を進めた。その目録には、集めた藩主の名や書誌が記されており、担当である中根がそれを分析した結果、17世紀の書籍の収集の在り方には、始祖である徳川家康に対する尊崇の念が介在していることが明らかとなった。 また、今年度は、宇和島藩の資料について、伊達家のご許可をいただき、鈴木、小助川、中根の3人で調査を行った。その中に、越前高田藩の目録も含まれており、ちょうど、廃藩の時期が17世紀であったことから、本科研費のテーマに即した貴重な情報が得られた。これらの資料については、書誌調査と共に、写真撮影を行い、今後の分析のために資料の整理を行っているところである。 他に、来年度の成果発表の打ち合わせを行い、各藩の「八幡信仰と大名家文化の形成」をテーマに考えてみること、また、徳川美術館所蔵の「化物草子」のような物についての大名家文化の中での位置付け、三月の成果発表に向けての分担者それぞれのテーマを定めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
科研費2年目の今年は、初年度に引き続き、各藩で作成された書籍目録を調査し、〈武〉を表現・表象する物語・故実書・兵法書等が収集、蓄積されていく過程を把握する作業を進め、調査の過程で見出された新出資料・重要資料については、所蔵機関に配慮しつつ、翻刻や紹介を行うことを計画していた。各藩のうち、毛利家については、これまで詳細な研究がなされていなかった『源氏物語絵巻』を熟覧調査し、伝来や絵画表現についての新知見を龍澤彩が学会にて報告した。また、これについては、出版の準備も進めている。他に、尾張藩の書籍目録のうち、中根が重要な資料と判断した17世紀に収集された軍記物、兵法書の部分を翻刻し、論考をなした。 また、昨年度、調査の機会が得られなかった宇和島藩について、担当の小助川元太の尽力により、伊達保存会のご協力が得られ、宇和島藩の始祖に対する意識に関わる日記類、また、越前高田藩の書籍、道具目録等、貴重な資料を閲覧し、写真撮影することが出来た。この調査については、中根、小助川、鈴木の3人で行い、共有の知見と問題意識を得ることができた。 資料調査は、尾張藩は中根、龍澤、萩藩は鈴木、宇和島藩は小助川が担当し、各藩の①蔵書・調度品等の目録、②家譜・系図類、③戦国期について記した覚え書き、④兵法書(その近世的変容)を中心に分析することを計画していたが、このうちの①④については、分析を行うことができたものの、②③については、資料収集にとどまっている。また、関連諸藩の状況も視野に収めて情報の蓄積、整理する計画であったが、そこにまでは手が届いていない。 但し、上記にも述べたように、新出資料の発見、学会報告、昨年成し得なかった宇和島藩の調査も順調に進み、全体としては、おおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は、中世以来の実践する武という価値観から脱却し、平和の時代を志向する17世紀の価値観に即応するように、武的価値観が再編されていく様相を物語・絵本絵巻・屏風・故実書・兵法書等の内容と扱われ方の両面から分析し、把握する。具体的には、1,「神祇宝典」等の各藩の重要書物と大名文化の〈武〉の象徴としての八幡信仰の関係、2,吾妻鑑の諸本と儀礼を伴った扱われ方、3,貴久記の各藩での位置付け、4,和漢軍談のような対外的視点を有して記されたものの位置付け、5,本朝三国志、長久手記のような戦国期の事を記したものの位置付け、6,今昔物語集のような説話集の位置付け、7,化物草子のような豪華絵巻の作成について、分析を行い、学会等で成果を発表する。 1については、12月の学会で、八幡信仰と大名家文化の編成と題したシンポジウムを行い、そこで、成果を公開する予定である。また、それ以外については、3月に愛知県立大学のサテライトキャンパスにおいて、成果報告の研究集会を行う予定である。その際には、本研究に関連する研究者の方達から多くの知見を得るべく、研究集会のチラシを作成し、各機関に配布したい。 他に大名文化研究および中近世移行期の絵画史研究において重要な意義をもつことが明らかとなった『源氏物語絵巻』については、その写真と共に出版する予定である。また、上記の様々な研究成果については、各学会誌等に投稿する他、研究成果をまとめた刊行物の出版を行うべく準備にとりかかる予定である。 また、来年度は、全員で九州大学図書館での資料調査を行い、今年度、成し得なかった関連諸藩の状況も視野に収めて、情報の蓄積、整理するという計画を遂行したい。
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Causes of Carryover |
九州国立博物館に行く日が忙しくてなかなか決められず、予定が空いた段階で突然、行ったため、事前に書類を作成することができず、私費で旅費をまかなった事が原因として挙げられる。 ただ、今年度の次年度使用額の多くは、前年度、繰り越した分である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当初申請した額から減額された分、まかないきれないと考えていた九州大学への調査や研究成果の公開研究集会の準備等に使用する予定である。
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