2014 Fiscal Year Research-status Report
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26370277
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Research Institution | Wakayama University |
Principal Investigator |
今村 隆男 和歌山大学, 教育学部, 教授 (90193680)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 風景 / イギリス / 村 / ピクチャレスク / コテージ |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は、当初の計画通り最初の時代区分、即ちピクチャレスク前期に焦点を当てた。この時期の文献や現地調査から、以下のことが明らかにできた。 この時期に村の景観を扱った資料に旅行記があるが、その分析から明らかになったことは、旅行記はピクチャレスク美の対象だけを扱っており、そこに登場するのは理想化された村の遠景ばかりで、風景の装飾の地位しか与えられていないということである。現実の村が近景において描かれることはなく、描写における取捨選択が行われていることは明らかである。庭園内にコテージや村、或は村を含む農場が造られたり取り込まれたりすることがあったが、それらは全て装飾のためのものであり、その住人達も「幸せな貧困」を演出することが求められていた。William MasonのThe English Garden(1772~1781)などの庭園関係の文献からは、その詳細が読み取れる。 現地調査においてこの時期に建てられた新しいModel Villageを見ることができたが、それらは住居としての機能性や快適さだけが追求されたものであり、美観は殆ど考慮されていない。また、旅行記だけではなく建築論(John Woodなど)や農業論(Nathaniel Kent)を分析することで、当時の現実の村落は旅行記の中で描かれたピクチャレスクな村からはほど遠いものであった可能性が高いことがわかった。つまり、この時期はまだ理想と現実の間には大きな乖離があったことになる。19世紀以降においてヴァナキュラーな村落が一つの理想像とされていくが、1790年以前においてはヴァナキュラーな要素は評価されず、むしろ嫌悪の対象、そして近代化の中での改良の対象であるとみなされていた。ただし、機能性重視のModel Villageの景観を「美しい」と評する文献もあり、美をめぐる主観性が芽生えていたことが認められる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず、具体的な資料分析の進展度について報告しておきたい。本研究では、対象とする予定の文献を、ピクチャレスク前・後期、ロマン派期(~ヴィクトリア初期)の3つの時期に区分し、平成26年度においては、ピクチャレスク流行の前半期(1760~1790年頃)の文献を考察する予定にしていた。計画に含まれていた具体的な文献資料のうち、農業論(N. Kent)、旅行記(W. GilpinやThomas Westなど)は読むことができた。また、コテージのパターン・ブックについては読みやすかったこともあって予定よりも読解は進展し、J. WoodとJ. Plawを始めとしてピクチャレスクの影響が大きかった初期のパターン・ブックの全体像は把握できた。一方、美学書、特に予定していたA. Alisonの理論書を読むまでには至らず、様々な農業家の寄稿によるA. YoungのThe Annals of Agricultureにはとても手が回らなかった。 夏の長期休暇の時期に、予定通り連合王国において資料収集や現地調査を行うことができた。最も所蔵文献の多いロンドンのBritish Libraryと、当初の予定にはなかったがイギリス王立建築家協会 (Royal Institute of British Architects)でコテージ関係の資料収集が行えた。また、Nuneham CourtenayとBlaise Hamletといったモデル・ヴィレッジや、富裕層の領地内のコテージ・オルネ(装飾用コテージ)などの現地調査を実施した。次回の渡英においては、自然発生的に形成されてきた伝統的な村落の調査やその研究が必要である。 以上によって、ピクチャレスク流行の前半期の村やその建築に関して概観することができたので、完全にではないがおおむね予定通りに研究が進んでいると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
風景美に関する見方における次の段階、すなわち本研究が定めた第二段階であるピクチャレスク流行の後半期の1790年代の文献を主として研究する。この時期においては、Uvedale Priceの美学論から読み取れるように、また、J. T. SmithのRemarks on Rural Scenery(1797)のスケッチ集が示すように、村の貧困が有する醜の魅力がピクチャレスク美の中に組み込まれて行く。つまり、理想化された牧歌的な村の景観と同時に、貧しさが暴露された、或は強調された村の醜い景観とが、共にピクチャレスク美学において見る者に「快(pleasure)」を与える力を持つに至る時期であるとみなすことができる。相反する要素がいかに共存可能であったのかに焦点を置きながら、村の住人に対する見方や表現方法がどのように変わっていたのかなども含めて、本年度はピクチャレスク流行の後半期の資料を読み解きたい。 その際に、フランス革命を中心にした政治、社会背景を考慮する必要があると考えている。また、初年度に検証できなかったA. Alisonの美学論とThe Annals of AgricultureなどのA. Youngによる資料にも当たる予定である。
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Causes of Carryover |
次年度繰越金が生じた主たる理由は、資料収集の過程でイギリスの18世紀出版物を網羅したEighteenth Century Collections Online (ECCO)というデジタル・データベースの存在を知ったことである。このデータベースの活用によって、イギリス古書文献の購入の必要性が少し縮小した。古い第一次資料は購入する場合はかなりの額になるが、他大学に行く必要はあるがECCOを利用することで、書籍購入費が当初予定よりも少なくて済んだ。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度に繰り越した予算の使途については、研究(批評)書の購入や、国内出張費の増額などの対応を予定している。
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Research Products
(2 results)