2015 Fiscal Year Research-status Report
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26370277
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Research Institution | Wakayama University |
Principal Investigator |
今村 隆男 和歌山大学, 教育学部, 教授 (90193680)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ピクチャレスク / 景観 / 村 / コテージ / イギリスらしさ |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は1790年代の資料を対象とした。研究結果は以下の通りである。この時期における村の景観論に関して重要なのは、プライスの『ピクチャレスク論』初版(1794年)と、その中の建築論を拡充した1798年出版の第二版の第二巻である。小規模な建築の美観について論じている中で、プライスはコテージの集合体である村をも取り上げ、教会を中心にした村落の生活・機能面のみならず、美観についてもピクチャレスク美学の視点から注目している。村において形成されて来た住人の伝統的な調和共同体は、すなわち村の景観美にも結びついているという主張である。ナイトの『風景』(1794年)には村の景観という強い意識は見られないが、何事も「放っておく(neglected)」ことが美につながるという主張が見られる。 一方、J. T.スミスの『田園景観について』 (1797)のコテージのスケッチが示すように、村の貧困が有する醜の魅力もピクチャレスク美とされたが、その起源は18世紀前半に始まってピクチャレスク美学に取り込まれた廃墟趣味であると思われる。スミスの他にも、プローの『装飾農場』(1795)のような表面的なピクチャレスク趣味は住人の実情を顧みない富裕層の見方を表している。一方で、1796年結成のSBCPの中心メンバーのバーナードの小冊子『タドカスター近くのコテージと庭についての報告』が示すような実用的で「こぎれい」なコテージを貧困層に与える運動も始まった。そして、モルトンの『イギリスのコテージ建築に関するエッセイ』(1798)は、これら両方のコテージ像の統合を意図したと考えられる。モルトンは多様な建築観を融合することによってそこに「イギリスらしさ(Englishness)」を見出そうとしたが、それは19世紀の方向を占うものだったと予想できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず、具体的な資料分析の進展度について報告しておきたい。本研究では、対象とする予定の文献を、ピクチャレスク前・後期、ロマン派期(~ヴィクトリア初期)の3つの時期に区分し、平成27年度においては、ピクチャレスク流行の後半期(1790年代)の文献を考察する予定にしていた。計画に含まれていた具体的な文献資料のうち、最も重要な文献であると位置づけてた二つの資料、プライス(U. Price)の『ピクチャレスク論』初版(1794年)と1798年出版の第二版第二巻における建築論、及びナイト(R. P. Knight)の『風景』(1794年)の景観論については、詳細な分析を行うことができた。 その他、バーナードの農業改革論と、この時期に増えて来たモールトンらを始めとする専門職とアマチュア両方の建築家によるコテージやヴィラや村のパターン・ブックなどの分析をほぼ予定通り行えた。また、初年度に検証できなかったアリスン(A. Alison)の美学論における観念連合説と、ヤング(A. Young)の『農業年鑑(The Annals of Agriculture)』の一部なども概観できた。しかし、ソーン(J. Soane)のパターン・ブックなど一部の文献は読んでみた所、重要度が低いと判断したので分析を行わなかったものもある。 以上の研究活動によって、ピクチャレスク流行の後半期の1790年代の村やその建築に関して概観することができた。村全体よりも個々の建物(コテージ)に関する文献が多かったが、おおむね予定通りに研究が進んでいると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、18世紀後半のピクチャレスクに続いて19世紀に入ってからのロマン派時代の文献を読む予定である。この時代は産業革命の進展のもとで田園生活の評価が高まるのに加え、あるべき理想的な社会とはどのようなものかを考える中で「イギリスらしさ(EnglishnessあるいはBritishness)」が追求されていった時代であると考えている。具体的には、バーテル(E. Bartell)やエルサム(R. Elsam)、ロビンソン(P. F. Robinson)らの建築のパターン・ブックや、グリーン(W.Green)らの19世紀の旅行記の他、村についての記述があるワーズワス(W. Wordsworth)、コベット(W. Cobbett)、オースティン(J. Austen)、クレア(J. Clare)らの文学作品を研究対象に考えているが、その他にも関連する題材を取り扱った作品を探したい。 以上の文献分析の他に、この年度の長期休暇の時期に連合王国その他において二度目の資料収集を行う予定にしている。平成26年度に引き続いて最も資料が豊富であると考えられるBritish Libraryで文献資料を探す他、事前に調査をした上で各地の地域図書館も訪れたい。また、平成27年度の研究において本研究テーマと風景画との関連を考慮すべきであるという点に気づいたので、ヴィクトリア&アルバート博物館の美術部門などの絵画やその関連資料の調査も行いたいと考えている。その他、村に関わるイギリス、およびイギリスに影響を与えたと思われるヨーロッパの地域の現地調査もできれば行いたい。以上の活動のために、合計3週間程度の滞在を計画している。
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Causes of Carryover |
当初予定との差額が生じた原因は、研究対象としていた18世紀の文献のうちのいくらかの部分がWeb上で閲覧可能であることがわかったため購入する必要がなくなったことで、これは平成26年度と事情は同じである。また、国内旅費が、これも当初予定より少しだけ少なかったことによる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度は、海外渡航費がかなり必要となる予定である。また、文献の購入については、昨年度末に時間的な問題で購入が果たせなかった分がある。その他には、これまでの2年間の経験を踏まえて、より適切な資料の購入に使いたいと考えている。
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Research Products
(1 results)