2014 Fiscal Year Research-status Report
17世紀市民劇と18・19世紀徒弟小説の系譜学的対照研究
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26370295
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Research Institution | Tokyo Woman's Christian University |
Principal Investigator |
原 英一 東京女子大学, 現代教養学部, 教授 (40106745)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 市民劇 / 徒弟 / ベン・ジョンソン / ディケンズ / 小説の起源 / メロドラマ / カーニヴァル / レヴェルズ |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は主として資料の収集と分析を行った。17世紀の市民劇としてはベン・ジョンソン、トマス・ミドルトン、トマス・デッカー、トマス・ヘイウッドなどの作品が主たるものである。それらの作品の中において未来のジャンルである小説の萌芽がどのような形で現れているかを精査した。さらに、18世紀の代表的な市民劇であるジョージ・リロのThe London Merchantをあらためて分析した。その他、サミュエル・リチャードソンなどの18世紀小説の始祖たちの作品における演劇的要素の分析と整理を行った。 今年度の研究成果としては研究発表1件と学術論文1件である。研究発表は日本シェイクスピア協会のシェイクスピア学会において行ったもので、ベン・ジョンソンのEveryman Out of His Humour論である。このテクストはベン・ジョンソンの相矛盾する特質が最も顕著に見られるものである。一方では、芝居としての「かたち」を重視するというジョンソン劇の基盤が維持されているが、もう一方では、それを転覆するようなカーニヴァル的要素が頻繁に出現する。これまではジョンソンのカーニヴァル的側面が研究されてきたが、この発表においては、カーニヴァルではなく、Revelsとして、この側面を捉え直した。「法学院レヴェルズ」は、まさに「かたち」の中のカーニヴァルであり、ジョンソン劇の特質の起源であると言えるだろう。テクストの精密な分析の結果、このようなカーニヴァルないしレヴェルズを生み出す原動力は、1600年前後のイギリス社会に見られる変動であることが明らかになった。商業資本主義の発展は、農村においては穀物投機を促進し、都市(ロンドン)においては、商人階級によるジェントリ階級の侵食として現れる。 学術論文はマーク・トウェインとディケンズの関係を論じたものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
17世紀の「市民劇」と18・19世紀の「徒弟小説」との相関関係を分析することによって、Richardson、Henry Fielding、Smollett等の18世紀小説及びCharlotte Bronte、Dickens、Meredith、George Eliot、Gaskell等のヴィクトリア朝小説のキャノンを全く新たな観点から捉え直すのが、本研究の目的である。研究の初年度には、18世紀以降の演劇及び小説資料の収集を行う計画であったが、図書資料の購入、電子データの収集、ネット上のパブリック・ドメインの資料の蒐集・蓄積は順調に経過した。蒐集した資料の分析では、演劇と小説の双方における「ロマンス」的要素を中心に行った。17世紀のロンドン市民を中心とする演劇に見られるロマンス的要素について、19世紀のメロドラマと関連づけながら、歴史的変容について、ある程度のマッピングをすることができた。こうしたことを総合的すると、研究計画は順調に進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目以降の研究計画の推進方策は次の通りである。 初年度に引き続き、図書資料の購入、ネット上のパブリック・ドメインのデータ収集等を実施する。これまでに蒐集・蓄積した大量のデータを、データベース・ソフト等を活用して分析し、その結果はカード型データベース・ソフトにデータとして読み込み、随時利用できるようにする。 2年目以降の研究では、ヴィクトリア朝の徒弟小説と17世紀初頭の市民劇との有機的な相関関係の存在という仮説の実証に取り組む。そのための方策として、ディケンズ、コリンズ、ジョージ・エリオット、エリザベス・ギャスケル、ブラッドン等の作品における演劇的要素、なかんずくメロドラマ的要素の抽出と分析、比較対照が主たる作業となる。 2年目以降では、研究成果を研究発表、論文執筆などの形で発信する。予定としては、5月に開催される日本英文学会大会において、「メロドラマの諸相」と題するシンポジウムの司会・講師として、これまでの研究成果を発表する。論文執筆としては、日本シェイクスピア協会の機関誌Shakespeare Journalからの依頼論文として、初年度の研究発表内容を論文化して投稿する予定である。
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Causes of Carryover |
図書資料の購入において、使用額が赤字とならないように支出見込みを立てたが、納入価格が見込額よりもかなり安価であったため、残額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
前年度の残額は、次年度の図書資料購入費に組み込んで使用する計画である。
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