2015 Fiscal Year Research-status Report
17世紀市民劇と18・19世紀徒弟小説の系譜学的対照研究
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26370295
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Research Institution | Tokyo Woman's Christian University |
Principal Investigator |
原 英一 東京女子大学, 現代教養学部, 教授 (40106745)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 市民劇 / メロドラマ / 徒弟 / ベン・ジョンソン / 小説の起源 / メアリ・エリザベス・ブラッドン / ウィルキー・コリンズ / ジョージ・リロ |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度の研究では、初年度に引き続き、科研費を使用して図書資料の購入、ネット上のパブリック・ドメインのデータ収集を実施した。 今年度の研究は、前年度に17世紀初頭の市民劇の研究を集中的に行ったので、18世紀およびヴィクトリア朝の徒弟小説の研究を優先的に行った。とくに重視したのは、メロドラマとメロドラマ的小説の研究である。17世紀以降の西欧市民社会の発展は文学史においても重要な変化をもたらした。中でも、あらためて言うまでもないことであるが、フランス革命が与えた影響は多大であったことは再度強調されなければならない。革命は文学の面では演劇におけるメロドラマの誕生と隆盛を生み出すことになった。ピーター・ブルックスによれば、メロドラマには「ポスト聖性時代(post-Sacred age)のマニキアン的ヴィジョン(Manichean vision)」がその根底にある。既存の価値観とりわけキリスト教的価値観が転覆される時代(ポスト聖性時代)に大衆は単純な勧善懲悪の物語を求めた。メロドラマ的ヴィジョンは、すでに17世紀の市民劇の中に見ることができるが、イギリスの18世紀ではジョージ・リロGeorge LilloのThe London Merchantが代表的な作品である。さらに19世紀の大衆文学の中でメロドラマは広く浸透することになった。平成27年5月に開催された日本英文学会全国大会のシンポジウムにおいては、本研究の主題との本質的関連を視野に入れ、19世紀メロドラマの概観と個別テクストの分析を行った。19世紀の劇場についても研究を進め、とりわけメロドラマ上演の中心であったマイナー劇場の歴史をさらに詳細に研究した。17世紀市民劇の研究としては、ベン・ジョンソンの市民劇Every Man Out of His Humourについての論文を日本シェイクスピア協会の機関に投稿し、採用刊行された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
資料の収集に研究資金を集中してあてた結果、17世紀から19世紀にわたる必要な資料を相当数蒐集することができた。それらの分析にはデータベース・ソフトウエアを利用する予定であったが、多数の電子化テクストがネット上で大量かつ容易に入手可能になったという状況の変化があったため、データベース化の必要性が薄れたと判断された。そのため、分析にはテキストエディターを主たるツールとして使用するようになった。 本研究は17世紀から19世紀にいたる約200年という歴史を展望するものであるが、初年度には17世紀を中心とした研究を実施し、今年度には18世紀と19世紀の演劇を中心に研究を実施し、時代区分による研究が進展した。各年度に論文1本(計2本)を発表し、シェイクスピア学会で単独の研究発表を行い、日本英文学会大会でシンポジウムの司会・講師を勤め、研究成果を学界に発信することができた。その結果、研究計画の最終年度である平成28年度には、当初計画通りに研究のまとめを行う展望が確実なものとなった。 以上のことから、研究計画はおおうね順調に進展していると判断することができる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は研究計画の最終年度であるので、過去2年間にわたる研究成果のまとめとその対外的発信を中心とする計画である。蒐集した資料のうち、紙媒体によるものは、スキャナーで読み込むことで、できるかぎり電子化し、簡便に検索ができるようにする作業を行う。これらの電子化資料は、17世紀から19世紀までのものが中心であって、パブリック・ドメインとなっているものが大部分である。本研究のテーマに特化されたテキストのデータベースとして、ウェブ上に公開する。そのために独自のウェブサイトを構築する。研究代表者はウェブサイトの構築については、高度に専門的な技術は持たないが、HTMLの実用的な知識と十分な実績と経験を有するので、実用に耐えるサイトを自力で開設できると考えており、外注のための費用は計上しない。 研究成果の発信にはとりあえずこの独自構築のウェブサイト上で行う。国際的に発信するため、使用する言語は原則として英語である。研究全体を包括する内容の論文を英語で執筆する。資料のまとめ、新たに得られた知見の検討い時間を要すると思われるので、研究期間を越えての作業になると予想される。しかし、できるだけ早急に完成させて、国際的な学術誌に投稿することを計画している。今後数年を要すると予測されるが、単著としてまとめる作業も進めていく。
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Causes of Carryover |
購入を予定していた資料が研究機関の会計処理の期限までに納入されなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
これらの資料は研究機関の会計処理期限以後に納入されているため、次年度に物品費として使用する計画である。
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