2014 Fiscal Year Research-status Report
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26370383
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
天野 惠 京都大学, 文学研究科, 教授 (90175927)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
村瀬 有司 京都大学, 文学研究科, 准教授 (10324873)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | イタリア文学 / ルネサンス / アリオスト / タッソ / ベンボ『俗語論』 / 騎士物語詩 / イタリア語 / 言語問題 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究計画に沿って必要資料の入手とその整備を中心に作業を進めた。 第一に報告すべきは、ベンボ『俗語論』の初版を含む16世紀の重要な三つのエディション(Tacuino版1525年、Marcolini版1538年、Torrentino版1549年)のオリジナル刊本の入手に成功したことである。これらの刊本についてはすでにその写真をボローニャ大学をはじめとするイタリアの主要図書館より取り寄せていたものの、これらはいずれもマイクロ・フィルムに撮影されたものであるために情報量が限られており、印刷段階におけるアクセント記号やアポストロフ等の使用の実態を確認するに当たって不満の残るものであった。オリジナル刊本の入手に成功したことにより、細部に至るまで確実な検討を加えることが可能となったことには、研究環境の整備という観点からして大きな意味がある。これらの資料はいずれも写真撮影を完了したうえ、専門業者による修復を経て調査のための参照が常に可能な状態ある。現在進めつつある『俗語論』第三巻の記述の異同をカラー表示する作業に当たり、必要に応じて実物を確認できるメリットは計り知れない。 また、アリオスト関係の重要資料であるフェラーラ市立図書館蔵の通称 Frammenti autografi に関しては、未だ劣化の進んでいなかった20世紀初頭の貴重なレプリカを入手しており、これを高精度で撮影するべくフルサイズのデジタル・カメラによる撮影を準備中であるほか、タッソ関係ではナポリ国立図書館蔵『エルサレム征服』の草稿のデジタル資料化が完了している。 一方、ベンボ『俗語論』第三巻の調査も進行中である。テキストの正確な解釈に予想以上の時間を要することが明らかになりつつあるが、手稿の訂正痕を分かり易く表示する方法の開発ともども平成27年度には何らかの形で一定の成果を公表したいと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
一次資料の収集に関しては予想以上に順調に進展しており、全世界に150部程度しか現存しないと推定される貴重なベンボ『俗語論』初版本を含む16世紀の刊本を複数購入することに成功した。それら資料の写真撮影および映像処理も順調に進んでおり、この点に関しては予想以上に大きな成果を挙げることができたと言える。 一方、ベンボ『俗語論』第三巻の解釈およびその記述に関しては進捗の速度が当初の予測よりも低下してきており、実質的に全部で78章あるうちの10章までしか完成していない。しかしながら、これは原文の論理展開に予想をはるかに超える混乱が存在することによるものであり、可能な限り正確かつ精度の高い解釈を目的とする作業である以上、こうした論述の混乱が明らかになったこと自体も成果と見なされるべきであると同時に、時間は掛かれども根本的な困難に直面しているわけではないので、おおむね順調な進展と言って差し支えない。 これに対して順調と言いかねるのが、手稿 Vaticano Latino 3210 上の加筆・訂正を含む『俗語論』テキストの改訂表示である。当初はこの手稿から決定版たる1549年版までの計4種のテキストをひとつの文字情報化テキストに織り込む計画で作業を進めて来たのであるが、3つの刊本の異同に関しては順調に表示できたものの、手稿上の細かい訂正の跡までを同時に盛り込むことは断念せざるを得ない状況に追い込まれている。このこと自体いささか残念であるほか、これによって刊本3つを表示するテキストと、手稿と初版との異同を表示するのみのそれとの二つを整備する必要に迫られることから手数が増え、そのため時間的にも作業が遅れる結果となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
テキストの解釈そのものは比較的順調に進展しており、これを日本語訳および注釈の形で定着させていく作業も、速度はともかくとして特別な困難に遭遇しているわけではない。しかし、手稿 Vaticano Latino 3210 に残された加筆・訂正の後を、その順序等の情報を含めて表示して行く方法に関してはさらなる工夫が必要であることが明らかになり、これまでの作業で一応完成させた部分についても全面的な見直しを迫られている。具体的には手稿を含めた4種のバージョンをひとつの文字情報化テキストに収めることを断念して、【手稿/初版】と【初版/第二版/第三版】という二つに分けることを考えているが、この作業自体にそれなりの時間が掛かることは言うまでもないとして、これで果たして本当にうまく処理できるのかがいま一つの不安要因であり、とにかくこの作業を実際に開始した上でさらなる工夫が必要になるかどうかを確認したい。
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Research Products
(6 results)