2015 Fiscal Year Research-status Report
高尚/通俗文学の境界を侵犯する―ヴァルザーやグラウザーの戦略のアクチュアリティー
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26370389
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
Emde Franz 山口大学, 人文学部, 教授 (00209157)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 高尚文学・通俗文学 / 文学評論 / 翻訳 / 翻案・アダプテーション / ジャンル / メディア |
Outline of Annual Research Achievements |
本プロジェクトの第一弾として、平成26年3月に国際シンポジウム『「高尚文学と通俗文学」文化的横断・メディア的横断の視点からの再検討』を開催し、発表者にはここでの研究発表を基に学術論文を執筆してもらい、当シンンポジウムの論集を作成した。基調講演をはじめとして29論文をまとめ、前書きを加えて、ドイツの出版社に印刷を依頼した。 論集の第1部では、中世文学から現代の漫画やグラフィック・ノベル文化に至るまでの映像文化・文字文化の変容に関する研究をまとめた。第2部では、高尚・通俗文学が文学評論にどのように反映されているかについて分析し、日本や世界各地の文壇における文学評価の実情を解明していく研究が中心である。第3部には翻訳を始め、翻案やアダプテーションを解釈の視点から分析している研究がまとめられた。第4部は、文学評価に大きな影響を及ぼすジャンルに関する議論、とくに既成のジャンルの枠を超える作品について議じた研究が中心である。最後の第5部では、最近のデジタル技術も含めた文学作品の映画化に関する論文が集められ、メディアチェンジにおける内容の変化、市場や文壇における受容の課程等が分析されている。高尚文学と通俗文学について時代・文化圏・メディアを超えた議論を行い、国際的かつ超文化的アプローチによって、本テーマに関する多面的な議論を提供できたと自負している。また各セクションにおいても具体的成果を得て、現代の議論に貢献できたと思われる。 今後は文化・時代・メディアの複雑な関係を解明し、研究をさらに深める予定である。次回は、ウィーン開催の国際比較文学大会(ICLA 2016)でワークショップを開き、本研究のネットワークを広げ、議論を促進する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度の目標であった論集は、前書きを含めた30論文のうち8論文は英語で書かれ、そのうち7論文の原稿チェックをネイティブスピーカーに依頼した。シンポジウムにおいて日本語で行われた基調講演はドイツ語に翻訳し、日本語を母語とする執筆者6名のドイツ語・英語論文もそれぞれネイティブチェックを行った。シンポジウムでのセクション配分は、改めて論集に適した章構成に変更した。各原稿は基本的に3名の編集者による査読が行われ、執筆者による2度の校正を経て、印刷直前に最終チェックを行った。各論文には英語のアブストラクトが付記された。 本論集 ”Zwischen Kanon und Unterhaltung / Between Canon and Entertainment”(ISBN:978-3-7329-0179-1)は2016年3月中旬、ベルリンのFrank&Timme出版社から、1部470ページ構成で371部出版された(著者に各1部、編集者に各5部、宣伝用3部、合計46部の献本を含む)。また本論集は国際的に知られるライプチヒのブックフェアでも紹介された。 上記の研究論集では非母語による原稿が多数あり、翻訳や査読にかなりの時間と労力を要したが、最終的には平成27年度の期限を遵守することができた。編集作業は遠距離で行ったため多少問題も生じたが、結果的に計画どおりに年度の目標を果たすことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、ウィーン大学開催の国際比較文学学会(ICLA 2016)においてワークショップを企画しており、この国際学会で文学のハイブリッド性という側面から、本テーマに関する研究発表やディスカッションが行われる予定である。すでに学会事務局から許可を得て発表者を募集し、14名の応募者があった。現時点で12名の参加者によるワークショップを計画中である。 このワークショップでは、新たに見えてきた課題を把握し、それを次の研究段階に向けてまとめ、議論をより高いレベルで継続させる手がかりを探りたいと考えている。
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Causes of Carryover |
予算の予定額は次の理由で変更を生じた。一つ目は、論文の本数やページ数、または利用される画像などによって印刷コストが原稿完成してから全体のかかる費用が明確になった。二つ目の理由は、海外の出版社に論集を依頼したため、多少の為替レートの変動もあった。最終的には印刷コストを予算内に抑えることができた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度の残額は、平成28年度でウィーン大学開催の比較文学国際大会で開くワークショップのために利用する予定である。主に旅費や滞在費に充てる予定である。
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