2014 Fiscal Year Research-status Report
中国における日本近代文学受容の研究―魯迅・周作人編『現代日本小説集』を端緒として
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26370411
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
秋吉 收 九州大学, 言語文化研究科(研究院), 准教授 (90275438)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 中国近代文学 / 日本近代文学 / 魯迅 / 周作人 / 『現代日本小説集』 |
Outline of Annual Research Achievements |
中国で最初に出版された日本近代文学(翻訳)アンソロジーたる魯迅、周作人兄弟編訳『現代日本小説集』(1923年)を中心に、魯迅・周作人兄弟における日本近代文学受容状況を繙く作業について、当該研究初年度たる今年においては、魯迅を中心とする中国近代文学文献の調査と、日本の個々の作家の具体的状況調査から着手した。新聞雑誌(まずは『晨報副刊』『小説月報』『東方雑誌』など)への掲載状況等を詳細に調査し、中国への翻訳紹介の実態について分析を進める作業を開始した。 実績として、一年間に以下四篇の学術論文を執筆した。「被忽略的両个字―従語言学的角度再談《野草・影的告別》」(『国際魯迅研究』第2輯[台北:秀威資訊科技股分有限公司刊)、平成26年5月)では、魯迅の代表作『野草』を、7年にわたる日本留学生たる魯迅の言語感覚という新しい視角から研究した。「近代中国における大正文学の受容―『現代日本小説集』及び芥川龍之介を手掛かりとして」(『言語文化論究』第33号、九州大学言語文化研究院、平成26年10月)では、『現代日本小説集』に収録される日本作家のうちから、まず芥川龍之介を取り上げ、詳細に調査分析を行うことで新しい知見が得られ、一定の高い評価を得た。「“雑文家”魯迅的誕生」(『韓中言語文化研究』第36輯、韓国中国言語文化研究会、平成26年11月)では、魯迅の文学者としての意義について、日本を含む外国文学の影響を考慮しながら、従来の見解を修正した。ト鴻氏との共著「論中国現代詩人郭沫若1949年後詩作中的“紅色”思想変遷」(『言語科学』第50号、九州大学言語文化研究院、25~38頁、平成27年3月)では、九州大学に留学して重要な文学結社創造社を立ち上げた郭沫若について、新しい視点を提起した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績欄に記入したように、当該研究に関する学術論文を四篇、また研究発表、講演を七回行うことで、初年度の研究目的は、基本的に充足できたと考える。 なお参考まで、発表講演の内容は以下の通り。「“中日友好”歴史の一側面―語学学習の観点から」(第1回九州大学山東大学アジア研究シンポジウム 於中国済南市、国立山東大学、平成26年10月23日)、「従比較文学角度看徐玉諾文学」(首届全国徐玉諾文化学術研討会 於中国河南省立平頂山学院(大学)、平成26〔2014〕年11月1日)、「魯迅与日本近代文学―以佐藤春夫及大正時代的雑誌為中心」(国際魯迅研究学会第5回学術蘇州論壇 於中国 国立蘇州大学、平成26年11月21日)、講演「魯迅文学中的日本現代文学投影」「現代中国文学和日本文学的交流―以与謝野晶子的活動為中心」(於中国成都市、国立西南民族大学 平成26年12月4・5日)、講演「中国文芸思潮における日本現代女性作家」(於中国青島市、山東省立青島大学 平成26年12月22日)、「“諷刺家”魯迅の真面目 ―散文詩集『野草』命名論」(九州大学比文地球学府・山東大学学国語学院学術研究会 於九州大学 平成27年3月26日)。
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Strategy for Future Research Activity |
日本近代文学の中国における受容に関する研究について、今後もまずは研究課題の主要対象たる『現代日本小説集』を中心に研究を進める計画である。基礎的作業として、『現代日本小説集』の出版時期の異なる版本を原本にて入手し、テキストの異同の有無等を調査する。また各作家研究として、初年度にはまず中国文壇が特に注目した芥川龍之介を中心にその周辺にも目を配りながら研究を進め、成果を挙げることができた。今後は芥川からさらに進めて、佐藤春夫、有島武郎等の代表作家へと対象を拡げていく予定である。さらに、『現代日本小説集』収録作以外、また魯迅・周作人以外の、中国文壇全体の動向と、中国に紹介、移入された「近代日本文学」全体の状況を把捉、分析していくことにも注力していきたいと考えている。各雑誌に掲載された日本文学翻訳・紹介、また出版刊行された日本文学翻訳単行本を徹底的に渉猟し、それぞれの日本作家の翻訳、評論文章の著者がどういう人物であるのか、彼らは日本語、日本文学と如何なる接点を有するのか、また同時にその周辺(文学傾向、活動)の状況についても、詳細な調査を進める。そうした調査を通じて、日本近代文学が、中国における異なる文学観、歴史、制度の中で、どのように受容され、異化されていったのかを究明する。また、各作家・作品に対する中国(及び台湾)での評価が、日本での評価とどのように異なるかにも注目して、中国(台湾)と日本の文学観、引いては民族、文化基盤の相違について考察を行う。
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Causes of Carryover |
概ね、計画通りに使用できたが、予定していた外国書籍の購入がスムーズに行かなかったことなどあり、今年度の予算を完全にゼロにすることにならなかった。だがその額は全体の約5%に留まるため、研究遂行に大きな変更の必要は生じないと考えている。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
前年度に購入予定であった書籍等を当初の計画通りに入手することにより、研究に活用していきたいと考えている。
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Research Products
(11 results)