2015 Fiscal Year Research-status Report
脳科学的データを利用した工科系大学の英語教育プログラム開発に関する基礎的研究
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26370672
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Research Institution | Ashikaga Institute of Technology |
Principal Investigator |
飛田 ルミ 足利工業大学, 工学部, 准教授 (40364492)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | NIRS / 教育工学 / ATI(適正処遇交互作用) / 習熟度 / リスニング / シャドーイング / 脳科学 / 英語コミュニケーション |
Outline of Annual Research Achievements |
[研究の成果と概要] 効果的な英語指導法を検討するために、教育工学分野におけるATI(適正処遇交互作用)理論及び脳科学分野の知見に基づき研究を遂行した。具体的には、英語学習中の脳内活動をNIRSにより検討するため、学習者特性、課題の難易度、脳言語野における賦活部位に着目し次の通り実験を行った。 1)実験1:学習者特性は習熟度を、処遇はリスニング課題を適用し、①習熟度の差異により生じる課題遂行中の脳内活動の比較検討及び②習熟度、脳内活動の差異と記憶定着の関連性を検討した。習熟度が異なる学習者(下位群:5名、上位群:5名)にリスニング課題を実施して脳内活動を観測した結果、習熟度の差異と賦活部位の相関関係について統計的有意差は確認できなかったが、言語野周辺で賦活度の差は目視することができた。また内容再生テストでは、両群の平均点に有意差が[t(8)=3.111, p<.01]確認された。今後、脳内賦活度と記憶の定着に関してさらなる検討が必要であると示唆された。 2)実験2:課題の難易度に着目し、課題の差異が脳内の言語理解過程に与える影響を検討するために以下のように目的を設定した。①難易度が高い課題(シャドーイング)と難易度が低い課題(リスニング)遂行時の脳活動の相違点を検討する。②課題難易度の差異と記憶定着度を検討する。実験(協力者11名)の結果、リスニング課題実施時はブローカ野において脳血流に有意差は確認できなかったが、シャドーイング課題実施時はタスクによる脳血流の差が確認された。[Ch:43 t(272)=3.873, Ch44 t(272)=3.432, p<0.01] また内容再生テストの平均点における優位差は確認できなかった。 上記の脳内活動データにより、効果的な英語指導法を検討する際は、習熟度などの学習者特性を検討することが有用であることを示唆していると考慮される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
[本研究の最終目標と研究機関内における下位目標の達成度] 本研究は英語教育、教育工学、脳科学分野における知見を活かし、「仕事で英語が使えるエンジニアの育成」に役立つ英語教育プログラムに指針を提示することを最終目標として実験を遂行している。平成27年度の研究が順調に遂行した理由は次のように考慮される。 1)最終目的達成を目指した継続的な実験実施の過程において、必ずパイロットテストを実施し、改善点があれば早急に解決策を検討し本実験に取り組んだ。平成27年度は、前年度の研究成果及び改善点から次の4点について再検討し実験計画を綿密に再設計した。①学習効果と脳活動の関連性を明確化させる。②学習者特性の差異(習熟度上位群、下位群)による、脳活動賦活部位の比較を精緻化させる。③習熟度下位群の脳活動に着目し効果的なストラテジーを検討する。④課題の難易度の差異による脳活動の変化を検討するために、リスニング課題にスピーキングを伴う課題を加える。これらの改善点に即した研究の下位目標を設定し、数回パイロットテストを実施した上でさらに改善点があれば実験計画に改良を加え,本実験へと移行した。教育工学分野では「途次の評価」と「総括的評価」が重要視されているため、本研究においても評価の結果は早急に実験実施に反映させた。そのため常時実験計画に改善を加え、新たに検討するべき変数や項目を模索し、最終目的達成を心がけている。 2)本研究に携わる実験協力者(学生)に対し、NIRS等の実験機器の使用方法やデータ解析法、認知科学、脳科学的知識等に関する指導を徹底しているため順調な実験遂行が可能となった。 3)国内外の学会に参加して発表や聴講により知識を深め、常に最新の研究動向を把握し本研究に反映させるように心がけた。国内の学会では、NIRSに関連した研究会を実施し研究の動向を紹介し、実験のデモンストレーションを実施した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の最終年度である平成28年度は、過去2年間の研究成果を国内外の学会で発表すると共に、世界の最新研究動向から得られた知見及び本研究における改善点を基に、以下の手順で効果的な英語教育プログラムの構築に指針を提示する。 1)追実験の実施:過去の研究結果に基づき、次の改善点に即して実験を遂行する。①実験協力者(被験者)及び実験機材の確保:英語課題遂行中の脳内活動の賦活部位を検討するため、学習者の習熟度に着目して実験を遂行した結果データでは、習熟度の差異による脳内賦活化の相違は目視できたが、統計的な優位差を確認することはできなかった。この結果は、被験者が未だ少なかったことが原因であると考慮される(実験1:10名、実験2:11名)。そこで平成28年度は、被験者を20名程度確保できるように実験環境を整え、実験協力者の募集を迅速に実施する。特に後期は学生が卒業研究でNIRSを使用するため、可能な限り前期中に本実験に着手できるよう準備を整える。②学習効果の明確化:学習効果と脳内活動との相関関係を検討するために、事前、事後テスト、及びアンケートを習熟度が異なるグループに実施した結果、テストの平均点で有意差が確認されたが、脳内活動との相関関係に関しては優位差を確認することはできなかった。そこで今年度は、事前、事後テストにさらなる改善を加え、測定部位に関しても再検討する。 2)効果的な指導法の検討:研究成果を実際の教育現場に反映するために、過去の実験で検討された、学習者特性と指導法や課題の組み合わせを再検討し、最終目的を達成するために、最も効果的であると推測される組み合わせを明らかにするために実験を遂行する。 3)新カリキュラムの構築:平成28年度の新入生に導入した新英語カリキュラム(統一授業と習熟度別クラスの見直しによる科目の細分化など)の効果検証を実施し、改善点があれば再考する。
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Research Products
(3 results)