2016 Fiscal Year Research-status Report
国家財政と危機対応~租税法・財政法の協働による世代間リスク分配の法システム探求
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26380037
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
神山 弘行 一橋大学, 大学院法学研究科, 准教授 (00361452)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 租税法 / 財政法 / 法と経済学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は,租税法と財政法の協働により,将来世代に過度の負担を強いることなく,危機対応の財源確保の新たな法的枠組みを探究することを最終目的としている。 研究計画の3年目である平成28年度は,前年度までの研究成果を踏まえて,研究計画書に記載した第1段階(事実解明的分析の体系化)及び第2段階(規範的分析の再構築)の研究成果の取りまとめとその公刊作業を進めるとともに,第3段階(租税法と財政法の統合による世代間でのリスク分配)の完成を目指しつつ,第4段階(最適な法制度パッケージの探究)の研究を遂行した。 具体的には,これまでの研究成果の一部を,(1)神山弘行「財政・時間・責任――時間整合的な財政統制の限界と可能性」法律時報88巻9号36-44頁(2016年),(2)神山弘行「税務執行の不確実性と納税者行動ーー租税法律主義の機能ーー」フィナンシャル・レビュー129号148-168頁(2017年)として公刊した。上記論文では,納税者や有権者の戦略的行動を勘案した上で,法制度の設計が必要であるとの視座から,財政制度や租税法制度について具体的な考察を加えた。また本研究課題から派生した研究成果として,(3)神山弘行「質問・検査手続の整備ー依頼人特権を中心に」日税研論集71号93-131(2017年)を公刊した。さらに,行動経済学の視点から租税法における立法政策論を再構築するべく,研究計画の第2段階の研究成果として,神山弘行「租税法と行動経済学ー法政策形成への応用とその課題」『現代租税法講座 第1巻(理論・歴史)』(日本評論社・近刊)の執筆作業を進めた。また研究成果を英語で広く国外に発信する観点から,上記(2)の成果をThe 8th IMF-Japan High-Level Tax Conference for Asian Countriesにおいて口答報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は,全4年間の研究計画の3年度目であり,研究計画書に記載した平成28年度までに遂行すべき第1段階(事実解明的分析の体系化),第2段階(規範的分析の再構築)及び第3段階(租税法と財政法の統合による世代間でのリスク分配)の作業の遂行及び,第4段階(最適な法制度パッケージの探究)の基礎的検討を概ね順調に遂行することができた。具体的には,租税法分野と財政法分野について,伝統的な「法と経済学」で用いられてきた合理的個人の存在を前提とする新古典派経済学だけでなく,限定合理的な個人の存在を加味する行動経済学(behavioral economics)など,隣接社会科学の知見を導入することで,事実解明的分析(positive analysis)を体系化するとともに,それを基礎に規範的分析(normative analysis)を再構築することで,租税法と財政法の統合的検討により世代間でのリスク分配について具体的考察を進めることができた。 平成28年度の具体的研究成果として,本研究課題に関連する学術論文を5本公刊するとともに,新たな複数の学術論文の執筆を進めていることから,研究計画全体としておおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は,研究計画の最終年度であることから,研究計画の第3段階(租税法と財政法の統合による世代間でのリスク分配)及び第4段階(最適な法制度パッケージの探究)までの研究を完了させるとともに,国内外での学術書及び学術論文の公刊や学会報告等を通じて,研究成果の積極的な公表に向けた作業を遂行することになる。日本語による研究成果の公表及び社会還元に加えて,英語による対外的発信も積極的に進める予定である。 具体的には,租税法と財政法の統合による世代間でのリスク分配に関する分析を基礎に,租税制度及び財政制度のみならず,他の法制度との相互関連性を考察の対象に加えることにより,「国家による危機対応」の最適な法制度枠組みを模索することになる。その際には,法制度の実体的側面だけでなく,執行などの手続的側面に関する考察も深める予定である。
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Causes of Carryover |
平成28年度は,旅費以外については,概ね当初計画通りの支出が行われた。なお,平成27年度より研究代表者の所属研究機関が変更となったことから,国内旅費の節減が可能となったことと,海外の聞取り調査の一部を相手方が来日した際に行うことにより,研究計画当初よりも効率的な利用に努めたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度は,研究計画の第3段階及び第4段階の完成のため,租税法や財政法のみならず,隣接分野や国内外の文献資料の収集も行うことになる。加えて,研究計画最終年度であることから,研究成果を国内外で広く発表するべく,国内旅費・海外旅費や,論文執筆・公刊の関連費用に研究費を使用することが見込まれる。
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