2017 Fiscal Year Research-status Report
所得・消費・資産・主観的データを用いた貧困基準の総合的研究
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26380372
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
駒村 康平 慶應義塾大学, 経済学部(三田), 教授 (50296282)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田中 聡一郎 関東学院大学, 経済学部, 講師 (40512570)
四方 理人 関西学院大学, 総合政策学部, 准教授 (70526441)
渡辺 久里子 国立社会保障・人口問題研究所, 企画部, 研究員 (30733133)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 社会保障 / 貧困・格差 / 最低生活 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、所得・消費・資産・主観的データを用いた貧困状況の多元的な把握および貧困基準の検討を行うこと、新たな貧困政策の導入効果の検証を行うことである。研究第4年目は、総務省『全国消費実態調査』や『就業構造基本調査』の個票データを用いて、日本の貧困・格差に関する実証研究等を行った。 研究第4年目の前半は、世帯所得の低下が「総中流社会」「持家社会」にどのような変容を引き起こしたか分析した。その成果は、生活経済学会関東部会等で研究報告するとともに四方・宮崎・田中編著『収縮経済下の公共政策』(慶應義塾大学出版会)、『週刊社会保障』、『共済新報』に掲載されている。 研究第4年目の後半は、日本の貧困を総括する論文を執筆し、その成果は駒村康平編著『福祉+α⑩ 貧困』(ミネルヴァ書房)等に掲載されている。また、所得格差や労働市場の格差についての分析も進めており、その成果はInternational Conference on Inequality 2017や一橋大学で開催された研究集会「ミクロデータから見た我が国の社会・経済の実像」で研究報告をした。 そのほかに、生活困窮者自立支援法が今後改正されることを踏まえた論考等を刊行した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究第4年目は、(1)日本における中間層や住宅費に関する分析、(2)格差・貧困の研究成果の刊行等を行った。 (1)日本における中間層や住宅費に関する分析では、世帯所得が低下する中において中間層の家計状況がどのように変容したのかについて検証した。第1の分析は中間層の規模の推計で、中間層の所得域を固定して推計すると、1994年から2009年にかけて中間層の規模が縮小していることを確認した。第2の分析は、中間層の家計の状況と住宅費の問題である。世帯消費のなかで、固定的な費用である住宅費が世帯所得に占める割合は上昇しており、さらに住宅費が世帯所得の40%以上を占める割合も上昇していた。特に、単身で民間賃貸に住む世帯の住宅費負担率は高く、また貧困率も高いことが明らかとなった。これらの研究成果は、四方・宮崎・田中編著『収縮経済化の公共政策』(慶應義塾大学出版会)等に掲載され、また生活経済学会関東部会で報告を行った。 (2)格差・貧困の研究成果の刊行等では、本研究事業で実施した研究の成果をとりまとめ、駒村康平編著『福祉+α⑩ 貧困』(ミネルヴァ書房)に3つの論文、四方・宮崎・田中編著『収縮経済化の公共政策』(慶應義塾大学出版会)に1つの論文を掲載した。所得格差については、日本における年齢別にみた所得格差の拡大について、親と同居する成人子の影響から分析を行った。その成果は、International Conference on Inequality 2017で報告した。また、雇用労働者の就労収入格差の要因分析を行い、雇用の非正規化と年功賃金の変化が労働者間の就労収入の格差拡大を引き起こしており、また、雇用労働者だけでなく、自営業や無業まで含んだ労働力人口内の格差拡大を明らかにしている。研究成果は、一橋大学で開催された研究集会「ミクロデータから見た我が国の社会・経済の実像」で報告した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究第5年目は、研究第4年目に引き続き(1)多元的な貧困の測定に関する分析を行い、(2)格差・貧困の規定要因の探索を行い、(3)税・社会保障の政策効果の分析を行う。(1)多元的な貧困の測定に関する分析では、所得・消費・資産に基づく貧困率の測定を行う。本研究では、総務省『全国消費実態調査』のうち年収・貯蓄票、家計簿票、家計資産票を統合したデータセットを構築している。そのため、所得・消費・資産分布を用いた貧困の分析が可能となった。研究第5年目においては、各貧困指標の属性別の集計をさらに進めるとともに、世帯消費や各消費項目の割合等を用いて、貧困線の検証も行う。これまでは、相対的貧困線を用いることで、貧困水準は所与のものとして分析を行っていたが、世帯所得が低下する中、相対的貧困線で捉えられる貧困には限界がある。 (2)また、追加的な研究として、所得についての格差・貧困を規定する要因についての探索も行う。家族構造の変化や労働市場の変化が所得格差や貧困率に与える影響を明らかにするため、総務省『就業構造基本調査』等のデータを用い、他の先進国との比較を行う。 (3)税・社会保障の政策効果の分析としては、所得税・消費税・社会保険料の所得再分配効果だけでなく、所得控除の変更や消費税の低所得者対策の分析などもマイクロ・シミュレーションにより実施する。
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Causes of Carryover |
(理由)当初予定では、研究第4年目が最終年度であったが、実施している研究や研究成果の刊行が終了しなかったことにより、補助事業期間延長の申請を行 ったとともに、第5年目の研究が遂行可能となるよう、一部研究費の繰り越しを行った。 (使用計画)次年度使用額については、学会参加費や英文校正等の費用に充てる予定である。
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