2015 Fiscal Year Research-status Report
高速取引時代における現物市場と派生証券市場の関係:高頻度データを利用した実証分析
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26380393
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
森保 洋 長崎大学, 経済学部, 教授 (10304924)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | マーケット・マイクロストラクチャー / 先物市場 / 高頻度データ |
Outline of Annual Research Achievements |
基本証券と派生証券という形で関連している二つの証券市場のうち、一つの証券市場の取引システム強化による高速取引の増加が、他証券取引所にどのような影響をもたらすかという問題意識のもと実証分析を行った。具体的には、2011年2月に大阪証券取引所に導入された派生証券売買新システムJ-GATEが現物株式市場の株式流動性に与える影響について検証した。 実証分析の結果、大阪証券取引所においてはJ-GATEの導入直後から気配更新回数が大幅に増加する一方、取引回数は変化がなかったことが明らかになった。高速取引の特徴として、気配値が頻繁に更新されることが知られており、この実証結果は、高速取引がJ-GATE稼働後極めて早い段階で活発に行われていることを示唆するものである。 東京証券取引所の流動性については、気配スプレッド率がJ-GATE稼働後に有意に縮小し、その効果は日経平均採用銘柄に顕著であることが示された。また、実効スプレッド率は日経平均採用銘柄についてJ-GATE導入後に縮小していることが明らかになった。 一方、デプスの観点からは、J-GATE導入の効果は認められず、市場の厚みについては、派生証券市場の取引システム高速化が流動性に影響を与えないことが示唆される結果となった。 以上の分析により、先物市場における取引システムの高速化は現物市場の質の向上にも貢献している可能性が高い。また、証券取引市場をデザインする場合には、現物・先物市場を分離して考えるのではなく、互いの影響を考慮して総合的な制度設計が必要であることが示唆される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究計画は、近年金融市場において台頭している高速取引が、(1)わが国証券先物市場の質に与える影響 および、 (2)現物-先物市場関係に与える影響 という2つのテーマについて、高頻度データを利用して実証分析を行うことを目的としている。 目的(2)については、おおよその実証分析結果を得ており、現在学会報告等で得られたコメントをもとに論文完成の目途が立っている。(1)についても実証分析が計画通り進んでおり、今年度中に論文が完成する可能性は高いと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
高速取引がわが国証券先物市場の質に与える影響についての実証分析をすすめ、今年度前半には研究報告を行う。そして報告でいただくコメントをもとに論文を完成し、学術雑誌に投稿する。また、高速取引が現物-先物市場関係に与える影響についての分析については、早急に完成原稿を纏め、学術雑誌に投稿する。
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Causes of Carryover |
研究連携者であるJing Yu(University of Western Australia准教授)のもとへ、分析結果の解釈と論文の構成について助言等をいただきに海外出張する予定であったが、先方とのスケジュール調整が不調に終わり、海外出張が実現できなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
分析結果が頑健なものかどうかを検証するために、サンプル期間を延長し、追加的な実証分析を行う。そのためのデータ購入費用に充てる予定である。
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