2015 Fiscal Year Research-status Report
中国農村社会における農地の生活保障的機能の変容と「新農保」制度に関する実証研究
Project/Area Number |
26380685
|
Research Institution | Iwate Prefectural University |
Principal Investigator |
劉 文静 岩手県立大学, その他部局等, 准教授 (80325927)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 「新農保」制度 / 農村の「養老」問題 / 農地機能の変容 / 農村住民の高齢化 / 農村の都市化・工業化 / 農地請負権と農業経営権の「ずれ」 / 村落構造 / 都市と農村の二元的構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、中国農村の急速な都市化・工業化そして農村住民の高齢化に伴って、農民の老後の生活保障に関わる「新農保」制度の導入状況について実証的に調査することである。そのねらいは、農村社会では国の政策がどのように浸透されているのかを検証し、政策の有効性と執行段階の問題点および現地農村社会の慣習と農民たちの生産・生活原理に基づく行動パターンの特徴と構造の把握によって、農村の「養老」問題解決の糸口を見出すことである。とりわけ、社会保障の機能を担う農地の機能の変容について焦点をあてて観察し、農地請負権と農業経営権の「ずれ」および農地経営権の移譲・転換に伴う新たな姿の「農地」機能の変容について、異なる地域から検証し、中国農村社会および農民と呼ばれる身分の農村住民の農地に対する意識の変化について探求していくことである。 平成27年度は、中国における海外研究者の実証的調査研究環境が激動したため、研究環境が比較的緩やかだと思われる東部地域の広東省という先進地へ対象地を変更し、この課題へのアプローチを試みた。具体的には、①珠江デルタ地帯の経済的発達地帯の博羅県園州鎮田頭村、②西南部の農業が比較的発達した茂名市民主鎮民主村、および③広東省の中心地である広州市における「城中村」の一つの長並村、という3ヶ所の現地調査を実施することができた。調査研究対象地の変更にもかかわらず、短い期間の中で華南農業大学の研究協力者のもと、本研究代表者が現地入りして農家訪問調査も実現できた。これにより今後の継続的調査研究の基盤を築いたともいえよう。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
日中関係が不安定の中で、しかも中国当局が海外からの地域研究に対して厳しく制限する情勢であるにも関わらず、平成26年度は調査研究地を、当初想定していた河北省・河南省から中国の中部地域の一つである湖北省に切り替え、華中農業大学農村社会学者3名の協力のもと、3ヶ所の市・県での現地調査を実施することを可能にし、一定の研究成果を上げた。具体的には2015年10月に開催された日本現代中国学会大会において口頭報告をすることができた。 しかし、さらに日中関係が悪化したため、平成26年度調査研究地3ヶ所の深入り、とくに農家訪問調査については、研究協力者および現地の鎮政府・村幹部からの協力を得ることが困難となってしまった。そのため、平成27年度はあえて無理をせずに、新たな地域での現地調査実施の可能性を模索した。幸いにも、華南農業大学の農村研究者の協力を得ることができ、研究課題の説明および検討を重ね、中国南部の広東省における異なる地理的条件、経済開発と発展の度合いの段階差などを考慮して5ヶ所の調査地を選定した。平成27年度1月から3月までの間に、①珠江デルタ地帯の経済的発達地帯の博羅県園州鎮田頭村の農家、②西南部の農業が比較的発達した茂名市民主鎮民主村の農家、③広東省の中心地である広州市における「城中村」の一つの長並村の農家(元農村戸籍、都市化後市民の身分になった住民)、の3ヶ所について訪問調査を実施した。うち、①と②は調査票による聞き取り調査を研究協力者に委託して実施している。 厳しい情勢とはいえ、研究協力者のもとで極めて効率よく、短期間で3ヶ所の現地調査を実施することができた。しかも、本研究代表者がいずれの現地へも入ることを可能にし、調査地の農村地域の状況を聞き取ることができた。これは大きな成果と言わなければならない。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は田頭村、民主村、長並村の農家に対し訪問調査を行った。今年度は同地域について主に村幹部およびその上部組織の鎮・県・市政府への訪問調査を行い、地域全体の動向を把握する予定である。また、広東省全体の地理的経済的な区分から、さらに、東北部にある山間地しかも貧困地域である梅州市五華県河東鎮での農家訪問(調査票による訪問調査)を実施する予定である。
|
Causes of Carryover |
昨年度、広東省で実地調査とくに農家訪問の実施協力を得られたのは年度の後半に入ってからであった。調査は、広東省の農村地域社会の全体像をできるだけ観察できるように、地理的経済的特徴の区分から5ヶ所を選定した。1月から3月前半にかけて効率よく3ヶ所の現地農家訪問調査を実現させたが、5ヶ所とはいえ、広大な面積を持つ広東省(北海道の2倍強の面積)を回るのは大変な作業であり、現地の農村幹部の協力と許可を得られるには時間がかかる。そのため、一部の地域を次年度(平成28年度)の調査条件が整った時期に実施することになった。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度は広東省内の5ヶ所において、調査票による農家訪問を中心とする聞き取りを実施する予定である。5月に梅州市五華県河東鎮にて、調査票(華南農業大学の研究協力者に依頼)による農家訪問調査を実施する予定である。7月、農業が比較的発達した西南部の茂名市高州(県級市)を調査対象に果樹野菜栽培が盛んな地域の農家訪問調査を行う計画である。9月に、広東省北部の韶関市周辺の農村地域の農家訪問調査を行う予定である。11月及び2月には、昨年度に調査を行った田頭村の再調査を行い、地域全体の経済的社会的状況、とくに都市化と工業化の進展に伴う農業用地の集積および農業経営者の転換などの状況について、より詳しいデータを収集する予定である。 最終年度の研究報告書の執筆に向けて、調査研究課題全体の読み直しとデータの集計・分析作業をした上で、今後の研究課題を深めていく道筋を示していく。
|
Research Products
(1 results)