2014 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26380735
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Research Institution | Hokkaido University of Education |
Principal Investigator |
森谷 康文 北海道教育大学, 教育学部, 准教授 (50455698)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
森 恭子 文教大学, 人間科学部, 准教授 (10331547)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 難民 / ソーシャル・キャピタル / ソーシャル・ワーク / ソーシャル・サポート / 社会統合 / エスニック・コミュニティ / オーストラリア |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、難民の移住国(地域)における社会適応や統合の促進の背景をソーシャル・キャピタルの構成要素を基軸に分析し、各要素の関係性や醸成される背景について整理することにある。2014年度は、難民の社会統合におけるソーシャル・ワーク実践とソーシャル・キャピタルに関する先行研究の整理、日本で難民支援を行う団体とオーストラリアでの難民支援団体及び難民当事者への聞き取り調査を実施した。 日本で難民支援を行う団体では、カトリック東京国際センター(CTIC)、日本国際社会事業団(ISSJ)、社会福祉法人サポート21から、支援内容と対象者の状況について聞き取りを行った。現時点での支援方法は、個別の生活相談が占める割合が多いが、エスニック・コミュニティやホスト・コミュニティを視野に入れた支援の必要性を感じていた。 オーストラリアでは、3月17日から24日まで、NSW州で難民を支援をするNPO「STARTTS(拷問と心的外傷体験者への治療と社会復帰支援サービス)」を拠点に、ミヤンマー・カレン族難民のコミュニティや小グループを対象にし、オーストラリア社会への所属意識や適応状況に関する本人の主観的意識を聞き取った。聞き取り調査の対象者の多くが、オーストラリア社会の一員であると感じる要素として、オーストラリア国籍の取得といった社会的地位の安定や英語の上達といった移住国での適応に加えて、エスニック・コミュニティへの所属や母文化・母語の維持といった双方が両立していることが感じられた。さらに、調査者らが使用した「integration(統合)」という言葉には違和感を感じると語る対象者も多く、代わりにオーストラリア社会へ「contribution(貢献)」していると感じることが、地域社会及びオーストラリアへの適応につながっていることを示唆する発言もあり、今後の考察を深める重要な機会となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
先行研究において、ソーシャル・キャピタルの概念や社会福祉及びソーシャル・ワーク実践における取り扱われ方については一定の整理したが、受け入れ国、特に日本での難民の社会統合とソーシャル・ワーク実践においてソーシャル・キャピタルがどのように認識され取り扱われているのかついては十分な整理ができてない。また、日本で生活する難民への社会統合や適応に関する聞き取り調査のガイドラインを作成する予定だったが、先行研究の整理の遅れから、完成には至っていない。オーストラリアでの調査では、予定以上に難民コミュニティとの関わりが深まり、参与観察と彼/彼女らの適応感などに関するデータが聞き取りにより収集できた。しかし、スケジュールの関係で年度末の渡航となったために、詳細な分析までには至らず、次年度に持ち越しとなっている。
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Strategy for Future Research Activity |
日本での難民支援団体の支援状況に関する聞き取りとオーストラリアでの調査を踏まえて、日本における難民の社会統合にかかわる聞き取り調査のガイドラインの早期の完成をめざし、日本での調査実施に着手したい。さらに当初は、難民支援におけるソーシャル・キャピタルの概念が浸透しているヨーロッパでの調査を計画していたが、今回のオーストラリア調査で難民コミュニティや支援団体との関わりが深まり、より詳細な聞き取りを実施できると考えられるため海外調査地域の変更を検討している。特に、オーストラリアでの調査では、ソーシャル・キャピタルの醸成を促進する要素として、国籍の取得といった社会的地位の安定やエスニック・コミュニティの存在、ホスト社会への貢献意識などが示唆されており、これらを踏まえた調査を日本とオーストラリアで行う予定である。
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Causes of Carryover |
先行研究の整理が遅れ、より進んだ文献調査のための費用が予定通りに支出できなかった。また、オーストラリアでの調査においては、英語でのコミュニケーションが中心となったため、エスニック・コミュニティの母語通訳が不要だったこととオーストラリアの渡航費用が予定より少なかったこともあり計画予算よりも少ない支出となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の調査では、日本で定住まもないカレン族難民やオーストラリアでのエスニック・コミュニティへのより詳細な聞き取り調査を検討しているため、通訳への謝金に使用する。また、今回の調査で明らかとなった「難民の社会統合」にかかわって「移民」と「ホスト社会」の双方のプロセスとしての社会統合をより深く理解するための先行研究調査にも使用したい。
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