2016 Fiscal Year Research-status Report
生きる力を育成する文章表現科目のプログラム評価と授業改善ツールの開発
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26381108
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Research Institution | Hokuriku University |
Principal Investigator |
山本 啓一 北陸大学, 公私立大学の部局等, 教授 (30341481)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大島 弥生 東京海洋大学, 学術研究院, 教授 (90293092)
成瀬 尚志 京都光華女子大学短期大学部, その他部局等, 講師 (60467644)
吉村 充功 日本文理大学, 工学部, 教授 (10369134)
伊藤 孝行 北海道大学, メディア・コミュニケーション研究院, 准教授 (00588478)
中村 博幸 京都文教大学, 地域協働研究教育センター, 客員研究員 (20105224)
藤 勝宣 九州国際大学, 法学部, 教授 (00217457)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 文章表現 / 知識活用 / 経験の言語化 / 学力の3要素 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度より、経験から得た知恵(身体知、暗黙知)をことばで表現する方法(「経験のことば化」と呼ぶ)を検討を続けてきたが、今年度は、哲学者・心理学者であるユージン・ジェンドリンが創始したTAE(Thinking at the Edge)という手法を用いて、実際に授業で実現可能な方法をいくつか試行したうえで、その成果をフィードバックできた。さらに、多人数が参加した公開ワークショップ等を実施するなど、広範な実践活動を展開することができた。 TAEはこれまで単独の表現活動・思考活動の手法として捉えられてきたが、文章表現科目の1つの手法として誰でも使えるツールとなっただけでなく、それを授業の中に組み込む方法についても実践例を積み重ねるができた。そのことにより、授業評価ツールに関しても、言語を用いた知識活用・課題解決型のリテラシー的文章表現授業と「経験の言語化」型の授業をいかに組み合わせるあり方を視野に入れることになる。 以上のように、文章表現科目のねらいや到達目標が広がりつつあることは、高大接続システム改革報告書やいくつかの中教審答申で提示されている「学力の3要素」論と関連していると思われる。文章表現科目においても、「知識・理解」を重視する」「語彙・文法志向アプローチ」、「思考力・判断力・表現力を重視する「リテラシー育成アプローチ」、そして自らの主体性・多様性・協働性に働きかける「リフレクションアプローチ」の3つのパターンとして分類可能であることが見えてきたが、それらを分断させることなく、複合化させた授業モデルを提示する見通しが得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「生きる力を育成する文章表現科目」とは、「知識・理解」「思考力・判断力・表現力」「主体性・多様性・協働性」という学力の3要素をバランス良く育成するための科目という意味であり、そのモデル作りについては、実践事例を積み重ねたことにより、大きな前進があった。特に、「主体性・多様性・協働性」に関わる「経験の言語化」に関する手法については、当初の予想以上の成果が上がっているといえる。TAEという手法をベースに、より汎用性の高い文章表現科目のあり方について、実際の教材や授業案作成といったレベルで検討を進めることができたといえる。 反面、当初想定されていた科目評価ルーブリックや評価ツールについては、作成を進めてはいるもの、3つのポリシーやカリキュラムツリーやナンバリング、ルーブリックの普及が多くの大学で進行しており、文章表現科目においても、当初の想定以上に大学全体としての教育プログラムの組織化や体系化が進行しつつある。したがって、科目単独の評価ツールを開発し、普及させる意義については、方向性の見直しが必要になってきたと思われる。 他方、「高大接続や社会人教育へと拡大する可能性を探る」という点については、キャリア教育の中で実施したり、高校の教員に対する研修等を実施するなど、対象を広げることができた。文章表現科目を初年次科目から拡大させるという点については、実践の場においても計画通り進行しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は本研究の最終年であり、「生涯学び続ける力としての言語能力や文章表現能力を育成する」という視点に立脚した文章表現科目の理論的モデルと評価ツール、授業改善ツールに関してまとめ、発表・発信を行う年である。本研究によって開発された評価ツールをホームページ等で公開することはもとより、各大学で開発された教材や授業ノウハウも集約し、それらの授業リソースとなる授業改善ツールも順次公開する。また、授業評価ツールを活用することによる授業改善について、成果発表会やワークショップを実施し、本研究の成果の普及に務める。 なお、進捗状況でも述べたように、大学教育改革が急速に進んでおり、文章表現科目においても、当初の想定以上に大学全体としての教育プログラムの組織化や体系化が進行しつつある。文章表現科目のねらいや到達目標は、全学および学部のディプロマ・ポリシーにもとづき、カリキュラムツリーやナンバリング等の中で、決定されるようになってきた。したがって、文章表現科目のシラバス等について、科目担当者が自由に変更できるという状況は急激になくなりつつある。また、高大接続に関しても急激に進行しており、入試改革等と連動する形で初年次教育も変化しつつある。これは、そもそも文章表現科目が「学士力やジェネリック・スキル、あるいはキー・コンピテンシーといった知識基盤社会において必要とされる能力を意識して授業設計が検討されることが少ない」という本研究の問題意識として当初設定されていた前提が変化しつつあるといえる。 したがって、今後は従来の研究計画に加え、各大学の文章表現科目のねらいや意義が、大学改革と連動する形でどのように変化していったかということについて、改めて調査を行い、そうした大学改革の動きが文章表現科目にどのように影響を与えているかについても明らかにしていきたい。
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Causes of Carryover |
今年度は、研究代表者等の大学の異動が発生したことなどにより、研究会を開催する回数が減少したため、旅費を中心に次年度に繰り越すこととなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は研究の最終年に当たるため、より頻繁に研究会を開催し、研究成果を出すことに努めていきたい。
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