2014 Fiscal Year Research-status Report
「共生」を実現する教育の実証的検討-「社会的カテゴリーの問い直し」に着目して-
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26381119
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
飯田 浩之 筑波大学, 人間系, 准教授 (40159562)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岡本 智周 筑波大学, 人間系, 准教授 (60318863)
庄司 一子 筑波大学, 人間系, 教授 (40206264)
水本 徳明 同志社女子大学, 教職課程センター, 教授 (90239260)
荒川 麻里 筑波大学, 人間系, 助教 (20389696)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 共生 / 共生教育 / 共生社会 / 生徒 / 教育学 / 社会学 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究初年度の本年度にあっては、主に生徒を対象とする「共生」に関わる調査の準備を行った。具体的には第一に、「共生」に関わる質問を設け、高等学校6校の生徒(1,633人)を対象に実施した「高校生のコミュニティとの関わり合いに関する調査」のデータを分析し、次の点を明らかにした。①「共生」の必要性が生ずる前提となる人と人のあいだの「違い」の認識において、高校生の場合、成人よりも幅広く、それを認識している。②「共生」という言葉の認知に関しては、成人よりも認知している割合が高くなっている。③言葉の認知に関しては、更に意味を知ることが「共生」に関わる社会問題の認識につながる傾向にあり、そこに「共生教育」の必要性が認められる。④高校生が想起する「共生」に関わる社会問題は、「近隣」「社会的カテゴリー間」「異世界間」「暮らし」の各問題に分けられる。⑤言葉の認知との関係では、認知が深まるほど高校生たちは問題を「社会的カテゴリー間」あるいは「異世界間」において捉える傾向を示している。この点において、「共生教育」の課題を「社会的カテゴリーの問い直し」として措定する本研究の視座の妥当性が検証される。 第二に、以上の結果を踏まえ、「社会的カテゴリーの問い直し」のもつ意味を理論的に検討しつつ、生徒調査について枠組みと調査票の検討を行った。具体的には、「社会的カテゴリーの問い直し」を「カテゴリー適用の柔軟性」として捉え、測定する方法を開発した。その他、カテゴリーを異にする人との接触経験や接した場合の受けとめ方、現在の日本社会におけるカテゴリー区分に関わる認識・意見等を問う質問を作り、調査票を完成させた。 第三に、調査対象校の選定基準を決定し、実査の準備を整えた。また、次年度以降に行う教員調査や実践事例調査に備えた情報収集を行い、「共生」を実現する教育の担い手についての知見を深めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「遅れ」は、予定していた生徒調査の実査を本年度中に終わらせることができなかった点である。 この点についての経緯を説明すると、本年度は、6月28日、9月25日、11月16日、11月29日の4回にわたって、全体の研究会を開催した。同時に、調査票原案作成のためのワーキング・グループを設置し、10月13日、23日、30日の3回にわたり会合を開き、調査票の原案の作成にあたった。このように、本年度の中心的な課題である生徒調査の実施に向けて精力的に取り組んできたものの、調査票を検討する過程で、理論ベースで抽象的に措定した「共生」「共生教育」の問題を、具体的な場面において生徒に問う調査票に下ろすことの困難に直面した。同時に、この点に関わり、当初、調査対象として想定していた小学生に関しては、発達上、この問題を的確に問うことは不可能ではないかとの意見が出され、調査対象を中・高校生に限ることにもなった。以上のような経緯により、調査票の作成に手間取り、調査票がひとまず完成したのが11月末となった。 調査票の完成を受けて、調査対象校の選定に入ったものの、年末・年始、更には年度末にかかるところから、調査対象校から十分な協力を得られる見込みが薄くなった。同時に、この時点において、本研究の事前調査としての位置づけをもつ「高校生のコミュニティとの関わり合いに関する調査」のデータを分析し、本研究の基盤を強化する作業に力を注ぐこととなった。 このような事情を背景に、年度中に条件が整わないなかで拙速に実査を進めるよりも、より、良好な条件のなかで実査を行う方がよいと判断、生徒調査の実施を次年度に送ることとなり、研究の計画に「遅れ」を生じさせることとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、早急に進める必要があるのは年度を越すこととなった生徒調査の実査である。この点については、第一に、協力校の選定に斟酌を加えることを考えている。すなわち、有意抽出であることから、これまで本研究のメンバーと何らかの関わりのあった学校に調査を依頼し、受諾の可能性を高めるとともに、実査の進行をより容易ならしめることを検討している。第二に、実査の遅れを取り戻すために、回収した調査票の入力において、短期雇用を増やしたり、場合によっては業者へ外注したりして、その効率化を図ることを考えている。第三に、実査の完了を待たずに、データの処理・解析に必要な準備を統計ソフト上で先に進めておくことを考えている。 今後は、研究2年目として、初年度の生徒調査に加えて教員調査、実践事例調査を実施していくこととなる。この点について、まず、教員調査において必要なのは、調査票の作成である。調査票の作成にあたっては、先の生徒調査と同様、研究会のなかに調査票作成のためのワーキング・グループを設けることで、原案の作成を円滑に進めたいと思っている。その場合、大学院の学生など、研究協力者の協力を、より、多く受けたいと考えている。なお、教員調査に関しては、対象校の数が生徒調査よりも多くなることから、その協力をどのように取り付けるかが課題である。この点についても、何らかの形で対応する予定である。 実践事例調査については、初年度において、研究会での検討のなかで、若干ではあるが適切な事例が紹介されている。更に事例の収集に努めるとともに、既に候補として挙がっている学校に対して協力依頼を早めに行うなどして、円滑な調査ができるよう努める予定である。また、必要な資料や情報をあらかじめ十分に検討するとともに、それを事前に先方に伝えることで、情報・資料を的確、かつ、円滑に収集できるようにしたいと考えている。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じたのは、第1には、生徒調査の実査が遅れ、それを次年度に先送りしたためである。実査に必要な物品の購入、実査の依頼・交渉、調査票の印刷・配布・回収、データの入力やデータ・クリーニングに必要な経費が支出されないままに残っている。第2に、他機関に所属する研究分担者が、職務の都合上、研究会に参加できなくなったことで当該研究分担者において旅費に残が生じ、それが次年度使用額を生み出している。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度に持ち越した生徒調査の実査を進めるためには、実査の依頼・交渉、調査票の印刷・配布・回収、データの入力など、本年度、計画していた通りの経費が必要である。この経費については、実査の進行に合わせて、適宜、支出する。研究分担者が、研究会に参加できず旅費に残が出たことについては、研究会の日程を細やかに調整することで改善する。未使用分は、実践事例についての情報収集に充て、次年度以降の研究をより充実させることにしている。
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